短歌「薮の中きらめく姿隠しをり己の居場所みつけた日から」をコントにしてみると…
会議室に男性と女性が2人座っている。
男性「今日はようこそお越しくださいました」
女性「(周囲を見渡しながら)こちらがベンチャーキャピタル、という会社ですか?」
男性「はい。会社名ではありませんが、ベンチャーキャピタル、VCなんて呼ばれています」
女性「お金を投資して頂けるんですよね?」
男性「はい。優れたベンチャー企業に対し積極的に投資する。それが当社の仕事です」
女性「良かった。私、初めて会社を興したもので。右も左も分からなくって…」
男性「大丈夫ですよ。まずは御社の会社名をお聞かせ頂けますか?」
女性「はい。(声を整えて)んっんっ、レンタルおじさんホールディングスです」
男性「レンタル…おじさんですか?」
女性「はい」
男性「ホールディングスなんですね」
女性「はい」
男性「随分変わった社名だ…サービス概要を教えて頂けますか?」
女性「はい。弊社はおじさんをレンタルできるサービスを提供しております」
男性「まんまですね。念の為の確認ですが、おじさんを、ですか?」
女性「おじさんを、です」
男性、ゆっくりと席を立ち、
男性「(笑顔で)今回は投資するのはちょっと難しいかもしれませんね。またお越し頂ければ(出口の方へエスコートする仕草)」
女性「(男性に駆け寄り袖を引っ張りながら)待ってください。もう少し聞いて頂ければ、必ずやうちのサービスを理解して頂けると思います」
男性「(腕を剥がしながら)わ、分かりました。でも、私自身、おじさんをレンタルしたいと思ったことが無いのでイメージが…どんな時に利用するんでしょう?」
女性「ありがとうございます。よくあるのは、会食の人数合わせ、結婚式の父役、愚痴相手などです」
男性「なるほど」
女性「(狂気じみた雰囲気で)"私はおじさん。今、玄関の前にいるの"」
男性「急になんですか?」
女性「社是です」
男性「怪談話かと思いました。急に始まったんで。御社の社是なんですね」
女性「すみません。変わった社是で」
男性「いえいえ。(独り言のようにボソッと)ホラーテイストが若干強めなのかな」
女性「すぐ駆けつけますよ!という点を前面に押し出しました」
男性「だとしたら考え直した方が良いですよ。サービス概要は分かりました。でも、実際にそんなすぐにおじさんをマッチングできますかね?」
女性「はい。(スマホを見せて)こちらをご覧下さい」
男性「どれ(スマホを覗きこむ)」
女性「この通り、専用アプリを開くと一目瞭然。現在フリーのおじさんがmap上で表示されます」
男性「茂…康夫…半平太…顔のアイコンまで。これはすごい絵づらですね」
女性「ありがとうございます」
男性「褒めてませんけどね。あ!このおじさんとおじさんがぶつかっちゃいそうだ!」
女性「大丈夫です。キングはとられませんので」
男性「はい?」
女性「あ、このような状況のことを弊社では"チェックメイト"と呼んでおりまして」
男性「チェックメイト?…おじさん使ってチェスしてません?」
女性「滅相もありません」
男性「そうですか。でもよくできてますね(アプリ上のおじさんを押そうとする)」
女性「危ない!」
男性「え?」
女性「飛んできます」
男性「何が?まさかおじさんがですか?」
女性「はい。15分以内に飛んできますから。早さが売りなので」
男性「ピザ屋のデリバリーみたいですね」
女性「温かさなら負けません」
男性「どこで競ってるんですか。サービス概要は分かりました。でも…これニーズあるかなぁ」
女性「あります!」
男性「ほう。では聞きますが、このサービスはどんな社会課題に対する解決策ですか?」
女性、立ち上がり、
女性「現代の社会課題の1つとして、関係性の希薄化が挙げられると思います」
男性「急に難しい言葉使いますね。具体的には?」
女性「仕事をして疲れ果てて帰宅するだけの人。近所の人とろくに話したこともない人。誰かに聞いてもらいたいことがあるけど気軽に話せる環境にいない人。そんな人が多いと思うんです」
男性「東京で一人暮らしをする方なんかは当てはまりそうですね」
女性「はい」
男性「でもどうだろ。私だったら1人でお酒飲みに行っちゃうけどなぁ」
女性「そこなんです!弊社の最大の競合はスナックなんです!」
男性「スナック?」
女性「はい。今後、ほとんどの仕事がAIに代替されますよね。その結果…」
男性「その結果?」
女性「弊社とスナックの一騎打ちになると踏んでいます」
男性「よく踏めましたね。その構図」
女性「ええ」
男性「ええじゃなくて。よく分かりましたよ。今日はこのへんにしましょう(席を立つ素振り)」
女性「(肩を抑え座らせながら)おじさん側にもメリットがあります」
男性「(しぶしぶ座りながら)おじさん側のメリット?」
女性「はい。このおじさん達。どこから供給されてくると思いますか?」
男性「いやー湧いて出てくる訳じゃないからなぁ」
女性「会社です」
男性「会社?」
女性「はい。日本には、会社からお荷物として虐げられているおじさんが多数います」
男性「はぁ」
女性「退職を迫られ、会社が再就職先を探す手伝いまで行う例もある」
男性「仕方ないんじゃないですか?」
女性「おじさんも会社も責めずらいです。しかし、国家レベルで見た時、おじさんを適材適所に配置することには失敗している」
男性「随分大袈裟ですね」
女性「働くことを通して存在意義を見出せていないおじさんが多数いるのです」
男性「まぁそうかもしれないですが」
女性「そのようなおじさんによる、おじさんの為のサービスです」
男性「(驚きながら)おじさんの為のサービスになっちゃった!」
女性「(あたふたしながら)おっと…違います!」
男性「"おっと"って言っちゃってるじゃないですか。これ、おじさんの為のサービスなんですよ。ブレブレだ。サービス内容を練り直すところから始めた方がいいですよ。さ、今日のところはお引き取りください(出口へエスコートする仕草)」
女性「待ってください!」
男性「まだ何か?」
女性「サブスクもやってます」
男性「おじさんをレンタルし放題、ですか?」
女性「月額2,980円で借り放題」
男性「なんかDVDレンタルみたいに聞こえるな。高くないですか?」
女性「980円!」
男性「値下げしてもダメです!てか企業として1番やっちゃいけない対応だ!(立ち上がり)もういいですか?私はこれで」
女性「(腕を掴み)とっておきの新サービスをお伝えし忘れていました」
男性「何ですか?じゃ、最後にそれだけ聞きましょう」
女性「草むらにいるおじさんを探すんです」
男性「はい?さっきのmapと関係ありますか?」
女性「おお有りです」
男性「探してどうするんですか?」
女性「捕まえるんです」
男性「分からないなぁ…サービス名は?」
女性「(間髪入れずに)おじさんGO!」
男性「帰れー!」
女性「(泣きそうになりながら)進化しますからぁ」
男性「帰れー!」
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