短歌「"エレクトリカルパレードかよ"って言う君の水晶体に映るアリの行進」をコントにしてみると…

公園。男性がベンチに腰掛けている。
少年、友達に「待っててすぐ戻るー」と言いながら男性に近づいてゆく。

少年「おじさん。生きてる?」
男性「ん?君は誰かな?」
少年「そこで皆で遊んでたんだけど、ベンチに銅像が置かれてるって」
男性「銅像?あ、おじさんのこと?おじさんは銅像じゃなくて生身の人だよ」
少年「だよね。銅像にしては作りが安っぽいし」
男性「失礼だね」
少年「でも生きてて良かった」 
男性「ああ。ありがとう」
少年「じゃあねー」
男性「バイバイ」

少年、立ち去る。 
男性の携帯電話に着信。男性、頭を下げながら電話をしている。

男性「あ、もしもし。井上です。あ、はい。申し訳ありません。その件につきましては会社に戻り次第、至急確認の上、折り返させて頂きます」

暗転。

明点。
男性、変わらずベンチに座っている。
少年、再びやってきて、男性の前で立ち止まり、

少年「まだいたの?」
男性「ああ君か。もう帰るのかな?」
少年「うん。カラスが鳴いたから帰る時間」
男性「そっか。気をつけてね」
少年「うん。(立ち去ろうとするが足を止めて)…おじさん、いつもそこにいないよね?」
男性「いつも?ああ、そうだね。今日、初めてこの公園に来たけど…?」

少年、男性の隣に(少し距離を取り)座る。

少年「どうしたの?話聞こうか?」
男性「えっ?」
少年「僕、毎日、この公園で遊んでいるんだけど、おじさん初めてだし、なんか悲しそうな顔してるから。嫌なことあった?」
男性「いや…えっ?大丈夫、大丈夫」
少年「友達に意地悪された?」
男性「いや…そういう訳じゃないんだけど」
少年「じゃ、どうしてそんなつまらなそうな顔してるの?」
男性「おじさん…つまらなそうな顔してる?」
少年「うん。うちのお父さんが仕事から帰ってきた時と同じ顔してる」
男性「…よくみてるんだね」
少年「そう?」
男性「うん」
少年「で、どうしたの?」
男性「いや、君に言ってもしょうがないんだけどさ。会社…戻りたくないなって…思っちゃってるとこ」
少年「何時間も?」
男性「そうだね」
少年「おじさん、サラリーマン?」
男性「そう。会社員」
少年「仕事、楽しくないの?」
男性「まぁ、楽しくは…ないかな」
少年「楽しくないこと、ずっと続けてるの?」
男性「そうだね。働くって楽しいだけじゃないから。それに…」
少年「それに?」
男性「やりたいことも特にないしね」
少年「やりたいことないんだ?」
男性「うん。無い。やりたいことは無いけど、今の仕事は"いつまで続くんだろう"って思ってる」
少年「…こじらせてるね」
男性「え?こじらせてる?おじさん、その自覚無かったわぁ。おじさんこじらせてたのか」
少年「(笑いながら)ウソだよ!でも、僕もやりたいことなんて無いよ。夢もないし、大きくなったら何になりたいとかもない」
男性「あ、そうなの?サッカー選手とかYouTuberとかになりたいと思わないの?」
少年「うん。思わない。そんなのはメディアが作り上げた虚像だから」
男性「きょ虚像?随分難しい言葉知ってるんだね」
少年「そう?僕は、職業は何でも良いから、どんな状況でも自分と半径3メートル以内の人を笑顔にしたい。それだけ」
男性「わぁぁ(泣きそうになり口を手をふさぐ)半径3メートル以内の人?…あ、だからおじさんに声掛けてくれたの?」
少年「そう。お金の稼ぎ方はまだ知らないけど、友達が泣いている時の励まし方は知ってるから」
男性「…わぁぁ(泣きそうになり口を手をふさぐ)君はあれかな?聖人君主か何かの生まれ変わりかなのかな?」
少年「せいじん?難しいことはよく分からないけど、花はただそこに花として在るでしょ?僕もそう在りたいだけ」
男性「…わぁぁ(泣きそうになり口を手をふさぐ)仏陀だ。多分、おじさんは今、仏陀の生まれ変わりと話をしているんだ」
少年「おじさん、さっきから何言ってるの?あ、そうだ!おじさん会社、つまらないんでしょ?」
男性「うん」
少年「じゃ、楽しいのはどんな時?」
男性「楽しい時…いつだろう。美味しいもの食べてる時かな」
少年「いいじゃん。そういう時間を少しずつ増やしていったらいいじゃん」
男性「そっか。そうだね」
少年「僕はね、(地面を指差し)これ見て?」
男性「ん?アリ?」
少年「そう」
男性「すごい数だね。アリが一例になって歩いてる…」
少年「(テンション高くツッコむように)エレクトリカルパレードかよっ!」
男性「(驚きながら)えっ?」
少年「いやだから、(テンション高くツッコむように)エレクトリカルパレードかよっ!って思うわけ。こういうの見ると。公園には他にも不思議な光景が溢れかえってるんだよ?」
男性「そうなの?」
少年「そう。葉っぱが風になびく感じとか、石の裏とか、ひらけた空も!おじさん、しっかり観てる?」
男性「見て…ないかもしれない。おじさん、自分を活かせる居場所が見つかんないから、こうやって公園に来たんだけど…何かちょっと元気でたかも」
少年「そう?なら良かった。居場所は見つけてもいいし、自分で作ってもいいからね」
男性「…わぁぁ(泣きそうになり口を手をふさぐ)ありがとう。ありがとう!やってみる!やってみるよ!おじさん、自分の居場所、自分で作ってみるわ!」

男性、立ち上がり、去る。 

男性「ありがとう!ありがとね!」
少年「うん。もう戻ってくるんじゃないよー!」
男性「おう!(遠ざかり手を振りながら)やってやるよー!」

少年、男性が見えなくなったのを確認する。
男性が去った方向と反対側を向き、

少年「(大声で)おーい!みんなー!もう大丈夫!変な奴帰ったから!遊ぼーぜー!」

暗転。

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