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SFアドベンチャーゲームの新たな一歩『アルトデウス: B.C.』【俺GOTY2020】

※この記事は有料に設定していますが、2021年1月の公開に間に合わなかったこともあって、最後まで無料で読むことができます

ゲームライターマガジン、2021年一発目のお題は毎年恒例となった(まだ2年目ですが)【俺GOTY(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)】です。いやー、今回は昨年以上に悩みました。

最初に結論から言うと。筆者が選ぶ2020年の【俺GOTY】は、MyDearestのVRアドベンチャーゲーム『ALTDEUS:Beyond Chronos』です。

これを見て「あれ?」と思う人が、もしかしたらいるかもしれません。なにしろちょうど1年前の【俺GOTY】に選んだのが、同じMyDearestの『東京クロノス』だったので。

2年連続で同じメーカーの、ある意味続編とも言えるタイトルを【俺GOTY】に選ぶのは、正直かなり悩みました。いろんなしがらみが……とかいう以前に、プロのライターとしては芸がなさすぎるのでw 実際のところ12月の途中ぐらいまでは、スマホゲームの『プロジェクトセカイ』を【俺GOTY】に選ぶつもりで考えていたんです。

以前にこのマガジンで書いたとおり、『プロジェクトセカイ』も本当に素晴らしいゲームで、一時期はかなりのめり込んでプレイしていたのですが。ただ、12月のアプデでイベントストーリーの読み返し機能が導入されたことで、オレ自身としては逆に、毎日切羽詰まってプレイしてイベントをクリアしなきゃいけないというモチベーションが薄れてしまい、ちょっとゲームとの距離が空いてしまったんですよね。

もちろん、このアプデ自体は当初から待望されていたものだし、ゲーム自体の問題ではまったくなくて、オレ自身が毎日コツコツ遊ぶタイプのゲームとあまり相性が良くないというだけの話であって。『プロジェクトセカイ』自体は運営も含めて(YouTubeを使ったユーザーに対する導線の作り方とか、サービスの展開も本当に上手いんですよね)、間違いなくGOTY級のタイトルだと断言できるのですが、上記のような理由で【「俺」GOTY】とするにはちょっと違うのかなと。

そして何より『アルトデウス:B.C.』を【俺GOTY】に選んだ最大の理由は、実際にゲームをアチーブメント100%までプレイして、「これはGOTYに推さないといけない」という、ゲームライターとしての義務感みたいなモノが芽生えたからです。

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ストーリーから演出まで、ゲームのあらゆる部分において前作の『東京クロノス』からものすごく進化しているだけでなく、VRの枠を超えたアドベンチャーゲームというジャンルにおいても、ひとつの到達点にまで至ったタイトルだと思います。それだけでなく、映画やアニメも含めたストーリー・エンタテインメントの中で、新たな領域を切り拓くものでもあって。これだけの作品をリリース直後の現時点からキチンと評価することは、ゲームライターとしての責務ではないかと、大げさな言い方ですけどそんな気持ちになったので。

というわけでここからは、『アルトデウス: B.C.』の何がどうスゴイのかというのを、具体的に語っていきたいと思います。

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巨大メカから電子の歌姫まで、SF要素の全部盛り!

さて。『アルトデウス: B.C.』がどういうゲームなのかは、下のPVを見てもらえばなんとなく分かってもらえると思います。

西暦2280年、謎の超巨大生物メテオラによって滅亡の危機に瀕した人類は、地下へと救いを求めた。メテオラと戦うために遺伝子操作で作り出された「デザインドヒューマン」である主人公クロエは、巨大メカ「アルト・マキア」を駆って、地上に襲来したメテオラに立ち向かう! 

と、こんな具合にロボ好き、SF好きなら燃えるストーリーになっている上に、PVにもあるようにVR空間内で巨大メカを操縦するギミックなども用意されています。とにかく巨大メカや謎の生命体、裏で何か企んでいそうな防衛組織の司令(CV: 速水奨)に倫理のネジが外れた科学者、そして電子の歌姫から百合まで、いろんなアニメやラノベのSF要素が全部盛り状態なんですよ(概要を見てなんとなく『エヴァ』っぽいと思う人もいるかもしれませんが、個人的にいちばん連想したのは『ラーゼフォン』でしたw)。

しかも、いろんな要素がただ集められているわけではなくて、SFとしてのクオリティがメチャクチャ高いんです。ネタバレになるので具体的には語りませんが、地下都市の設定やメテオラに関するアレコレなど、随所に「なるほど!」と思うアイデアが満載で。このあたりはSF考証も手がける高島雄哉氏が、シナリオに加わっているのも大きいのでしょう。

個人的にはこの『アルトデウス: B.C.』が、『サイバーパンク2077』とほぼ同時期に登場したことに、不思議な因縁というかシンクロニシティを感じていて。SF文学としてのサイバーパンクは、『サイバーパンク2077』で描かれたウィリアム・ギブスン的な世界感だけではなく、もっと多彩な広がりを持っているもので。自分としては「情報/生命工学の発達による人間性の再定義」というサイバーパンクの根幹が、電脳都市やハードボイルド・ノワールとはまた異なる形で、『アルトデウス: B.C.』の中に息づいているように思えるのです。……と、ここでいったい何を言っているのかピンと来ない人は、『アルトデウス: B.C.』のスピンオフ小説がハヤカワ文庫JAから刊行されるということだけでも覚えて帰ってください(汗)。

VRとしての体験が格段にレベルアップ

上記のように『アルトデウス: B.C.』の最大の魅力はそのストーリーですが、物語を伝えるVRとしての体験も、前作の『東京クロノス』から格段にレベルアップしています。上でも少しだけ触れたアルト・マキアの操縦シークエンスは、その筆頭ですね。

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自分の腕とアルト・マキアの腕をリンクさせて、まるでエヴァやGガンダムのように(ここでジャンボーグAとか言わないw)レールガンを自分自身で構えて発射する瞬間は、まさにロボ好きが頭の中でずっと思い描いていた夢の光景です! 

ほかにも、カーソルを使って室内の探索を行ったり、アイテムを自分の手で拾ったりと、インタラクティブ性のある場面が随所に登場します。前述の操縦シークエンスも含めて、こうした場面はあくまでフレーバーみたいなもので、メインはあくまで会話とモノローグによるストーリーパートなのですが、やはりこうした場面が挟み込まれることで、VRとしての臨場感がググッと上がりますよね。

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VRとしての臨場感という意味では、個人的には「場面の切り取り方の巧みさ」が印象に残りました。

前作の『東京クロノス』は渋谷という現実の街(といっても登場人物以外は存在していない特殊な空間ですが)が舞台になっていて。それはプレイ中に「あのスクランブル交差点だ!」とイメージを膨らませるのには良かったのですが、やはり現実を知っているぶん、「こっちには行けないのかな……」みたいに、ゲーム内での再現に物足りなさを感じることもあって。

ところが『アルトデウス: B.C.』ではSFという架空の世界が舞台になっているためか、場面の展開にほとんど違和感を感じることがなく、自然と物語に集中できるんです。具体的に登場する場面自体はそれほど多くはないのですが、それは地下都市という設定面からもあらかじめフォローされていたりするあたりが、じつに上手いなと感じました。

そして個人的に何よりシビレたのは、ゲーム中に登場するこの場面です。

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メテオラの襲来により荒廃した地上。そこに現れた球体が割れた中から顔を覗かせている、巨大な人間の姿をした<何か>……。

この、どことなく不安を覚えるシュールな光景を、VRによって「その場にいる臨場感」を味わいながら目撃することができたという、それ自体がある種、SF的な体験になっているのです。ぶっちゃけ自分としては、この場面を味わうことができただけでも、本作に合わせてOculus Quest 2を買った元が取れたと思いました(笑)。

とにかく『アルトデウス:B.C.』には、前作の『東京クロノス』からずっと積み上げられてきた、「フォトリアルではない(アニメタッチの)VR空間のリアリティ」が見事に構築されています。このあたりの感覚は、ぜひVRゴーグルを身につけて,実際に体験してもらいたいところです。

VRゲームの「主人公」とはいったい何者なのか?

さて。ここまでは、比較的誰もが実感できる『アルトデウス:B.C.』の魅力についてで、このゲームを多くの人にご紹介する際は、ここまでの話で十分だと思います。以下は本作をプレイしながら自分自身の中で考えを巡らせた話であって、あまり多くの人の共感を呼ぶ内容ではないかもしれませんが、【俺GOTY】ということで、あえて語ってみることにします。

VRゲームも含めた一人称視点のゲームの多くは、「プレイヤー=主人公」と定義して、プレイヤーと主人公の立場を可能な限り同じにするようにしています。基本的に無口で何も自己主張せず、ゲームの進行に必要な情報は近くにいるキャラが何もかも教えてくれる。FPSなどをプレイして、そういった主人公像に出会った人は多いでしょう。

『アルトデウス: B.C.』も、上で説明したようにプレイヤーが自分の手を使ってアイテムを拾ったり、アルト・マキアを操縦したりして、最初のうちは「プレイヤー=主人公」という形になっているかのように思っていました。でも、プレイを続けていくうちに、だんだんと「そうではない」と考えるようになっていったんです。

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本作の主人公であるクロエは、とにかくよくしゃべるんです。それも目の前に立つ他人と会話するだけでなく、モノローグもものすごく多くて。しかもクロエが発する言葉は、彼女自身がこれまでに歩んできた人生の中で味わった、葛藤や執着といった強烈な感情から生み出されるものであり。プレイヤーはそれについてよく知らないどころか、なぜクロエがそういう感情を持つに至ったかを紐解いていくこと自体が、このストーリーの重要なポイントにもなっていて。

このように強烈に自己主張してくる主人公というのは、これがTPSや通常の立ち絵が出てくるスタイルのノベルゲームなら、そこまで違和感を覚えないかもしれません。でも本作のように一人称視点のVRゲーム、しかもプレイヤー自身の動きが主人公の動きとシンクロする場面もあるゲームだと、自分としてはものすごく不思議な感覚になったんです。「この自分の内側に存在して、CV: 鬼頭明里の声で語りかけてくる人物は、いったい何者なんだ?」という感じで(笑)。

ここで話が突然ズレるのですが、これと似たような体験をしたことが、以前に別のゲームであって。それは『アサシン クリードII』なんです。

『アサシン クリード』は、現代に生きる主人公がアニムスと呼ばれる機械を使って過去の歴史に存在したアサシンたちの記憶を追体験するという、もともとメタな構造を持っているゲームシリーズで。そして『アサシン クリードII』のラストでは(以下『アサクリII』のネタバレw)、ルネッサンス期イタリアのアサシンであるエツィオが超古代文明人のミネルヴァと出会うと、ミネルヴァは中世イタリアに生きるエツィオの目を通して、現代に生きる主人公(=プレイヤー)に直接語りかけてくるという展開が用意されているのです。

自分にとっては『アルトデウス: B.C.』もこの『アサシン クリードII』のように、VRゴーグルを通してクロエという人物になり代わり、彼女の人生を追体験しているような、そんな不思議な違和感を味わいながら、プレイを続けていたわけです。

ところが、ですよ。
『アルトデウス: B.C.』の全ルートを最後までプレイし終わると、じつは自分がずっと感じていたこの違和感には、(ネタバレになるので具体的には語りませんが)ストーリー上で確かな意味があり、しかもそれが物語の展開の中でキチンと回収されているのです! これには本当に驚いたと同時に、心から感動しました。これはまさにVRでしか実現できないストーリーテリングであり、アドベンチャーゲームを、ひいては既存の「物語」をさらに一歩先に推し進めるものだと。じつはこれこそが、本作を【俺GOTY】に選んだ本当の理由なのです。

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『アルトデウス: B.C.』は、現在発売中のOculus Quest/Rift版に加えて、2月19日にはSteam VR版が、そして4月15日にはPlayStation VR版が、それぞれ発売予定です。どのハードでも構いませんので、ぜひ本作を体験してみてください。「物語」の最先端に、きっと出会うことができるはずです。

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