鬼滅の刃のアニメを見て

遅ればせながら鬼滅の刃のアニメを全話視聴しました。率直な感想は可もなく不可もなくと言ったところかな。1年ほど前から社会現象とまで言われ、本屋では原作の漫画は1人1冊までといった巻数制限がかけられている場面を何度も見てきてもなお、そこまで興味がそそられるわけでもなかった。ただ、友人に近々鬼滅の刃の映画を見に行こうと誘われたのでとりあえず予習ということでアニメを全話視聴しました。

鬼滅の刃は原作が週刊少年ジャンプということもあって、王道中の王道な漫画なんだろうなという印象。ストーリーは至ってシンプルで、鬼になってしまった妹を人間に戻すために、主人公は鬼狩りになり、いろんな鬼に出会って倒しつつ、主人公が仲間とともに成長していく物語。さらに主人公のキャラクターは長男という立場からとても優しく、頼り甲斐があり、そのうえひたむきで真面目という長所が目立ち、汚点、欠点が見当たらないぐらいで、主人公になるべくして生まれたような性格の持ち主。もうこの2つだけでも、徹底的に王道要素が詰め込まれているように感じた。気を衒った要素なんて微塵もなく、圧倒的に視聴者にまっすぐ届く作品だと思った。もちろん、アクセントとしてギャグパートがあったり、仲間のキャラ付けがあったりと視聴者がクスッとできるような要素を入れることも忘れない。これ以上に週刊少年ジャンプにぴったりな要素を詰め込んだ作品はないと言っても過言ではないほど、週刊少年ジャンプっぽい作品だと思った。

さらに言うなら、ufotableのアニメ化がとても丁寧だったことがこれだけ人気になった要因だと思う。まず、アニメを見慣れている人ならすぐに気づくのが、線の太さだ。今のアニメは基本的に線は細い方が綺麗とか可愛いアニメと評されることが多い中で、あえて太い線を使ったことで、版画とか浮世絵っぽさが出て、鬼滅の刃の時代設定である大正の雰囲気をうまく表現できている。さらに線の太さに合わせて、色使いも彩度の高い色が多いように感じた。特に、全集中○の呼吸○の型で描かれるエフェクトはただ派手なだけではなく、雰囲気に見事にマッチしていた。あと、たぶんこれは原作準拠なんだろうが、キャラクターの目が総じて特徴的だった。イラストを描くとわかるが、キャラクターを特徴づけるのは目と髪型がかなりのウェイトを占めている。そして、目の描き方には漫画家やイラストレーターの特徴が大きく現れる部分でもある。にも関わらず、鬼滅の刃では目の描き方がキャラによってバラバラだ。主人公の炭治郎とその妹の禰豆子ですら全く違う目の描かれ方をしている。カナヲやしのぶなどもわかりやすい。原作ではキャラの特徴を最大限に引き出すために、キャラごとに目がバラバラなんだろうが、アニメ化してもそれが違和感を与えるような破綻をすることなく、きちんと表現されているところはポイントが高いように感じた。

ここまでの話をまとめると、原作は週刊少年ジャンプの王道で、アニメ化された際の描写は、これまでの雑多なアニメとは一線を画す新鮮なものだったといった感じだろうか。これが、主にファミリー層をターゲットにして大人気になり、社会現象とまで言われることになった要因だろう。王道ストーリーは子供にとってわかりやすく、これまでとは一線を画した描写のアニメは大人にとっても目新しさが響く。万人受けという言葉がぴったりなぐらいに、男女問わず幅広い年代が楽しめる作品だと思う。

ただ、個人的には王道ストーリーが好きになれないところがあって、全体的な評価としては可もなく不可もなしといったところだ。結局、面白い面白くないなんていうのは主観でしかないのだから、どれだけ世間一般では人気だとしてもしても、自分に合うか合わないかはそれとは無関係に決まってしまう。そういう意味で、自分にはそれほど合う作品ではなかった。アニメという媒体で見たときに、線の太さや目の描写はとても新鮮味があったし、面白かった。ただ、それが故に余計にストーリーの残念さが目立ってしまったように思う。

一部では鬼滅の刃のストーリーは御都合主義とか薄っぺらいといった評価がされているが、王道ストーリーであるがゆえに、展開が読める部分があり、そこが視聴者の期待を上回ることがない分、物足りなく感じるのだろうと思う。その物足りなさを、ご都合主義とか薄っぺらいと表現しているに過ぎない。例えば、作中に出てくる鬼は元人間で、鬼を倒すたびにそれぞれの鬼が人間だった頃の回想が入る描写がある。ただ、鬼が主人公に負ける直前にそんなものを挟まれたところでこれから死にゆくことがわかっている鬼に同情なんてできないし、ストーリーを追いかけるだけなら、直後に死ぬキャラの過去なんてさして重要でもない。そう言ったところで、同情ができないから薄っぺらいと評されるのだろうが、これから死にゆく鬼の過去にどれだけ厚みを持たせたところでたぶん同情なんてできないだろう。これから2度の登場しないようなキャラの過去なんて視聴者からしたら興味がないからだ。だから、鬼の回想は薄っぺらいのではなく不要だと言ってもいいと思う。ニチアサの戦隊モノに登場する敵に同情する子供なんていないのだから、鬼滅の刃も中途半端に同情を誘おうとするぐらいなら、そんなものはなくてもいいと思う。ストーリーが王道中の王道だからこそ、薄っぺらいところを厚くするのではなく、削ぎ落としてしまった方がいいように感じた。そうすれば、最初からないものに物足りなさなんて感じないのだから。

もちろん、余分なものを削ぎ落としていって、王道ストーリーの純度が高くなればなるほど、スパイスの効いた漫画やアニメを求める層の期待には応えられなくなるだろう。ただ、最初からターゲット層をファミリー層にしぼり、20〜30代の漫画、アニメに精通してきたオタクたちはターゲットから外してしまえば、それで済む話だ。つまり、鬼滅の刃を面白くないとか可もなく不可もなしと評するような人たちはそういうオタクたちなんだろう。そして、残念ながら私もそちら側だ。私は正義が負けてもいいと思ってるし、ハッピーエンドなんて最初から期待していないオタクくんたちの1人だ。そういう層には鬼滅の刃は刺さらないだろう。


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