盛夏火 団地演劇Vol.1『スパイダーランド 』台本
『スパイダーランド 』
T・・・・金内健樹 (男、Wの彼氏、この家の持ち主)
W・・・・駒形クルミ (女、Tの彼女、実家に住んでいる)
丈治・・・小野カズマ(排気口) (二人の友人の男、庵奈の彼氏)
庵奈・・・山田祥子 (二人の友人の女、丈治の彼女)
-第1部-
【1-1】T,W
団地の一室
TとW帰って来る、外側のドアノブには何かネバネバする糸のようなものが付いている。
Tがドアノブに手をかける
ドアの外から
T 「うわっ、まただ」
W 「え、またー?」
T 「ちょっとここから鍵出して開けて。あ、手触らないように…」
W、鍵を開け、Tはドアノブを回して家に入って来る
W 「何なのそれ?危ない薬品とかじゃないの?」
T 「いや、特に(手を嗅ぐ)匂いもないし、だいいち酸とかだったら触った瞬間にアウトだったよ」
W 「よくそんな平気な顔していられるね…」
T 「精液とかだったらめっちゃイヤだけどさ…(指をツパツパやって糸を引かせる、嗅ぐ)そういう匂いでもないし…」
W 「やっぱり警察に言った方がいいんじゃない?」
T、水道で手を洗う。以下、Tはキッチンペーパーを持って来てドアノブを拭いたりしながら、Wは買物袋から食材を冷蔵庫に入れながら
T 「いや、そんな毎日って訳でもないし・・・でも確かこの前も(Wを指して)泊まりに来た日だったよね。…あ、最初にあった時も確か会社の飲み会で終電で寝過ごしてタクシーでうち泊まり来た時じゃなかったっけ」
W 「いや違う、ほら私が具合悪くなっちゃった時だよ。イタリアンで…」
T 「あ、あの時はごめん」
W 「いや、それは別にいいんだけど…看病してくれたし。それよりさ…」
T 「…まぁだから実質今日入れてまだ3回だ」
W 「えぇー気持ち悪いな。毎回私が来るタイミングって…もうこの家来るのやめようかな」
T 「…そんな事言わないでよ…。偶然だって。だからいつでも来て…もっと来てくれたっていいんだよ。………というか実家出るつもりなら、まずお試しでここに軽く住んでみるとかでも…」
W 「いや、そういう話じゃなくって」
T 「半人前同士でもさ、まず二人で生活を初めてみる事で…そのうち子供とかも生まれたりして、親として、夫婦として戸惑いながらも成長して行く…『未来のミライ』みたいにさ…」
W 「また映画の引用?あれだよね細田守の一番新しいやつ…まだ見てないけど」
T 「うん。見た方がいいよ。…あーでも急に子供欲しいとか入籍したいって言ってるわけじゃなくて!俺みたいなオトナ子供は急に子供持つのとかは無理だろうし、まずは信頼できるパートナーと共に人生を歩む事で…」
W 「いや一人で勝手に完結しないでよ。あと、すぐなんでも無理だとか言って卑屈になるよね」
T 「あーごめん…。…ともかく、そう、だからまず安心して住めるようにはするよ、絶対」
W 「うん。だからやっぱり警察とかさ…」
T 「うーん。でもさ、この間も棟を間違えた痴呆の徘徊老人が深夜に勝手にこの家に入って来て警察呼んだし。あといっこ上の階に住んでる婆さんもキチガイでさ。頻繁にドアをバーンバーンって何回も叩きつけたり叫んだりするから、お向かいさんとか下の階の住人も含めて週一くらいで通報してるみたいだし…」
W 「この家そんな恐い場所なの?」
T 「問題だらけなんだよ。この家は。このベトベトもひょっとしたらどっちかのキチガイがやってんのかもしんないし…問題が重複してる可能性だって大いにあるよ。いやぁーまったく。団地になんて住むんじゃなかったよ。安いからいいけど(軽い感じ)」
W 「もうなるべく泊まるの辞めよう…」
T 「だからそんな事言わないでよ…」
W 「だって…あー、今日もまたこの話してるね」
T 「あ、ごめん。てか…とりあえず用意だけしちゃうか!といっても俺がさっきあらかたやっておいたからあんま用意するもんないけど」
W 「そうなの?珍しくえらいじゃん」
W、台所へ
T 「そう、えらいんですよ!さっき野菜とかウィンナーは切っておいたんだ!」
W 「ウィンナー?鍋にウィンナー入れるの?」
T 「えっ、だから鍋じゃなくてポトフでいいかってグループラインで決めたじゃん」
W 「…あーごめん、忙しくてちゃんと読んでなかったんだ私。ずっと鶏鍋食べるつもりだった…」
T 「あーなんかごめん。えと、だから、鍋しようって話になったじゃん?でもうち土鍋がなくって。そのために俺が金出して土鍋買うのもなんか嫌でね。あれ多分2,500円とかするでしょ?ニトリでも。で、みんなで買い出しにでも行った時に食料と一緒にどさくさに紛れて割り勘して土鍋買って、使い終わったら流れでうちのものにしようと思ってたんだけどさ、ラインで話した通りみんな予定が合わなくて、別々にうち集合にしちゃったから。結局そのままナアナアでうちにある小さい鍋でもギリ作れるポトフでいいじゃんて事になったじゃん。それが現状の要約」
W 「よくそんな臆面もなく正直に言うよね」
T 「正直だけが取り柄だからね。悪いことしても嘘言えないタイプだから」
W、鍋の中を確認する
W 「ふーん。…あれ、これポトフなんだよね?ジャガイモ入ってなくない?」
T 「あれ!?…そういえば入れてないかも…」
T、冷蔵庫の中を確認する
T 「まずい、買ってすらなかった」
W 「…もう二人着いちゃうかな?来る途中に買って来てもらう?」
T、携帯を確認して
T 「さっきメッセージ来てたけど…。あ、あと30分くらいで着くって。思ったより早いね」
W 「でもそもそもxx時(実際現時間より30分くらい前の時刻)って予定だったから大遅刻だけどね」
T 「何でだろうな、SEXでもしてたのかな」
W 「あーかもねー。いっつもベタベタしてるし、一緒に住んでると、ダラダラ…」
T 「くそー羨ましいな。こっちの迷惑も考えずに…。とりあえず火いれておこうか」
W 「え、煮立ちすぎちゃうから二人着いてからでもいいんじゃない?お酒飲みながらとかで 。ジャガイモも入ってないし」
T 「あー!!そう、この”お酒飲みながら”って感じ、言葉。ザ・宅飲みって感じですっげえそそる!」
W 「あっそう。でどうする?先飲んでる?」
T 「うーん…あ、それともあれやる?(実は元から誘う気だった感じ)」
W 「…あれ?」
T 「もうーわかってるくせに!」
T、押入れの上段から大麻吸入用ポングを出す
T 「これ、これぇー!」
W 「えーーー…」
T 「いや、俺はやるぞ。今日は無礼講なんだよ」
W 「いやー…そういうの私は別にいいんだけどさ…一応ここは日本なんだし…どこで手にいれてるのかとか考えると不安だよ」
T 「そこは全然安心して!クラブによく行く大学の時の友達が、知り合いのDJから貰ってるやつを分けてもらってるだけだから!」
W 「一番不安だよ…」
T 「大丈夫大丈夫、家でちょっと楽しむ分には。栽培もしてなければ、高野政所みたいに持ち歩いてもいないし」
T、火をつけて吸おうとする
W 「…じゃあ私外でタバコ吸って来ていい?」
T 「何言ってんだよ!こっちはたんまりと煙出るんだからもったいないからこっち吸えばいいじゃん」
W 「えーー」
T 「前来た時は喜んで吸ってたじゃん」
W 「あの時は酔っ払ってたから…」
T 「いいから座って」
T、Wにも半ば無理やり吸わせる
T 「ほーら…おくち上手…」
W 「その言い方やめて…」
二人、しばらく交互に吸う
T 「ねぇ、アレ見る?」
W 「アレって…?」
T 「ほーら、前も見たやつ」
W 「えー、、、アレやるのー?(少し笑う)」
T 「いいじゃん。用意するからね」
T、PCを用意する
W 「…やばい、もう笑えて来た」
T 「え、なに、結構入って来た?」
W 「いや、全然、全然吸ってないし。…でもダメだ、アレ見るのツボなの(笑)」
T、Safariを起動、YouTubeを開く
T 「今日はどれにしよっか?」
W 「(笑いながら)わからない、選んで」
『センセイ君主』の予告を検索して見る
T、W大爆笑しながら見る
T 「胸ボンババボンだろうがwww」
W 「いや、全然面白くないってwww」
見終わる
笑い続けると同時にTはWに覆いかぶさるようになる
T 「あーおっかしー」
T、Wの体を触ろうとする
W 「ちょっと、吸いすぎ、ダーメ」
T 「(マネして)ダーメ。ダーメ、じゃなーい♡」
W 「もう庵奈ちゃんたち来ちゃうんだよ」
T 「えーそんなコト言ってぇ、しゅけべなの知ってるんだから♡」
W 「やめてって」
T 「あーやらしい、やらしいんだ、どしゅけべマンコ、えっちな下着すごい」
W 「カンパニー松尾の真似はやめてって」
T、胸の方を触ろうとする
T 「ほら、豆腐の角を崩さないように触るのが一番女性が気持ちいいって岡田斗司夫が言ってて」
W 「岡田斗司夫の言うことをまともに受けないでよ!」
T、Wの首元に何か見つける
T 「・・・あ、これなーに?・・・俺が誕生日にあげたネックレスじゃーん!つけてくれてたんだ!」
W 「うん。たまにちゃんとつけてるよ。・・・で、早くどいてって」
T 「いいじゃーん、ちょっとだけ…ほら、祭りの前って小さな祭りやりたくならない?前夜祭的な」
W 「もうダメ」
T、体全体で押し倒す、が途中で止まる
T 「あっ!」
W 「何?」
T 「ジャガイモ、ジャガイモ頼むの忘れてた!っていうかさ、この状態で気づく俺、凄くない?」
W 「えっ、さっき買ってって連絡いれといてくれたんじゃないの?」
T 「いや、(Wを指して)言っといてくれるかなーって」
W 「言ってないよ…。もう、じゃあ自分で買いに行きなよ。二人着いちゃうよ」
T 「じゃあジャガイモ無しでいいーー」
W 「ジャガイモ無しのポトフがどこにあるもんですか。ほら、離れて」
T 「えーーなんでもーー。ポティトゥ一人じゃ買いに行けないよー!もっと優しくしてー♡ポテトボーイのポテトボーイ自身♡ポテトボーイジョージ♡カーマカマカマカマ〜♪」
W 「あっそう」
T 「えーもーそんなんじゃ一人でマスターベーションしちゃうぞー。(ハッチポッチステーションのメロディで歌う)♪マスターベーション ♪マスターベーション ♪何でもあるよ、オナホール」
W 「…うん。はいはい。(携帯出して)じゃあもう二人に買って来てって言っておくね」
T 「あ、わかった。じゃあさ」
W 「何?」
T 「今から俺がビッグA(スーパー)に買いに行ってくるからさ、5分…いや、もし4分以内で帰ってこれたらしようよ」
W 「いや、無理。もう庵奈ちゃんたちくるんだよ?」
T 「大丈夫、まだ来るまで25分くらいあるでしょ。俺が家を出てビッグAに着くまでに走って45秒、ジャガイモを見つけてレジ並んで買うまでに1分、帰って来るまでに45秒、レジが混んでたとして予備で1分30秒、これで4分。帰ってきたらソッコーで皮むいて鍋にぶち込むから…まぁ3分くらい。皮むき手伝ってくれる?」
W 「包丁一本しかないでしょ。無理」
T 「そうだった。で、まあ煮込んでる間に10分くらいでパッと済まして(手話の”SEX”の動作)、1分で後処理して服着て、2分で料理の下味とかを整える。これでジャスト20分。ほら5分も余る!」
W 「(被せて)いやいやいやいや、10分なんて絶対無理だから。前もさぁ、翌日朝から仕事あるって私言ってるのに結局ダラダラやってるせいで夜明けちゃったじゃん。結局絶対そうなるんだから、信用できない」
T 「今回は人が来るっていう絶対のリミットがあるんだから大丈夫!信じて!」
W 「そうこう話してる間にもう1分半くらい経ってるけどね」
T 「おっとやべえ、もう行くわ!じゃあ今からスタートね!時間測っといて!」
W 「いや、測らないから!測らないから…」
T 「4分だからな!」
T言いながら出て行く
W、鞄から手帳を出して予定を確認し始める
鞄の中をゴソゴソと探す
コツコツと窓に何か当たる音が聞こえる。W、窓の方へ
T、下から
T 「ごめーん!財布忘れちゃった!」
W 「うんー、取りに来なよ」
T 「投げてー!」
W 「え、やだー」
T 「いいから!早くー!ねえー!!」
W 「危ないからー」
T 「はーやーくー!」
W、しぶしぶ財布持って来て窓へ
W 「これねー?なげるよー」
T受け取る
T 「4分だからねー!今のロスはレジで取り返す!」
W窓を閉める
W、鞄を少しゴソゴソしたのち、スマホで電話をかける
W 「あ、お母さん?ねぇ、私の部屋の机の上かどこかにエピペンって置いてある?」
W 「うん、水曜に病院行った時に取り替えてもらって、まだ鞄にいれてなくて。置きっ放しになってるかも。(少し間)うん、ありがとう」
W 「あ、ある?ありがとう。うん、気をつけるね。あ、そう。水曜日の時に前の血液検査結果返って来たんだけど、カニとかイカはもうほぼ数値ゼロになってた。うん。本当に危ないって言われたのはもうエビだけかなぁ。うん。はーい気をつけまーす。あ、そのまま私の机の上置いといて。今日返ったら鞄に入れる。え、何?ふるい?あ、古いやつ?古いやつはねー、もう期限切れそうだから病院で回収してもらっちゃった。うん、はーい。帰ったらちゃんと入れます。はーい。あ、今日は外で食べてくるから大丈夫。じゃーね」
T帰って来る
T 「オッケー…!ジャスト4分くらい…より全然早くない!?レジと支払いが相当スムーズに行けた!ねえ何分だった!?」
W 「いや、数えてないから」
T 「え?なんで?え、数えといてって言ったじゃん…」
W 「私最初からやらないって言ったよね?」
T 「いや、そうだけど…」
W 「(いやな間)………前も言ったかも知んないけどさぁ、あんまりそうやって自分のペースでこられると凄く疲れるっていうか」
T 「え、ごめん…今日宅飲み…パーティだしさ…テンション上げていこう、みたいな…」
W 「他にもっとテンションの上げようあるでしょ?いつも自分のペースに巻き込もうとするよね。他の人にもこうなの?」
T 「いや、ほら、一番近しい人だから汚らしい欲求とかにも正直に、こぅ言いたいなーみたいな…」
W 「うん。それは良くないのは自分でもわかるよね?あと私明日も予定あるからさ、今日は泊まってもいけないからね。昨日の夜ラインしてる時もずっと泊まって行けって事ばっかり言ってたけど。ちゃんとこっちの都合もわかってね?」
T 「う、うん」
【1-2】T,W,丈治,庵奈
T、買って来たジャガイモを持て余す
ドアからノックの音が聞こえる
T 「…あ、はーい」
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