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能登半島を襲った豪雨  石川県で23河川が氾濫 豪雨発生のメカニズム 震災の影響も被害を大きくした  

 9月21日から23日にかけて、能登半島は記録的な豪雨に見舞われ、甚大な被害を受けた。

 台風14号から変化した温帯低気圧と、活発な秋雨前線の影響で集中豪雨が発生し、特に石川県の奥能登地方(能登半島北部)では記録的な降雨量が観測された。

 21日午前10時50分には、石川県の輪島市、珠洲市、能登町に大雨特別警報が発令された。

 この豪雨により、珠洲市で7河川、輪島市で6河川、能登町で3河川、七尾市で5河川、志賀町で2河川の合計23河川が氾濫した。一部の河川では、21日と22日の2日間で2回氾濫が確認されている。

 さらに、仮設住宅の浸水や住宅の流失・傾斜、道路の冠水、停電、断水が相次いだ。土砂災害や倒木による道路寸断も発生し、一部地域では孤立集落が生じている。

 人的被害は、25日時点で死者11人、行方不明者4人に上っている。

 ここまで被害が拡大した背景には、能登半島の河川が短く急勾配で、上流の雨水が一気に下流に流れ込む地形的な要因が挙げられる。

 さらに、護岸設計時に想定された計画雨量を大幅に超える降雨があり、2024年1月1日の能登半島地震で護岸や堤防が損傷していたことも、豪雨被害を深刻化させた可能性が高いという(1)。

 今回の豪雨災害は、能登半島地震からの復興途上で発生したため、被災地にとっては二重の打撃となっている。

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被害の状況


 豪雨は台風14号から変わった温帯低気圧および活発な秋雨前線の影響によるものだった。

 25日現在の被害状況は、死者11名、行方不明者4名、安否不明者5名となっている。特に能登半島では23の河川が氾濫した。氾濫の内訳は、珠洲市7河川、輪島市6河川、能登町3河川、七尾市5河川、志賀町2河川。

 土砂崩れにより多くの地域が孤立状態に陥り、24日時点で輪島市34カ所、珠洲市11カ所、能登町1カ所で、少なくとも367人が孤立している(2)。

 さらに、広範囲で断水が発生し、9月24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計5200戸余りが断水状態にある(3)。

 この豪雨災害は、2024年元日に発生した能登半島地震からの復興途中で発生した。地震被災者向けに整備された輪島市中心部の仮設住宅「宅田町第2団地」では、近くの河原田川が氾濫し、約140棟のほとんどが浸水被害を受けた。

 また、能登半島地震の復旧工事現場でも土砂崩れや仮設資材の流出・破損が起こり、国道249号中屋トンネルの復旧工事中の作業員1名が死亡した。

 地震の影響が残る中で新たな豪雨被害が発生し、復旧工事中の現場でもさらなる被害が確認されている。自衛隊や警察、消防による捜索・救助活動が引き続き行われている(4)。

豪雨発生のメカニズム


 能登半島に記録的な大雨をもたらした主な要因は以下の通りである。

 まず、日本海から東北沖にかけて秋雨前線が停滞してた。この前線に、北側からは大陸の高気圧に沿った湿潤な空気が、南側からは太平洋高気圧に沿って断続的に湿気を含んだ風が、それぞれ流れ込む。

 さらに、台風14号の影響で、台風の東側から暖かく湿った空気が能登半島付近に流れ込み、前線の活動をさらに活発化させた。この結果、太平洋高気圧からの暖かい南風と前線に向かう北風が能登半島付近でぶつかり、積乱雲が急激に発達して線状降水帯が形成された(5)。

 ただし、線状降水帯の予測は非常に難しい状況である。水蒸気の量、大気の安定度、各高度での風の動きなど、さまざまな要素が複雑に絡み合うため、局所的かつ短時間で発生する現象は、台風に比べて正確な予報が難しくなる。

 特に、水蒸気の鉛直構造や流入量に関する正確なデータ不足も、予報の難しさを引き起こしている。さらに、現状の予測モデルでは積乱雲の細かい動きを捉えるには解像度が十分でないため、これも一つの課題となっている(6)。

 気象庁は、線状降水帯の予測精度を向上させるため、観測体制の強化や予測技術の高度化、さらに迅速で正確な情報提供を目指し、引き続き取り組んでいる。

震災の影響も被害を大きくした


 今回の豪雨災害では、想定を超える降雨量が被害を拡大させた可能性が指摘されている。

 能登半島地震で損傷した護岸や堤防の機能が低下し、水害に対する備えが弱まっていた可能性もある。地震後の応急復旧工事は5月までに完了していたものの、十分な本格的な復旧には至っておらず、河川の氾濫に対する防御力が低下していたと考えられる(7)。

 さらに、地震による海底の隆起などが河川の流下能力に影響を与えた可能性もある。

 今回、能登地方では100年に一度の降雨量を上回る降水が観測された。輪島市では24時間で412ミリ、珠洲市では315ミリの降水量を記録しており、これらは計画雨量を大幅に上回っている。

 能登地方は平地が少なく、小規模な河川が多いため、短時間で集中的に降る雨がすぐに集まりやすい地形的特性がある(8)。山地から海までの距離が短く、河川の勾配が急なため、豪雨時の河川の氾濫リスクが高まる(9)。

 専門家は、地震による護岸の被害が水害への備えを弱め、観測史上最大の降雨が地震前には発生しなかった被害を引き起こした可能性があると指摘している(10)。今回の災害を教訓に、今後の防災対策の見直しが求められる。


(1)テレ朝news「能登半島を襲った豪雨 なぜ、23もの河川が氾濫 背景に「3つの要因」」Yahoo!ニュース、2024年9月23日、https://news.yahoo.co.jp/articles/09f093e4f7c74e3cc0d8d1286806cf47f096f1cb

(2)   NHK NEWS WEB「石川 200人以上孤立の七浦地区 行き来可能に 依然7地区が孤立」2024年9月25日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240925/k10014591171000.html

(3)   NHK NEWS WEB、2024年9月25日

(4)NHK NEWS WEB「【石川 大雨被害 24日22時】死亡8人 行方不明2人 安否不明5人」2024年9月24日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240924/k10014590411000.html

(5)  木原真希、松本光樹「前線停滞+台風急カーブで能登に記録的大雨 線状降水帯は予測難しく」毎日新聞、2024年9月21日、https://mainichi.jp/articles/20240921/k00/00m/040/207000c

(6)  気象庁「線状降水帯による大雨災害の被害軽減に向けて」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2022/index3.html

(7)   田嶋豊、岩本雅子「能登豪雨「100年に1度」の想定上回る 専門家「地震で護岸や堤防の機能が低下の可能性」 水かさ一気に」東京新聞、2024年9月23日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/355958

(8)   田嶋豊、岩本雅子、2024年9月23日

(9)   田嶋豊、岩本雅子、2024年9月23日

(10)   テレ朝news、2024年9月23日

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