俺はまだ子供がいい
小五くらいまでの俺はとても人間じゃなかった。いや、もちろん、一応、生きてはいた。親がいて、帰る家があって、毎日飯食って、勉強して、たまに遊んで。そういう暮らしはあった。
でも、価値なんて何もないような子供だった。いてもいなくても変わんないような、てきとーな存在だった。家やクラスに居場所がないわけじゃないが、別に俺じゃないといけないってわけでもなかった。誰でも変わらない。例えば、俺がある日突然転校したら、例えば、俺がある日突然家出したら、といくら想像したところで、でも俺がいたはずの世界は何一つ変わらず平常運転を続けるであろうことがわかりすぎるほどわかりきってしまっていた。
さて、そんな俺がはじめて犯されたのは小六だ。潰れた家具屋の植木の陰で、俺は俺の唇や両の指や耳や乳首やチンポやケツの穴を変質者に差し出すハメになった。汚いおっさんだった。大人になりきれず、身体だけ大きくなったようなやつだった。俺は友達と広場でカードゲームをやっていて、友達が持っていたレアカードが羨ましくて仕方がなかった。その友達はさっさと逃げた。逃げ遅れた俺だけが、わけもわからず植木の陰に連れて行かれた。
ドブの臭いがした。何度も吐きそうになった。不快以外の何でもなかった。
しかし、俺は犯されながらもある一つのことに気づけた。
俺の身体には輝かしい価値がある!
俺のチンポを美味しそうに咥え、口のはしからよだれを垂らすこいつが求める肉体をこの場で有しているのは俺のみなのだ、と。
ビバ、肉体!
肉体、最高!
俺は俺でいるというだけできらきらとした価値を獲得することができるのだ!
事が終わったあと、そいつは泣きながら誰にも云わないでくれ、と懇願したが、そりゃそうだ。誰にも云うはずがなかった。俺はその場でも何も云わなかったが、内心ではとても満たされた気分だった。誰かに話したりなんかするはずがない。ていうか、俺は最早、何一つ話す必要すらなかったのだ。
で、俺は中学にあがると同時にサッカー部に入るが部内でマワされるだけでベンチにすら入れずに三年間が終わる。高校も似たような感じ。人が運動に打ち込むように、創作に明け暮れるように、勉学に将来を託すように、とにかく俺は俺の肉体で価値を稼いだ。青春のすべてを費やして俺は俺の価値を輝かせ続けた。誰一人、俺には追いつけなかったしそもそも誰も追いかけてはこれなかった。俺はマジでオンリーワンだった。ガキの男なんて加減もクソもなかったが俺はそのすべて受け入れた。眼球を舐められ指を折られキンタマの皮に針を刺されうんこを食われても俺は平気だった。誰にこんなことができる?俺にしかできないことだった。世界がどんなことを要求してきたところで俺はその全てを簡単にこなすことができた。
そんな感じで勉強なんかまともにしていなかった俺は高校を卒業したところでロクに進学なんかできるわけもなく、一応短大には入るけど三ヶ月で辞め、気がつくと地下鉄が揺らす薄いマットの上で知らない男に抱かれ、お金を稼いでいた。
な、なんつー楽勝な世界なんだ……。
俺は俺の青春を費やして獲得した価値によって、ついに金銭を得るまでになっていたのだ。さ、最高……。俺は俺の人生がすべて間違っていなかったのだと悟った。俺は正しい道をずっと突き進んでいたのだ、と。
しかし楽勝な世界はそんな長くは続かなかった。なんと、店で働くようになった三年目の秋、店長が逮捕された。店長は愛人(まさかの90越えのババア!)を誤って殺してしまい(ていうか老衰?)仕方なく身体をバラバラに切断して三日三晩かけてゆっくりすりつぶして川に流していたけど顔だけはどうしても捨てられず悩んだ末なぜか急にその人のことが憎たらしくなってババアの一人息子の家に顔を送りつけてその息子もなぜか警察には通報せず代わりに雇った名探偵によって店長は捕らえられた。
で、俺はなぜかその名探偵に千駄木のアパートへ連れてこられた。
「君は価値の稼ぎ方を根本的に間違えている。君のそれはただの搾取だ。自分の肉体を本当の意味で価値にしようと努力するすべての人間に失礼だよ、謝りなさい」
と、なんだか知らないが説教までされる。
でも、本当の価値ってなんだ?俺は俺の価値が間違いや偽物であるとは微塵も思っていない。俺は他の誰より多くの価値を稼いだはずだった。多くの人間が喜んでいたのだ。そこに嘘はなかったはずなのだ。
ただ、確かに少しだけ疲れていたのも事実だった。
「今日からここに住みなさい」
と、その名探偵は云った。店にほとんど住んでるも同然だった俺は、クソ店長のアホな犯罪によって店が潰れてしまい途方に暮れていたので、正直助かった、と思った。
千駄木にあるボロい木造のアパートが俺の新しい住居だった。誰も掃除なんてしないから家中が埃っぽくて仕方なかった。あとから、ここはこのクソ名探偵が経営しているシェアハウスだと知った。
「家賃は?」
「いらない。そのかわり、掃除、必要があれば洗濯、あと、食事。ここの住人のために君はこれから生きるんだ」
名探偵が云う。
こうして俺は俺の新しい存在価値を与えられた。
俺の新しい生活は比較的順調。俺はこの小さな世界で、入れ替わりはあるが4、5人の住人のためだけに生きればよかった。俺はもう世界のすべてと対峙する必要はないのだ。眼球を舐められる代わりに便器の汚れを落とし、指を折られる代わりに床をきれいに磨き、キンタマの皮を針で刺される代わりに風呂をため、うんこを食われる代わりにあたたかい料理を食べさせればよかった。洗濯物を干すのもヒップホップだった。いつしか、俺にはもう、自分の肉体すら必要なくなっていた。
「井戸さん、僕の弁当は?」
「そこ、置いてるから。持っていきな」
「ありがと」
緑のバンダナでくるんだ弁当箱を手に玄関を出ていくいちごちゃんの後ろ姿を見送る。眼福だ。ある種の美しさというのは性別の垣根を越え人の感性にぶっ刺さる。
「忙しないねぇ」
と、呑気にお茶をすすっているのは柳くんだ。
「柳くんはもう少し焦りなよ。就活は?」
「全滅。高望みしすぎてんのかな……」
「資格とか持ってるんだっけ」
「運転免許は持ってる」
ボケてるのかマジなのかわからないので適当に笑って返していると、ちょうどもう一人の住人、屋敷くんがやってきた。先月からここに住みはじめた青年だ。
「いちごちゃん、もう行きました?」
「さっきね」
「結構前すか?」
「そんなに経ってないんじゃない」
「そっか。ありがとうございます」
朝ごはんは、と訊くと、いちごちゃんに渡すものあるんで、あとで、と返事が返ってきた。
「かわいい後輩が男のケツばっか追うようになっちまった……」
柳くんがわかりやすく落ち込んでいた。
「いいじゃない、別に。人の恋路にあーだこーだ云うべきじゃないでしょ」
「……そういう問題じゃねぇ」
「じゃあ、どういう問題なのさ」
「いちごちゃんのこと、井戸さんだって知ってるだろ。昔、駆け落ちの真似事して相手を死なせてるって話」
もちろん、知ってはいる。なにせ、いちごちゃんを連れてきたのもあのクソ名探偵なのだ。だから、大方の事情は名探偵から聞いている。柳くんの話す内容と事実は少し異なるが、いちごちゃんが人を死なせるような事件を起こしたのは本当だ。
「いちごちゃんが屋敷くんと駆け落ちするとでも?」
「いや、そうじゃない。問題なのはいちごちゃんが今でも死んだ相手にご執心なことだ」
「毎月、ご丁寧に谷中霊園まで通っているものね」
「そう。で、屋敷は、あいつはそういうの、気にするから」
ああ、なるほど。
存在価値の話だ。
「いちごちゃんは死者に価値を見出している。だから、屋敷くんもいちごちゃんの価値を獲得するために、自ら進んで死者になるんじゃないかと、そういう心配をしているわけだ」
「……ああ、そうだよ」
不貞腐れながらも、柳くんは認める。
「考えすぎだよ」
そうかなぁ、そうなのかなぁ、とブツブツ呟きながらお茶を啜る柳くんを眺めながら、気苦労が絶えなくて大変だ、と思う。本人が望むのであれば、なんであれ好きにやらせとけばいいのだ。本人の望みを無視してまで、エゴを通す必要などまったくないのだ。と、俺は思う。
俺は人が喜ぶ顔が見たいだけだ。人を喜ばせることができる俺の存在価値を認めていたいだけだ。だから俺はシンプルに動ける。本人の望む道が誤っていようが正しかろうが、それを叶える手伝いをしてやればいい。
「まあ、なるようになるさ。いずれね」
「俺は屋敷には幸せになってほしいだけなんだよ」
うんうん、と頷きながら柳くんと一緒になってお茶を飲んでいると、階上から何かを強く打ち付ける音がした。
「砂糖ノンシュガー先生か……」
柳くんが天井を見上げる。
「さすがにここ最近、ひどくないか?夜中だって構わず、ずっとあんな調子じゃないか」
「うーん、そうだね。ちょっと注意しとくよ」
頼むぜ、と云って柳くんは残りのお茶を飲み干し、自分の部屋へ帰っていった。テーブルの上には白紙のエントリーシートだけが残った。
「砂糖くん、入るよ」
形式的にノックをしてからドアを開けると、パンダのマスクを被った砂糖ノンシュガー先生が全裸でぐるぐる廻っていた。踊り?意味がわからなかった。
「何やってんの、それ」
「カポエラ」
「あ、そう」
やっぱり意味がわからなかった。
砂糖ノンシュガー先生がくるくるターンを決めるたびに、砂糖ノンシュガー先生のチンポがバチンバチン太ももに当たって弾ける。意外とでかい。
「苦情がきてるんだ。もう少し大人しくできない?」
「それは……む、むり。詩情を……僕の至上の詩情を紙上に……叩きこむので!」
「会話じゃ伝わらない言葉遊びはやめてくれ」
「すいませんでした」
砂糖ノンシュガー先生が急にしゅんとして、床に体育座りをはじめた。
行動がいちいち読めない。
俺が最も苦手とするタイプだ。
この手の人間はこれまでもいた。行動原理がよくわからないタイプ。何を求めているのかまったく読めないタイプ。それでも、よくよく観察し接していればなんとなく何をすべきかはつかめてくるものだ。
しかし、砂糖ノンシュガー先生に関してはそれが全然、ぜーんぜん、何を求めているのか全くわからないままだった。砂糖ノンシュガー先生がここに住むようになってそろそろ二年になるが、俺は一向にこの人のことが見えない。俺は砂糖ノンシュガー先生に対して、何をすべきなのかが未だにわからない。そして、わからないということが俺を苛立たせる。
俺の存在価値はここの住人のために生きることだ。
この小さな世界で、砂糖ノンシュガー先生は俺の存在価値を揺るがす重大な異物だった。
「今はなに、新作書いてるところ?」
「史上の詩情を紙上に叩き込んでる……ところ!」
「なにそれ、流行りなの?」
「パクリです」
「あ、そう」
どうでもよかった。
本当に。
しかし、砂糖ノンシュガー先生はこれで、直木賞芥川賞まではいかないまでもそれなりの賞も獲っている、一般的には成功している部類の作家なのだ。ただ、作家業は本名で活動しているので俺以外の誰もそのことを知らない。なぜ、ここではペンネームを名乗っておいて作家活動が本名なのか理解に苦しむが、少し小さめの書店でも著作が置いてあるくらいには価値がある人間なのだ、砂糖ノンシュガー先生は。
「とにかく、静かにしてね。あんまりうるさいと柳くんが殴り込んでくるよ」
「柳……?誰?」
マジか、と思うが、まあ、もういい。些事だ。すべて真面目にとりあっていたら体力がいくらあっても足りない。
「しじょうのしじょう、だっけ?とにかく、うるさくしすぎないようにがんばってね」
「御意……なんだが?」
無視。俺は砂糖ノンシュガー先生の部屋をあとにした。
で、それから数日は砂糖ノンシュガー先生も大人しい。俺はひとまず安心して、他のみんなのために生きることができた。いちごちゃんの弁当を作り、屋敷くんとご飯を食べ、お茶を啜りながら柳くんの愚痴を聞き、俺は俺の存在価値をきちんと成した。
俺はこの三人が何を求めているのかを正確に把握している。
いちごちゃんは生活を、屋敷くんは存在価値を、柳くんはコミュニケーションを。
だから俺はそれをただこなすだけでいい。それで俺は俺の価値を稼ぎ続けることができる。
だっていうのに、
「ねぇ、井戸さん。また砂糖ノンシュガー先生、うるさくなってきた。僕の生活、これじゃ続けらんない」
と、いちごちゃんからクレームが入る。
あれから数週間ほど経ったあとのことだった。
いちごちゃんは生活を求めている。ここで、不自由なく暮らすことを望んでいる。いちごちゃんにとって俺の価値とはそれを提供できるか否かにある。
であれば、俺はここで動かなくてはいけないし、きちんと決着しなくてはいけない。
俺の存在価値にかけて。
だから俺は形式的にノックをして、何も声をかけず砂糖ノンシュガー先生の部屋のドアを開けた。
砂糖ノンシュガー先生が、全裸でいつものパンダのマスクを被り、コサックダンスを踊っていた。
砂糖ノンシュガー先生のステップにあわせて、部屋全体が揺れる。
「……何やってんの?」
「しじょうを……叩きつけている」
「紙上に?」
「いや……違う。肉体にだ!」
どすんどすんと揺れる、振動が、俺の肉体にも響きわたる。
「なあ、静かにしてくれって、俺、頼んだよな?」
「頼まれ……た!」
「じゃあ、なんでまだ踊ってるわけ?」
「なぜなら……僕がそれを必要とするからだ……!」
俺はそれを聞いて、ああ、やめてくれ、と思う。
俺から価値を奪わないでくれ。俺を無視して、一人で勝手に完結しないでくれ。俺を無視して、いちごちゃんが求める俺の価値を脅かさないでくれ。俺を無視して一人で勝手に求め、それを手に入れないでくれ。
それは俺の存在価値なのだ。
それは俺の生きる理由なのだ。
それが今の俺のすべてなのだ。
だから、
なぁ?
気がつけば、俺は砂糖ノンシュガー先生を押し倒していた。
砂糖ノンシュガー先生の被るパンダのマスクがすぐ目の前にある。パンダの目は黒い。なぜか口から虹を吐いていた。
「……は?」
砂糖ノンシュガー先生が、めずらしく素っ頓狂な声をあげる。
「俺の前でチンコぶらぶらさせて……何、誘ってるわけ?」
俺の脳髄のどこかがチリチリと焼ける感覚。妙な懐かしさがそこにはある。
「意味が……わからない」
砂糖ノンシュガー先生が呟く。
意味がわからないのは俺だって同じだった。
俺は何をしようとしている?
俺の意識はどこにある?
しかし俺は止まらず、俺のズボンをずらし、砂糖ノンシュガー先生の柔らかなケツ穴に俺のそれを押し付ける。
ひっ、と砂糖ノンシュガー先生が短く叫ぶのと、俺のチンポが砂糖ノンシュガー先生のケツに深く突き刺さるのはほとんど同時だった。
ぎいいいいいいぃぃぃぃいい、と、色気のカケラもない断末魔が部屋じゅうに響き渡る。
俺は久しぶりの感覚に腰がくだけそうになる。辺りが生暖かい糞尿の香りでつつまれるのを感じる。
はじめて犯されたときと同じだ。あのときも、耐えがたい悪臭に耐えながら、俺は俺のチンポを知らないおっさんのケツ穴に突っ込んでいた。俺を犯したおっさんは、泣きながらずっと意味のわからない戯言を叫んでいた。それは言葉になる前の言葉だった。おっさんは赤ちゃんのようだった。
俺の腰は初めからそうプログラムされていたかのように、勝手に動き始める。
「ひぎっ、ひぎ、ひっぎ、ひぎぃ、ひぎぃいい……ひぎ……ぎいい……っ」
俺の動きにあわせて砂糖ノンシュガー先生の喉から漏れる悲鳴もやはり、初めからプログラムされた機械のようだ。
俺たちは決められた動きを繰り返すロボットにすぎないのか?
俺は砂糖ノンシュガー先生の穴のおく、腸をえぐり出すつもりで俺のチンポを突き立てる。
俺は何をしているんだろう?
もう肉体は必要ないんじゃなかったのか?
ならなぜ俺は今、砂糖ノンシュガー先生を犯しているんだ?
俺は人を喜ばせたい、それはほんとうか?
そもそも俺は今まで一度でも誰かを喜ばせたことがあるのか?
いちごちゃんは?
屋敷くんは?
柳くんは?
俺に価値があると俺はなんで今まで信じられていた?
俺はオンリーワンなのか?
俺がいなくなって、それでもこの小さな世界が何も変わらないとしたら?
俺がいなくなって、学生時代に俺を必要としていた奴らはどうなった?
店がなくなって、店に俺を抱きに来ていた奴らはどうなった?
俺は何人の男に抱かれた?
俺は何人の男を抱いた?
そもそも俺はゲイなのか?バイなのか?そのどちらでもないのか?
そんなことすらはっきりさせず、俺は今まで生きてきたのか?
砂糖ノンシュガー先生は俺に突かれて喜んでいるのか?
悲しんでいるのか?
怒っているのか?
気持ちとはなんだ?
人の気持ちはどうやって決定されるんだ?
俺の腰の動きにあわせて、俺の脳髄は俺の意思とは別に一方的に俺に疑問を投げかける。蹂躙されている気分だった。俺は俺の脳髄が生み出す疑問に対して、何一つ答えを持っていなかった。
それでも、俺は腰を振り続けるし、砂糖ノンシュガー先生はその度に喉を鳴らす。
「ぎぃ……っぎい、ひぎぃ、ひぎっ……ひぎいぃいい……ぎっ……いいい……ひぎゅ……」
俺の脳髄は俺に語り続ける。
価値とはなんだ?
誰がそれを本当に決めるんだ?
俺が稼いできたものは本当はなんだったんだ?
ーー君のそれはただの搾取だ。
あの名探偵が云ったことは正しかったのか?
そもそも正しさとはなんだ?
あの変質者は俺に突かれながらなぜ泣いていたんだ?
なぜ俺は眼球を舐められたんだ?
なぜ俺は指を折られたんだ?
なぜ俺はキンタマの皮を針で刺されたんだ?
なぜ俺はうんこを食われたんだ?
それは俺でなくてはいけなかったのか?
本当か?
俺であることにどんな意味があったんだ?
俺がそれを成す/成されることにどんな意味があったんだ?
ここはどこだ?
世界が小さいってなんだ?
世界が大きいってなんだ?
世界と対峙するってどういうことだ?
愛とは、祈りとはなんだ?
蹂躙される魂。俺たちは踊らされていた?
パンダのマスクに隠れて、砂糖ノンシュガー先生が今、どんな顔をしているのかわからないことがもどかしかった。
マスクの下に全ての答えがあるような、どうしても、そんな気がした。
だから、俺はマスクを外そうと手を伸ばして、だけどそれは砂糖ノンシュガー先生によって払い退けられて、怯んでいるうちに砂糖ノンシュガー先生のなかに俺は射精してしまう。
そうして俺は回答を得る権利を失うのだ。永遠に。ずっと。
いとうくんのお洋服代になります。