舞台
幼い頃からずっと舞台に立ってきた。
別に私は役者であった訳でも歌手であった訳でもないし、そんな才能もない。
教壇の、朝礼台の、体育館の、どこかのホールの、或いは舞台とも言えない、或いは概念でしかない
然して私はずっと舞台の上に立ってきた。
自ら手を挙げて、或いは人に選ばれ、もしくは偶然に。
よくそんな恥知らずなことが出来る、自分に自信があるんだろう
そう言われたこともあるが、違うのだ。
私は舞台の下にいるとき、ごみ屑同然である。
破れた紙屑ならまだいい。
めちゃくちゃに踏まれて人の靴底に張り付き、最後は黒く厄介な汚れになる吐き捨てられたガムの様な物だ。
知らぬ間に人から疎まれ、迷惑がられ、何の役にも立たないどころか害悪になる。
舞台に立つことで自分を輝かすことが出来るという人は舞台に立つ才能があると言えるが、私は決してそうではない。
群衆の中では悪目立ちし、排除されて舞台上に逃げるしかなかったのだ。
舞台に上がってしまえば表立って私を踏みつける様な人間はいない。舞台を降りた瞬間を狙って踏みつけられることはあっても。
私は元来根暗の緊張屋だ。とても舞台向きの人間ではない。
舞台に上がるときはいつも吐き気が来るほど緊張しているし、もう嫌だ逃げたいという気持ちでいっぱいになる。
だが同時に、私の様な人間ほど舞台に上がらねば誰が上がるのだという強い一念がある。
私に舞台の下の居場所などないのだから。
自分を殺し、殺しきれない自分を人混みの中で踏みつけにされるくらいなら、舞台の上で石を投げられる方が余程ましだ。
私はこれからも自分の立つことが出来る舞台を探して立ち続けるし、なければ自分で作ってでも立つ覚悟でいる。
群衆に紛れる老婆になれるまで。
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