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2020年映画ベスト10

全世界的に激動の年となった2020年も、今日で終わり。ということで、年間映画ベスト10を選んでみました。昨年末に公開された映画や、映画祭で見た映画も混ざっていますが、これが自分の中でいちばんしっくりくる10本だと思います。

1. 僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46
2. ジョジョ・ラビット
3. パラサイト 半地下の家族
4. 羅小黒戦記 ~ぼくが選ぶ未来~
5. 七人楽隊(東京フィルメックス)
6. 狂武蔵
7. 海辺の映画館ーキネマの玉手箱
8. 罪の声
9. THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~
10. メイドインアビス -深き魂の黎明ー

2020年に映画館で見た映画は全部で34本。50本オーバーだった昨年よりは少なくなりましたが、コロナ禍で劇場が休止していた時期もあるわりに、自分としてはなかなかの本数になったと思います。見逃した映画も多いですが、それはそれで、ご縁がなかったということで。

さすがに今年は欧米の新作映画がほとんど公開されなくなったこともあり、1月公開の『ジョジョ・ラビット』以外はすべて日本・韓国・中国・香港というアジア映画ばかりになりました。ただ個人的には、それはそれで充実していたようにも思います。

それでは、各作品について簡単なコメントを。

1. 僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

アイドルグループが崩壊していく様子をリアルタイムに記録した、“今そこにある『ボヘミアン・ラプソディ』”。そうした芸能スキャンダル的な興味を含みつつも、アイドルMVの巨匠・高橋栄樹監督の超絶編集で再構成されたライブパフォーマンスのパワーによって、観客をグイグイと引っ張っていく構成が素晴らしい。映画館休業による公開延期を逆手に取って、改名によるグループの再生やコロナ禍の渋谷といった要素を取り込むことで、2020年を象徴する映画になっているのもお見事。じつは今年、劇場でいちばん回数を見た映画です。

2. ジョジョ・ラビット

タイカ・ワイティティの前作『マイティ・ソー/ラグナロク』は面白かったけど、さすがにちょっとふざけすぎなのでは?  とも思っていた。けれども本作を観て、ワイティティ監督が命がけでふざけるタイプの作家なのだと思い知った。ファシズムの中で自分自身を貫き通すことの困難さは、1月に観た時にはそこまで意識していなかったけど、2020年末の今は怖ろしいほどのリアリティで迫ってくる。……それはそれとして、民間人がアレコレ駆り出されるあたりの雰囲気は、WWIIドイツ軍の末期戦映画としても楽しめるけどね。

3. パラサイト 半地下の家族

貧困や格差社会といった社会問題をキチンと描きつつ、ミステリーとして、またブラックコメディとしてもメチャクチャ面白いのが流石。主人公一家が「寄生」していく過程が面白いのはもちろんだけど、そこから先の展開にも圧倒された。ただ、この映画の公開後に本作のメッセージが薄れるような出来事が現実で相次いだことを考えると、やっぱり2020年というよりは、2019年を代表する映画なんだと思う。

4. 羅小黒戦記 ~ぼくが選ぶ未来~

これも正確には2019年公開の映画だけど、自分が観たのは2020年の正月だったのと、日本語吹替版の公開は2020年ということで。作画云々とか日本アニメとの相互関係とか、本作はいろんな切り口で語ることができるけど。まずなによりも作り手が、悪役も含めたすべての登場人物に対してものすごく優しい気持ちで接しているのが伝わってきて、そこに感動する。その感動を、仕事の記事という形でお返しできる機会が得られたのも、個人的にはいい思い出になっています。オリジナルのエンディングをイラストの中国語まで日本語に翻訳した上で、それとは別に独自のエンディングを用意する、日本語吹替版の丁寧な作りも素晴らしかったです。

5. 七人楽隊(東京フィルメックス)

東京フィルメックス2020で観た作品で、一般公開は未定だけど、これはベスト10に挙げざるを得ない。サモ・ハン、アン・ホイ、ユエン・ウーピンなど、1980~90年代の香港映画を支えた名監督7人が集結したオムニバス作品。その時代をリアルタイムに生きてきた香港映画ファンとしては、そのコンセプトだけでも感涙モノだけど。それぞれのエピソードの内容は基本的に、在りし日の香港をノスタルジックに回想する内容になっていて、2020年の香港の現状を考えると、それだけで泣けてくる。
正式公開前の映画をあんまりネタバレするのはアレだけど。ラストのツイ・ハーク監督のエピソードは、当日この作品を観た日本のファンには「爆笑のコメディ編」として受け止められているようだけど、自分としては「あのツイ・ハークが今の香港をこうした形で描くのか」と、背筋が凍る思いで観ていた。

6. 狂武蔵

もともとは主演の坂口拓が7年前に撮影した未完成映像。本作ではその映像に、CGによる血しぶきなどの加工を施しているので、オリジナルそのままの迫力が失われているという声があるのも納得はできる。とはいえ、オリジナルの前後に山崎賢人らが出演した新撮映像を追加することで、坂口拓本人の7年間の変化や、ワンシーンワンカットの殺陣と編集された殺陣の違いを取りこんで、キチンと「映画」に仕上げた手際を、個人的には高く評価したい。……なんて能書きはともかく、純粋にめっちゃ熱い作品ですよ。

7. 海辺の映画館ーキネマの玉手箱

大林宣彦監督の遺作にして一番の問題作。コロナ禍による公開延期で変更された元々の公開日に大林監督が逝去したことも含めて、映画史に残る作品だと思う。尾道の映画館で日本の戦争映画オールナイトが繰り広げられるという体裁で、日本の戦争の歴史とそれを描いてきた日本映画の歴史、そして大林宣彦本人の個人史が渾然一体に溶けたスープになって、観客もその中で一緒にかき混ぜられる3時間。これまでの大林映画にはない苛烈な描写もあるけれど、それだけ監督の想いがストレートに反映されているのだろう。
個人的には、2020年の日本が置かれている現状の根本原因は、戊辰戦争にまで遡らなければならないと断じている点に敬服した。じつは今、立東舎の『大林宣彦、全自作を語る』を読んでいるのだけど、この考えはどうやら岡本喜八監督からの影響らしい。この本に収録された豊富な逸話は、岡本喜八だけでなく黒澤や小津から新藤兼人まで、あたかも「大林宣彦が語る日本映画史」となっていて、『海辺の映画館』の副読本として最適だと思う。

8. 罪の声

2人の主人公がグリコ森永事件の真相を探る際の、情報の提示の仕方がとにかく絶妙でスゴイ。原作は未読だけど、緻密な小説を脚本が徹底的に再構成しているんだろうなと感じさせる労作。後半になって宇野祥平が登場するのをきっかけに、映画のトーンが変わって地獄絵図が繰り広げられる展開も素晴らしい。ただ、ラストの「真犯人」に対する決着のつけ方は、個人的にはしっくりきていない。良くできた映画だとは思うんだけどね。

9. THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~

香港と深圳という2つのアイデンティティを持つ女子高生が、一国二制度の税関をまたぐiPhone密輸団に加わるという犯罪ドキュメント的な題材を、フレッシュな青春恋愛映画に仕立て上げる作りがスゴイ。梱包材でグルグル巻きにしたiPhoneの束を恋人と2人で身体に巻きつける光景が、ラブシーンの代替として描かれる映画なんて、おそらく前代未聞だと思う。主人公とその彼氏だけでなく、主人公の両親や友達、そして密輸組織の女ボスまで、リアルなんだけどキャラが立ちまくっているのも面白い。バイ・シュエ監督は本作が長編デビュー作らしいけど、今後の作品が楽しみ。

10. メイドインアビス -深き魂の黎明ー

TVシリーズの続きを劇場映画化した作品で、それでも原作の映像化としてはまだ未完……というと、日本映画の歴史に残るアニメがもう1本あるような気がするけど、個人的にはこちらのほうを推したい。よくもまぁ、こんな地獄絵図をここまで丁寧に映像化して、PG12で収まると思ってたよなぁ(※公開直前になってR15に変更)。自分の周囲を取り巻く世界は地獄で、先に進んでも待っているのはやっぱり地獄だと分かってはいても、それでも先に進むしかないというこの映画の気分は、まさに2020年だと思うのですよ。

ベスト10外で個人的に印象に残った映画としては、三池崇史監督らしい血まみれの純情ラブファンタジー『初恋』、じっとりとしたJホラーかと思ったら、かなりアクティブなゴーストバスターズだった『事故物件 恐い間取り』、香港を巡る現代史の紆余曲折をチョウ・ユンファの存在とオーバーラップさせた『プロジェクトグーテンベルクー贋札王ー』あたりでしょうか。2019年の映画なのでランク外ですが『殺さない彼と死なない彼女』も面白かったです。

2020年は、換気の行き届いた映画館で映画を観るぐらいしか落ち着いた気持ちになれなかったという大変な1年でしたが、2021年はもう少し穏やかな気持ちで映画を楽しめる世界がやってくることを祈っております。それではみなさま、よいお年を。

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