見出し画像

イラン大統領ライシ師、急逝 ヘリ墜落 イランにおける大統領の役割 今後の見通し   

 イランのライシ大統領(63)が乗ったヘリコプターが19日に墜落。イラン政府は20日、ライシ大統領と同乗していたアブドラヒアン外相(60)らが死亡したことを発表する。

  現地は悪天候で、バヒディ内相は霧のためにヘリコプターが強く地面に叩きつけられるように着陸したと説明(1)。大雨の影響で捜索も難航し、

「大雨で視界が非常に限られている」(2)

と説明する。

  ライシ大統領は19日に東アゼルバイジャン州で、隣国アゼルバイジャンのアリエフ大統領と共同開発ダムの落成式に出席。ヘリコプターは3機編成で北西部のタブリーズに戻る途中だった。

  22日には、首都テヘランでライシ大統領の大規模な葬儀が行われる。葬儀には友好国の要人に加え、イランの支援を受けるイスラム組織ハマスの最高幹部も参列(3)。

  葬儀は午後も続き、隣国イラクの首相やトルコの外相、さらには中国の副首相やロシアの下院議長なども参列する見込みだ(4)。

  事故を受け、岸田文雄首相も22日午後6時前、東京・港区のイラン大使館を訪れて、弔意を示す記帳を行った。

関連記事→

Amazon→


ライシ師とは? イランにおける大統領の役割


  死亡したライシ師は、イスラム革命体制を掌握するハメネイ師(84)に忠誠を近い、後継者の最有力候補者でもあった。

  1960年12月、イスラム教シーア派聖地の北東部マシャドで生まれる。ハメネイ師と同じく、中部の聖地コムで教育を受け、聖職者となった。イランで親米政権が倒された79年のイラン革命後に検事に就任、司法畑で出世した。

  2017年の大統領選で国際強調を重視するロウハニ大統領に敗れるも、19年にハメネイ師により司法府トップに任命され、体制の中枢にとどまりつづける。

  そして21年の大統領選で、ハメネイ師の影響下にある護憲評議会が事前審査で候補者を相次いで「失格」扱いするなか、ライシ氏が当選した(5)。

  イランはイスラム教シーア派を国教とし、イスラム法学者が統治する政教一致の国。権力の頂点に立つのが最高指導者で、国政の重要事項についての判断を行う。

  大統領は行政府の長であり、内政、外交ともに事実上の最高責任者という位置づけであるが、しかし最高指導者の意向に反した政策は実行できない(6)。また治安や対外工作を担う革命防衛隊や司法の権力の力を強く、大統領に政策実行力は小さい。

ヘリ旧型 制裁の影響?

 

 イラン国営テレビなどによると、墜落現場は森に囲まれた山あいだったとのこと。現場周辺は当時、濃霧が立ち込め、視界は数10メートルだった(7)。これがヘリの操縦に影響を与えた可能性も。

  またイラン国営通信などによると、ライシ師らが乗ったヘリは1960年代に開発されたアメリカ製のモデルで、79年のイラン革命前に購入したものを修理しながら使用してきたとのこと(8)。老朽化していた機体が、何らかの形で墜落の原因となった可能性もある。

  イラン革命もより現在のイスラム共和国体制が成立するまで、イランは親米政権の下で、アメリカから航空機やヘリを輸入していた。しかし革命後は対米関係が悪化し、現在も制裁の影響で航空機やヘリの部品を輸入することはほぼ不可能に。

  イランのロハニ前大統領の下で外相を務め、アメリカなど6カ国と結んだ核合意の立役者として知られるモハマドジャバド・ザリフ氏は20日、国営放送の取材に、

 「犯人の一人は米国だ。(経済制裁で)イランへの航空機部品の販売を禁じたからだ」

(9)

 と語る。

  国内にはイスラエルの関与を疑う声も一部あるというが、イラン高官やメディアからはそのような声は聞こえてこない。

今後の見通し


「国政に混乱はない」

(10)

  これは、ライシ師が乗ったヘリが墜落したことを受け、国営メディアを通じて流れたハメネイ師の演説だ。突然の死であっても、イスラム革命体制に揺るぎはないと国内外にアピールしたものと思われる。

  ライシ師は2017年の大統領選で敗れたものの、しかし体制内で重要ポストを歴任。ハメネイ師が自身の後継者として経験を積ませてきた「秘蔵っ子」でもある(11)。その目論見が狂ったことは間違いない。

  ライシ師にはハメネイ師と共通項があった。共に法学者であり、イラン北東部にあるシーア派の聖地マシャドに生まれたという点。

  イランでは、出身地が同じ者同士を、ペルシャ語で「ハムシャフリ」と呼び、同郷であることは強い意味を持つという(12)。ライシ師の死を受け、体制内に動揺が起きる可能性も。

  ただイランでは、近年、西側諸国との関係改善が進まないなか、ロシア、中国との関係強化の動きを強まった。

 イランでは、最高指導者の権威が絶対とされ、たとえ大統領が交代したとしても、保守強硬派とされる外交姿勢に大きな変化はないとみられる。


(1) テヘラン=共同「イラン大統領 墜落し死亡」西日本新聞、2024年5月21日付朝刊、1項

(2)テヘラン=共同、2024年5月21日

(3)NHK NEWS WEB「イラン ライシ大統領らの大規模葬儀 ハマスの最高幹部も参列」2024年5月22日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240522/k10014457121000.html

(4)NHK NEWS WEB、2024年5月22日

(5)「テヘラン=共同「保守強硬派 デモに苛烈な弾圧」西日本新聞、2024年5月21日付朝刊、3項

(6)吉武祐「Q.イランの大統領 どんな立ち位置なの?」朝日新聞、2024年5月21日付朝刊、9項

(7)佐藤達弥「旧型ヘリ 濃霧の中」朝日新聞、2024年5月21日付朝刊、3項

(8)佐藤達弥、2024年5月21日

(9)佐藤達弥、2024年5月21日

(10)テヘラン、ワシントン=共同「「後継」急逝 イラン動揺」西日本新聞、2024年5月21日付朝刊、3項

(11)テヘラン、ワシントン=共同 、2024年5月21日

(12)佐藤達弥、2024年5月21日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?