短歌「傘をさす。僕の隣をあけておく どこかで君が濡れないように」をコントにしてみると…
※今回はコラボ企画としまして、よしなに(X:@yoshinani_tanka)さんから短歌をご提供頂きました!よしなにさんの短歌から連想、創作させて頂いたコントです。この場を借りて厚く御礼申し上げます!!
【本文】
赤いジャージ姿の2人、浜辺で鍋を囲みながら海を眺めている。
ジャージの胸部分に白地の布を貼り、2人とも黒マジックで"かみ"と書いてある。
時折立ち上がり、 竹刀で砂浜に文字を書いては波がよせ、文字は掻き消されてゆく。ひたすらそれを繰り返している。
神1「めっちゃ暇やない?」
神2「暇やなぁ。まぁ暇っちゅー概念すらないねんけどなぁ」
神1「ワシら1日中、海眺めとるだけやでぇ」
神2「せやなぁ。波って…よせてはかえすねんなぁ」
神1「よせてはかえすなぁ…ウミガメ元気しとるかなぁ」
神2「この前のカメかぁ…元気しとるとええなぁ」
神1「重かったなぁ…ウミガメ」
神2「重いよなぁ…ウミガメ…って、刺激無さすぎやろホンマに!」
神1「ワシらそろそろグレてまうよな?」
神2「プチ遠足でも行こか?」
神1「そうきたか…行ってまぅ?あーでもアカンアカン。自分、"2度と来んな!!"て言われてる場所多すぎやもん」
神2「まぁ…そうだったかもしらん」
神1「約束破ったら、またごっつ怒られんで?」
神2「ええんちゃう?どうせすぐ忘れてまうんやし。それにワシらも一応、神やし」
神1「ホンマにええんかいな?自分、またどつき回されて反省文ぎょうさん書かされんで?」
神2「反省文?どつき回される?そんなことされたかいな?」
神1「もう忘れたんかいな」
神2「いつ?」
神1「三途の川でバタフライした時や」
神2「あぁ…あん時か。アイツらホンマに冗談通じんかったな」
神1「係の奴"マジか!"って顔しとったからな」
神2「全速力で捕まえに来たしな」
神1「あれを"鬼の形相"いうんやろな」
神2「そうなん?」
神1「そやろ。自分なんも知らんな」
神2「知らん。そう言えばゴーグル取り上げられたままや」
神1「そんなん放っておけや。出禁やろ?」
神2「出禁やな」
神1「やっぱりアカンな。今日もここで遊ぼか」
神2「せやな。しゃーない。ほな、何する?」
神1「んーやり尽くしてるからなぁ…せめて何かおもろそうなことを…あ、我慢比べは?」
神2「やった気もするけど…ええか、それやろか!おもろそうやし」
神1「よし、決まりや!ほないくで」
神2「こいやー!」
2人、 竹刀を持ち、立ち上がる。真剣な表情で竹刀を相手に向ける。
神1、神2の背後を指差し「あっ!!」と言う。
神2、「ん?」と後ろを向く。その瞬間、竹刀で 脛をパーンと振り抜かれる。
神2「(振り返り真顔で)何してんの?」
神1「あれ?痛くない?」
神2「痛い?あのちくちくするやつか?痛くないで。どうせすぐ治るし」
神1「せやった。ワシらすぐ治るねんな。何も感じひんし体強すぎやし困ったもんやで」
神2「せやねん。それが大問題やねん。けど自分アレやで?いきなりくるぶしパーンは卑怯やぞ?」
神1「 脛な?くるぶしは、このもっこりしとる可愛いらしいところやから」
神2「あぁここか。ワシ、ここめっちゃ好っきゃねん。なんでこんな丸っこくつくったんやろかぁ。おはぎみたいやんなぁ。あ、聞いてくれるか?」
神1「なんぼでも聞くで」
神2「ありがとう。ワシ、くるぶしが好きすぎて1日中 撫でてる日もあんねんで?」
神1「ホンマ?自分、オフの日はそんなんしとるんかいな?」
神2「それ以外やることないやろぉ」
神1「(くるぶしを見て)ほんまやな、なんか自分のくるぶし輝いとるなぁ!」
神2「ここだけクリーム塗っとるからな。テッカテカやろ?化粧水やろ?馬油やろ?プラセンタにオリーブオイルにサラダ油にドクターフィッシュに」
神1「ほんまかいな」
神2「ホンマも何も。色々塗ったけどやっぱりあれやな、 糠床に足ごといくのがベストや」
神1「お前…それはさすがにやりすぎ最高やないかい!想像するだけでノックダウンやでぇ」
神2「せやろ(笑顔)?今度は全身いってまおかな。ほんまくるぶし愛くるしいでぇ」
神1「バリ愛くるしいなぁ。聞いてるワシまでくるぶしの虜やでぇ。一緒にくるぶし育てよか?」
神2「そうしよ!…て、ワシら何してたんやろか?」
神1「なんやったかな…」
神2「うーん…せや、我慢比べや!」
神1「せやった!いくでぇ」
神2「おう来いや!」
2人、真剣な表情で 竹刀を相手に向ける。
神1、神2の背後を指差し「あっ!!」と言う。
神2、「ん?」と後ろを向く。その瞬間、竹刀で 脛をパーンと振り抜かれる。
神2「(振り返り真顔で)なに?」
神1「いや怒るかなて」
神2「怒らへんよ。てかなに"怒る"て?」
神1「また忘れたんかいな。この前のやつやんか」
神2「記憶にないなぁ。何やったっけ?」
神1「ワシらのアカンとこや。怒りと無縁すぎんねん」
神2「常に笑っとるからな」
神1「せやな。笑っとる時間と比例するくらいインパクトある体験やないと記憶に残らんなぁ」
神2「ホンマやでぇ。それより(足を指差し)この丸っこいとこ何て言うんやったっけ?」
神1「くるぶしやって」
神2「あ、せや。くるぶしや」
神1「もう忘れたんかいな」
神2「クリーム塗らな。ホンマ愛くるしいでぇ。くるぶし」
神2の携帯電話が鳴る(着信音はゴッドファーザー"愛のテーマ")。
神1「自分の鳴ってるで」
神2「ん?」
神2、ポケットから携帯電話を取り出し画面を見る。ワナワナ震え出し、膝から崩れ落ちる。
神2「あ、あたた、当た…」
神1「ん?どないしたんや?」
神2「と、当選あそばさせられ 賜りたてまつるるぶ」
神1「合っとんのかいなその表現」
神1、携帯電話を拾い上げ、画面を見る。声に出して読む。
神1「"貴殿におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます"…?」
神2「そ、その後や」
神1「つきましては、当遊園地の入園チケットに当選されましたのでご連絡差し上げま…」
神1、ワナワナ震え出し、膝から崩れ落ちる。
神1「あ、あたた、あた、じ、自分、ホンマに当たってるやん」
神2「かんっがえられへん」
神1「ちょ待って?申し込みしとったん?」
神2「遥か昔にな。ほぼ当たらんいうから…まさか当たるて…ワシ、海の向こうの遊園地に行けるんか?」
神1「そういうことやろ」
神2「大大大遠足やん!!かんっがえられへん!!」
神1「くるぶし 撫でてる場合やないで!」
神2「せや!急いで確認せな!るるぶどこ?るるぶるるぶ」
神1「"るるぶ"て旅先の情報てんこ盛りの雑誌やんな?」
神2「せやで。遊園地の情報ぎょうさん載ってるからな。(周辺を探しながら)どこいったんやろか」
神1「せや!自分のベッドにあったで!」
神2「そか!ってあれは"たまひよ"や!ワシが寝る前に見る愛読書やないかい」
神1「違うんかいな」
神2「全然ちゃうやろ。(周辺を探しながら)無いなぁどこいったんやろか」
神1「(探しながら)毎日たまひよ見てて飽きひん?」
神2「飽きるどころか日に日に付箋が増える一方やで。ワシは赤ちゃんと同じ感覚やからな」
神1「見た目はエグい差あるけどな」
神2「神を見た目で判断したらアカンで」
神1「せやな。(鍋をどけて)あ、コレは?」
神2「それや!て、アカーン!自分、なんで鍋敷きにしてんねん!」
神1「てっきりいらんやつかと思て」
神2「んな訳あるか!早よ調べな…でも待ちぃや。ワシは遊園地に行くけども、自分どうするん?」
神1「ワシはここにおるで。留守番や。チケットないし仕方ないやろ」
神2「仕方ないてお前…まぁええか!よっしゃー!!これで暇ともオサラバじゃー!!」
神1「ちょい待ちーや。ぬか喜びちゃうん?帰ってきた奴の話聞くと"結構ハードやった"いう声も聞くで」
神2「ここにいるよりええやろ。刺激的そうやし。ここは海しかないしやなぁ、なーんも感じひんし、すぐ忘れてまうし」
神1「ひたすら笑って海眺めとるだけやからな」
神2「ま、たのしいけどな。エブリデーがホリデーとなると話は別やで」
神2、神1に雑誌(るるぶ)を手渡し、神1の 膝に頭を乗せる。膝枕の体勢。
神2「ワシのこと"赤ちゃん"や思うて、読み聞かせしてもろて宜しい?」
神1「(ためらいながら)お、おう。(雑誌を広げながら)じゃ、まず1ページ目な。"向こうに着いたらまずは息をしましょう"やて」
神2「ん?何やねん。"息をする"て」
神1「図が書いてあるな。なんか(胸に手を当て)ここが毎日オートマチックにほわんほわんするらしいで」
神2「ほわんほわん?」
神1「ほわんほわん」
神2「ほんま?」
神1「ほんま」
神2「毎日?」
神1「毎日」
神2「(跳ね起きて)なんて素敵な日々やねん!くるぶし意外にするんかいな!ほわんほわん!そんなことあるぅ?もうそれだけで最高やないかい!」
神1「ええなぁ!自分ええなぁ!羨ましいなぁ!」
神2「ええやろぉ(ドヤ顔)次は?もっとちょうだい(勝手に膝枕の体勢になる)」
神1「お、おう。(雑誌を見ながら)2ページ目は…"病院で生まれます"やって」
神2「生まれる?」
神1「"こんにちはー!!"いうやつやろ」
神2「ああアレか。ワシの得意なやつや。ほな"病院"て何?」
神1「病院は…微かやけどワシの記憶にあるなぁ。草むら…やったかな…いや、小高い丘やった気もすんな。待てよ、確か"丘"の豪華版みたいなところや!」
神2「(跳ね起きて)ええやん!ちょうど丘に登りたかったところやん!海以外ならオールオッケーやで!おかおか丘さーん待っとってぇぇ!」
神1「ええなぁ!自分ええなぁ!丘さんええなぁ!」
神2「ええやろ(ドヤ顔)?次は?もっともっと凄いのちょうだい。あ、でもちょっと待ちぃな。何か急に不安なってきた…」
神1「不安?ワシら不安なんて知らんやん。行けるのが決まると感じるんかいな?どんな感じなん?教えてーや」
神2「(深刻な表情。やがて下を向く)」
神1「ちょ、ホンマなんか!大丈夫か!」
神2「(ゆっくり顔を上げ…変顔)」
神1「なんやねん、嘘かいな!自分、まさに遠足前のテンションやないかい」
神2「でもやで。ワシらは"不安"がどんな感じか分からへんから、それを知るのも遠足のお楽しみの1つな訳やけど…」
神1「せやけど?」
神2「不安でいっぱいにはならへんやろか?」
神1「大丈夫やろ!」
神2「なんで即答やねん」
神1「大丈夫やって。出発するときに飴ちゃん持たせたるから安心しぃや」
神2「飴ちゃん?なんやねんその子ども騙しみたいなことしてからにそんなんしたって全然自分ごっつええ奴やん!」
神1「な?大丈夫やろ?」
神2「大丈夫やな。問題が一切見当たらんで。皆無や皆無。それにしても今日は一段と水平線が綺麗やなぁ。飴ちゃんどこしまっとこ?」
神1「くるぶしにでもしまっとき。そんなことより、続き読むでぇ?」
神2「頼むわ(膝枕の体勢になる)」
神1「(ためらいながら)お、おう」
神1、雑誌のページをめくる。
神1「病院のとこまで読んだな」
神2「そうや」
神1「次は3ページ目。"泣く"やて」
神2「(起き上がり)泣く?」
神1「いきなり泣くんかいな。自分オモロいな!」
神2「なんでいきなり泣くねん」
神1「郷に入りては郷に従えいうことやろ」
神2「どういうことやねん」
神1「あ、ちょい待ち。(読みながら)"息を吸って吐く"、イコール"泣く"らしいで」
神2「あぁ、そういうことかいな。その後は?」
神1「(パラパラめくりながら)自分ええなぁ。ホンマめちゃくちゃ体験できそうやで」
神2「ぎょうさん書いてあるん?」
神1「えらい書いてあんで。同じ遊園地の中であらゆることが起きるんやな」
神2「凄い場所やな!そら人気な訳や」
神1「ホンマ羨ましいわぁ。(雑誌を読みながら)あ、でもここはキツそうやな」
神2「どこ?」
神1「めっちゃ何度もピンチに陥れるアトラクションもあんねんて」
神2「ピンチに陥れるアトラクション?そんなんあるんかいな。他にもアトラクションてあるん?」
神1「あるな。絶望コースター、喜びゴーランド、孤独屋敷、恋愛パレード、能面ライダーショー…読みきれんわ」
神2「どれも全く想像つかんな。なんやねん能面ライダーて」
神1「分からん。この写真ではえらい可愛らしい顔した奴が踊っとるけどな」
神2「そか、ええなぁ。愉しみやなぁ」
神1「ええなぁ。でも自分、どないするん?ピンチに陥ったら?」
神2「そら、瞬時に"ピンク!!"言うやろ」
神1「は?」
神2「ピンク!!って言い張ったらワシにとっては"ピンク"やろ、それはもはや」
神1「いや、そうやけど。ここではそのテンションでおれるけどもやな。お前は"ホンマにピンチや!!"を体験しに行くねんで?」
神2「そか…どないしよ?」
神1「んーせっかくやから、思い出としてとことん味わってきたらどや?」
神2「なるほどな…ピンチはピンチとして、か」
神1「せや。ピンチはピンチとして、不安は不安として、や」
神2「嬉しいは嬉しい、哀しいは哀しい、愉しいは愉しい、か」
神1「せやな。無理にどうにかしよと思わんと、しっかり味わい尽くすのもええやん」
神2「確かにな。たのしみやなぁ、不安とか哀しいってどんな感じなんやろなぁ」
神2、海に足をつけてみる。水平線を眺める。
神2「ワシは遊園地で遊んどる奴ら全員と会えるんやろか?」
神1「(雑誌を読みながら)確かQ&Aが載ってたで。載ってるページがどこかに…あれ、ここから先のページ開かんな」
神2「なに?貸してみぃや」
神2、本を取り上げ先のページを読もうとするが、あるページ以降は開けない仕様になっている。やがて諦め投げ捨てる。
神2「(大声で)袋とじやっ!」
神1「ホンマか?」
神2「ホンマや。完全にとじられとる。それはもう見事やっ!」
神1「プロの仕業やな」
神2「プロやな」
神1「…諦めよか」
神2「諦めるんかぁい!」
神1「ほな後で考えよ」
神2「そうしよ!」
神1「解決やな」
神2「せやな!ええわ。困った時は現地で足掻いてみるわ」
神1「それもええな」
神2、立ち上がる。胸の"かみ"と書かれた 刺繍をゆっくり剥がす。
神2「ワシ、そろそろ行こかな…気ぃ変わってまう前に」
神1「そか…もう行くか」
神2「おぅ…行ってくるわ。…ほな元気でな」
神1「…気ぃつけてな!」
神2「なんかいつも一緒にいたのに…寂しくなるな」
神1「なに辛気臭いこと言うてんねん」
神2「せやな」
神1「不安アトラクションや、しつこい苦しみショーも開演予定みたいやけども、小さな希望の方を見るんやで」
神2「分かった」
神1「ほんで胸のほわんほわんが自然と止まるまでは遊べるからな」
神2「おう。自分の分までぎょうさん遊んでくるでぇ」
神1「おう」
神2、片足を海に浸ける。振り返る。
神2「向こうで…希望が尽きてしもたらどないしよ?」
神1「…そんな時は、頼れる奴探して少しの間だけ肩借りたらええやん。その為に他の奴もぎょうさん遊んでんねやろ?」
神2「そか。肩借りる体験もしてみたいしな。そしたらワシも次は希望が尽きた奴に肩貸せるかもしらん」
神1「せやな」
神2、海の方を向き、両足を海に浸ける。
神2「たのしみやなぁ。しかし、もうホンマどうしようもない、お先真っ暗、土砂降りの状況に遭遇するかもしれんよな…そしたら…」
神1「大丈夫や。自分が傘もさせず立ち尽くしとったら、ワシはここで傘さしとくで。自分がどうにか遊びを続けられるよう、自分が少しでも濡れへんよう隣空けとるでな」
神2「優しいとこあるやん…でもな、ここで傘ささんと助けにこんかい(笑顔)!」
神1「それもそやな(笑顔)。ほなちょくちょく会いに行こか」
神2「ホンマか?」
神1「ホンマや」
神2「どうやって?」
神1「んーそうやな、風になって会いに行こか」
神2「分からんて!ワシ、"この風は…自分やなぁ"なんて分からんで?」
神1「そうか?そしたら、音や文字になって会いに行くで」
神2「音や文字?どういうことやねん?」
神1「自分がたまたま聞いとる音楽。街中で偶然耳にしたフレーズ。自分が何の気無しに読んだ本の一文。目に入ってきた広告の文字。そんなんどや?」
神2「ええかもな。分かりやすいやん」
神1「せやろ?それ以外には」
神2「(遮るように)ま、ええわ。なんとかなるやろ。なるようにしかならんしな。それは知ってるで」
神1「せやな」
神2「おぅ。ほなな」
神1「おぅ。ほなね」
神2、腰の辺りまで海に入ってゆく。
神1「景気づけよか?」
神2「ん?あぁ、頼むわ」
神1、その場を離れる。十分に距離を取る。クラウチングスタートの姿勢。
神2「なに?なにすんの?」
神1、顔を上げ、全速力で神2に向かい走る。
神2「ちょちょワシ泳げないからな?それに少しずつ海に体を慣らさなあぶ」
神1、ドロップキック。
神2「アカーン!おぼ…」と言いながら沈む。
しばらくして浮上。溺れそうになり手を振る。
神1「おお!手ぇ振っとるやん。既に愉しそうやないかい!ええなぁ!その調子やでぇ!」
神1、神2、お互いに手を振り続ける。
暗転。