ヒヤリハット23 牛黒、大物にドンガラガッシャーンする

こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回は倉庫整理中での、あわや「落下」のヒヤリハットです。

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牛黒、大物にドンガラガッシャーンする

牛黒ベコは、明るい性格で、人柄も良いので、周りの人に慕われています。

その一方で、少々、いやかなり、大雑把な面もあります。
その大雑把さによって引き起こされる、様々なトラブルは、日常茶飯事でした。

飲み会などでの、定番の話題は、牛黒さんのやらかしたことでした。
そのような話題も、本人は頭をかきかきしながら、応じるのでした。

牛黒は、羊井をリーダーとするチームで仕事をしています。
そのため犬尾沢チームの猫井川とは、一緒に仕事をする機会は多くありません。それでも時々一緒に作業すると、牛黒に関する話題の片鱗に触れるのでした。

今日、猫井川は牛黒と一緒に、倉庫で整理を行うことになりました。

「今日はこの辺りの棚を移動だな。ちゃちゃっと終わらせようぜ。」

「一応、犬尾沢さんから、丁寧にと念を押されているので、
 あまり無茶しないようにしましょう。」

「わかってるって。心配ない。大丈夫。安心しろ。」

いつもの明るい感じで、牛黒が言いました。

「さて早速、この棚を動かす前に、周りの箱から片付けるか。」

そう言うや否や、棚の前に置かれたダンボールの一つを持ち上げました。
それにはたくさんの工具が詰まったものでした。

猫井川も「はい」と返事をすると、慌てて、作業を開始しました。

荷物を持ち運びを、何度か繰り返しました。
しかし本命の棚の前には、まだたくさんのダンボール箱がありました。

牛黒は最初はダンボールを一つずつ運んでいましたが、なかなか減らない荷物に、じれったく思ってきました。
そして、なるべく一度にたくさんの荷物を運ぼうと試み始めました。
手始めに、ダンボール箱を2つ重ねて持ってみました。しかし予想より重く、苦労していました。

「牛黒さん、さすがに2個持つのは無理じゃないですか?」

「いや、もうちょっと減らせばなんとか、いけるかもしれん。」

1つのダンボール箱の中から、少し荷物を取出しました。
そして再度持ち上げようとしますが、やはり無理そうです。

「うーん、やっぱり無理か。おとなしく1つずつ運ぶか。」

2つ運びを諦めた牛黒ですが、その足元には、先ほど取り出した道具が散らばっていました。

「牛黒さん、足元の道具を忘れてますよ。」

その様子に、猫井川が呆れ気味に言うのでした。

それから1時間ほどの間、何度も往復し、ようやく棚付近の荷物は運び終えました。

「よし、後はこれだけだな。
 ちゃちゃっとやってしまおう。」

「牛黒さん、少し休憩しません?」

「ん?まあ、先に棚も運んでしまって、後からゆっくり休もうや。」

牛黒のペースに引っ張られて、猫井川も休憩なしで、続けることになりました。

棚を運ぶと言っても、棚にはまだ荷物が載っています。
運ぶためには、先にこの荷物を降ろし、運ばなければなりません。
猫井川は、棚の荷物を持とうとしました。

「おいおい、これくらいの荷物なら、載せたままでも運べそうだろう。
このまま運んでしまおう。その方が早く終る。」

「いや、さすがに無理でしょう。
先に中の物を全部運んでからにしましょうよ。」

「大丈夫だって。何度もやったことがあるしな。
これくらいなら2人で持ち上げて運べるから。」

「無理だと思いますよ。
 そんなチャレンジをせず、素直に棚を空にしましょうよ。」

「大丈夫、大丈夫。
 お前も早く終わらせて、休憩したいだろ?
 棚の中身を出してしまうと、後からまた入れなきゃいけないぞ。
 でも、このまま運べば、もうそれで終わりだろう。
 な? 2人で持てば、大丈夫だって。」

牛黒は、結構強引な理屈でグイグイ迫ってきました。

猫井川は、さすがに無茶だと分かっているのですが、疲れていることもあり、時間短縮に魅力を感じました。
しばらく、押し問答を繰り返していましたが、最終的に先輩である牛黒が押し切りました。

「それじゃ、持ち上げるぞ。
いいか、猫井川。調子を合わせるんだぞ。
せーの!」

2人で力を合わせ、持ち上げました。
少し浮き上がりましたが、歩くのは難しいそうです。
しばらく持ち上げていましたが、一旦下ろすことにしました。

「ね、猫井川、もっと力入れろ。
もう一回行くぞ。せーの!」

ほんの少し持ち上がるばかりでした。

「はぁはぁ、牛黒さん、さすがに無理では。」

「大丈夫。コツをつかんだから、次はいけるから。
それじゃ、行くぞ。せーの!」

2人して、ムムムムと唸りながら持ち上げます。
今度は持ち上がりもしませんでした。

牛黒も諦め、急に力を抜きました。猫井川は力を込めたままです。
力の均衡が崩れ、棚は大きく揺れたのでした。

その時、一番上の棚に収められていた荷物が落ちてきたのでした。

ドンガラガッシャーン!

大きな音が響き渡ります。
牛黒もやべーという顔をしていました。

「おい、どうした?」

騒ぎを聞きつけ、鼠川が駆け寄ってきました。
そして、状況を見て、何が起こったのかをすぐに察したのでした。

「荷物を入れたまま、運ぶやつがあるか!
 どう考えても、無理だろうが!」

牛黒を叱ります。

「いや、これくらなら行けるかなと思いまして。」

牛黒の返答に、鼠川は、

「お前は同じことを何度もやって、失敗してるだろうが。
もしこういったものを倒したら、後から取り返しが掴んだろうが。
考えろ!」

と、さらに言葉を強めました。

「猫井川、お前も一緒に何をやっているんだ!」

「いや、最初は・・」と言いかけた言葉をぐっと飲み込むと、一緒に怒られるのでした。

猫井川は、これから牛黒さんの無茶ぶりは、しっかり拒否しようと学んだのでした。

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ヒヤリハットの解説

今回も牛黒エピソードです。
猫井川も牛黒のペースに巻き込まれてしまったようですね。
仕事がスピーディーに進めたいものですが、それが必ずしも良いとは限りません。

時間を掛かるけども、丁寧に行うことも重要です。
一方で時間をかけ過ぎてしまうと、いつまでも仕事が終わりません。
何事もバランスが必要です。

牛黒はどうやらスピーディーかつ雑というのがスタイルのようですね。
いっぱい詰まった本棚を運ぼうとすることを想像して下さい。
出来そうな気がしますか?
とてもじゃないですが、無理ですよね。
牛黒は、何の根拠があるのか、可能だと思ったようです。

仕事はきちんとした段取りと準備が大切です。
この場合であれば、中身を全て運び終えてから、棚を運ぶという段取りになります。

その手間を惜しみ、何となくでやってしまうと、悲惨な結果になることもあります。
無理なショートカットは、事故の元なのです。

仕事を早く終わらせたい、少ないコストでやりたいというのは、誰しも、どんな会社でもあります。

しかし安全が犠牲になってはいけません。
時間やコストの節約は、安全の代償であってはなりません。

とはいえ、下請けで仕事を受ける場合、値下げが求められることも多いでしょう。
そして仕事を受注するのは、安い見積を提示したところだったりします。

カットされているのは、質と安全です。

安い費用で安全対策もしっかりやらなければならない。
作業そのものではないので、見えないコストですが、見過ごしてはならないコストでもあるのです。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
荷物が収まったままの棚を運ぼうとしたら、中身が落ちた。

対策
1.棚を運ぶ時は、先に中身を取り出す。
2.仕事の段取りを決め、手順通り進める。

私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
ぜひ、こちらも訪問してください。

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