短歌「留守電に鼻歌残す君がいて秒で世界を変えてゆくなよ」をコントにしてみると…

中年女性(不動産会社)が中年男性(移住者)に対し、物件を案内中。

女性「申し遅れました。わたくし、(名刺を渡しながら)GB不動産の玉坂と申します」
男性「あ、どうもご丁寧に。頂戴します」
女性「(手を広げながら)いかがですかぁ?」
男性「いやー広くて良いですね。元々は別荘ですか?」
女性「そうですね。以前お住まいになられていたオーナー様が別荘として利用していました」
男性「そうですか。暖炉も素敵だー」
女性「そうでしょう?この辺りは、雪が降りますから」
男性「東京とは…違うんだろうなぁ。やっぱり人気ですか?このエリアは」
女性「そうですね。最近は移住者も多く空き物件もかなり減ってきました」
男性「そんな中、よくこんな素敵な物件が残っていましたね!よし!ここに決めた!早速申し込みます」
女性「本当ですか!ありがとうございます。…ただ、この物件。1つだけお話しておかなければいけないことがありまして…」
男性「何ですか?どこか不具合でもあるんですか?」
女性「いえ、実は…人がスンでまして」
男性「まだ居住中なんですか?」
女性「あ、いえ。その…人がシ…スンでまして」
男性「ス、ですか?」
女性「(首を横にふる)」
男性「シ、ですか?」
女性「(首を縦に振る)」
男性「あ、死んでるんですね。ってえっ?人が?ここで?」
女性「ええ。(男性の足元を指差し)その辺りで」
男性「えぇぇ!(慌てて荷物を拾い)早く言ってくださいよ!何でそんな物件を案内するんですか!冗談じゃない事故物件だなんて!」
女性「いえ。前オーナーは老衰で亡くなりまして、その後は奥様がお住まいになられていましたので事故物件という訳では…なので大丈夫です」
男性「何が大丈夫だ!あんたが大丈夫でもこっちが大丈夫じゃない!」
女性「あ、いえ。その…何と言いますか…私…実はゴーストバスターなんです」
男性「…はい?なんですかゴーストバスターって。あんた不動産屋だろ?」
女性「副業で」
男性「副業で幽霊退治やってんのか?」
女性「そっちは本業で」
男性「…ゴーストバスターが本業なのか?」
女性「はい」
男性「よく分からないけど、万一、あんたがゴーストバスターだったとしても、ここで人が死んだ事実は変わらないでしょう?」
女性「変わりません。でも、出ないようにはできます」
男性「幽霊を?」
女性「はい」
男性「どうやって?」
女性「(カバンから掃除機を取り出しながら)こちらです」
男性「それは何ですか?」
女性「ルンバです」
男性「(荷物を手に取り)帰ります」
女性「待ってください!」
男性「(足を止め)聞いたことないんですよ。幽霊をルンバで退治するなんて。そもそもゴーストバスターの人と初めて会ったしもうパニックだ!」
女性「落ち着いて!」
男性「アンタが原因だよ!」
女性「正直にお話しますと…一昔前は掃除機が主流だったんです。でも今はこれが最先端なんです」
男性「なんの話ですか?」
女性「(間髪入れずに)Siri…標的を見つけてっ」
男性「Siriで幽霊を?」
女性「はい。低級な感じのヤツなら充分です」
男性「低級って。Siriでも見つけられないヤツだったら?」
女性「そんな時はコレです(カバンからダウジングロッドのケースを取り出す)」
男性「見たことあるな。何かに反応する…?」
女性「よくご存知で。(ケースからロッドをとりだしながら)本来は占いに使用しますが、私は専ら探索に利用しています」
男性「でも、(ロッドを指差し)なんか短くないですか?」
女性「六角レンチです」
男性「はっ?」
女性「(指先でくるくる回しながら)六角レンチなんです」
男性「ホームセンターで売ってる?」
女性「はい」
男性「(荷物を手に取り)帰ります」
女性「ま、待ってください!ほら?(六角レンチをくるくる回しながら)あっ!(男性の足元に六角レンチを向けながら)足元に!」
男性「(驚き)えっ!何ですか?」
女性「反応しています(六角レンチをぐりんぐりん回す)」
男性「…(女性の手元を凝視して)さじ加減じゃないですよね?」
女性「違いますぅ!(ルンバがいない方を向いて)Siri!あそこ!」
男性「"あそこ"ってSiri分かります?」
女性「お行きなさい!ルンバ!(ルンバがいない方を指差す)」
男性「なんか…すごい連携になってきた!」

(ルンバは自動でお門違いな場所を掃除している。)

男性「ルンバ、全然違う方行ってますけど」
女性「(向き直って)そっちか!」
男性「幽霊の居場所、全然分かってないじゃないですか!」
女性「うぇぇぇいっ!!もう大丈夫です」
男性「大丈夫って、退治できたんですか?」
女性「ええ」
男性「全然吸えてないように見えましたけど?」
女性「自ら行きました」
男性「自ら?」
女性「ええ。今回は自ら吸われに行くタイプのやつでした」
男性「そ、そういうタイプもいるんですか?」
女性「ええ。寒冷地には割と」
男性「そうですか…なんかよく分からないけど、もう絶対でません?」
女性「はい。大丈夫です」
男性「そうですか…でも、絶対住みませんから!もう帰ります」
女性「待ってください。…これは言わないでおこうと思いましたが…最近、知らない番号から立て続けに着信がありませんか?」
男性「え?何故そのことを?ここ数日、謎の留守番電話が入ってて。…気味が悪かったんです」
女性「やっぱり。分かるんです」
男性「な、なんで分かるんですか?アンタまさか本物のゴーストバ」
女性「(被せるように)私なんです」
男性「あなた?何がですか?」
女性「(泣きそうになりながら)留守電、私なんですぅ。物件の日程を連絡をさせて頂こうと何度も非通知でお電話を…」
男性「鼻歌をしながら?」
女性「はい。気分が良すぎて…やっとこの物件に内見が入った!やっと売りさばける!そう思ったら気分が高揚してしまって…あぁ!こんなこと言ってはいけないのに。正直者の私のバカぁ」
男性「ええ、絶対言っちゃダメなやつですよ。でも、留守電にはビビってたんで、正直に話して頂けて良かったです」
女性「じゃ、この物件にお申し込みを?」
男性「しませーーんっ!」

暗転。

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