ヒヤリハット17 猫井川、思い出のファースト雷

前回から引続きのシチュエーションです。
スペイン料理屋で、猫井川と鼠川の話が続いています。
その中で話された、昔のヒヤリハットについて、解説とともにご紹介します。

今回は工事現場では必須のヘルメットに関わるヒヤリハットです。

画像1

猫井川、思い出のファースト雷

エスパニョール鼠川は、猫井川の向かいの席に座り、ワイングラスを傾けていました。そして飲み干すと、キープしている焼酎を頼みました。

「ここは、スペイン料理屋だから、ワインが合うんだけどな。
 わしは、やはり焼酎がいい。
 どうだ?お前も飲むか?」

スペイン料理と焼酎は合うのか?と思いつつ、頷きました。
焼酎と氷が届くと、鼠川は水割りを2人分作りました。

「そんなことより、お前の話をしろ!
 お前は前はバイトとかしてたと言ってたな。
 どんなことしてた?
 それで、何でこの会社に入ったんだ?」

グラスに口をつけていたところ、急に話を振られたので、少しむせてしまいました。

「前のバイトですか?
 うーん、学校卒業してから色々やりましたよ。
 居酒屋とかパチンコ屋とか、あとガードマンもやりました。」

「ほう、ガードマンか。
 道路の誘導か?」

「そうです。ちょっとの間でしたけどね。
 あれって、誰でもすぐにやれるかと思ったら、違うんですね。
 最初に、講習とか受けなきゃならなくて。
 やったのはいいんですけど、冬だったから、寒くて仕方なかったです。」

「そうだろう。
 わしらは寒空で仕事はあるが、体を動かすからな。
 ガードマンは、動きまわるわけにもいかないから、きついよな。」

「それが辛くて、すぐ辞めちゃいました。」

「そうか、こらえ性がないな。」

「まあ。。。
 ガードマンしている時に、道路工事とか見てましたよ。
 何やってるかは分からりませんでしたけど、いっぱい機械があるなと思いました。
 
 ずっとバイトばかりもダメだから、きちんと就職しようとと思いまして。」

「この会社に来たということは、お前の親父さんは、建設とかか?」

「いや、全然。普通のサラリーマンでしたよ。
 まあ、両親が離婚してからは、あまり会ってないので、今はよくわかんないですけど。
 だから父親の影響でとかではないです。」

「そうなのか。
 で、何でこの会社に?」

「当時、俺はものすごく太ってたんですけど、痩せるかなと思って。
 あと、ガードマンやってた時に、でかい機械を動かすのが面白そうだし、俺でも出来るかも思ったんですよ。」

「そんなに太ってたのか?
 今は普通くらいだから、想像つかないな。」

「結構なものでしたよ。
 面接の時に、太ってても平気ですか?痩せれますか?と聞きましたもん。」

「そうしたら、何て言われた?」

「大丈夫、半年もしたら標準になると言われました。
 半年とは言わないですが、1年くらいで、服のサイズがLLからMになりましたけどね。
 ちょっとずつ筋肉もついてきましたし。」

「ほほう。そりゃ目的はかなったな。
 体が資本だから、痩せるし、筋肉はつくわな。
 でも、最初はきつかったろう?」

「めちゃくちゃキツかったです。
 初日に辞めてやろうと思いました。」

「ははは。そりゃそうだ。
 太ってなくても、最初はきつい。
 でも慣れてくるんだけどな。」

「最初はしんどすぎて飯も食えなかったですもん。
 それで、痩せたというのもあるんですけど。
 確かに慣れてきますね。」

「若い者にしては、お前は我慢強いな。」

「まあ、それは年関係ないですって。
 俺の後にも、年上の人が入ってきましたが、すぐ辞めましたもん。
 もうちょっと続けていたら慣れるのに、もったいないなと思いました。」

「そうだな。
 1年くらい続けていると、仕事が分かってくるのにな。
 なんで、お前は辞めなかったんだ?」

「俺が最初に行った現場は、橋脚だったんですよ。
 今まで橋がどうやって造られるのかなんて知りませんでした。
 自分が関わった物が無事完成して、しばらくすると橋梁も出来て、通れるようになったときは嬉しかったですね。
 これは俺が作ったんだ!と思いました。

 でも仕事の時は、めちゃくちゃ怒られるし、辛かったですけど、それが吹っ飛びますね。」

「それが、わしらの仕事の醍醐味だな。
 お前はいいところに気づいている。

 ところで、お前が最初に怒られたことは覚えているか?」

「何となくですけど、覚えています。
 犬尾沢に怒られました。」

「どんなことだ?」

「あれですね・・・・


猫井川が、入社して間もない頃でした。
初めての現場は、橋脚工事でした。

「おーい、猫井川。そこのバタ角持ってきてくれ。」

犬尾沢が猫井川に呼びかけました。

「バタ角?バタ角って何ですか?」

「その四角い角材のことだよ。それを5本ほど持ってきてくれ。」

「はーい。」

大きなお腹の猫井川は、バタ角の前で屈み込み、1本ずつ腕に抱えていきました。両手で、5本抱ると、よろよろと歩いて行きました。

「持ってきましたー」

フゥフゥ言いながら、バタ角を運びます。

「おう、そこに置いてくれ。お前すごい汗だな。」

息を吐きながら、バタ角をドサッと落としました。

「おい!落とすな。静かに置け!」

犬尾沢に怒られました。

「は、はい。」

返事をしながら、汗をかいたので、ヘルメットをずらし、汗を拭きました。

「それと、汗を拭くのはいいが、ヘルメットのちゃんと調整しておけよ。
 あご紐もきちんと締めろ。
 ぶかぶかだと、役に立たないぞ。」

「はいー。」

ヘルメットなんて頭に被ってりゃ、別にいいじゃないかと内心思い、特に調整もしませんでした。

「猫井川、こんどはそこにある短い塩ビ管を、足場の上まで持って行ってくれ。足場だから落ちないように、よーく気をつけろよ。」

猫井川は返事をすると、塩ビ管3本を抱えていきました。

「ふぅ、休む暇ないな」
と独り言を言いながら、また額から流れる汗をそのままに歩きました。

足場の前に立つと、汗が目に入りヒリヒリしました。

階段を登りながら、塩ビ管を抱えたままの腕を顔に持って行き、何とか汗を拭こうとします。

2度、3度汗を拭います。

その時です。
拭った腕がヘルメットに辺り、するりと後ろにずれてしまいました。
後頭部までずれこむと、ヘルメットのあご紐は、猫井川の首に掛かり、締め付けたのでした。

「ぐへぇ」

妙な声を出しながら、猫井川は後ろにそり返りました。か

階段を、後ろに倒れそうになった時でした。

ガシッと背中を支えられる感覚があり、倒れるのを免れました。

「す、すみません。ありがとうございます。」

そう言って振り返った猫井川の目に映ったのは、顔を真赤にした犬尾沢でした。

「猫井川!こういうことがあるから、あご紐を調整しろと言ったんだろうが!」

ひぃぃぃ!と唸る猫井川の汗は、冷や汗も加わり、作業服の上半分をじっとりと染め上げるのでした。

「・・・確か、こんな感じでした。」

猫井川は、語り終えました。

「ははは、最初から雷を落とされたか。」

「今では、なぜ怒られたのか、理由は分かりますけどね。」

「そんなもんだ。少しずつ覚えていくもんだ。」

そういう2人の話は、まだ続きそうです。

画像2

ヒヤリハットの解説


前回からの引き続きで、鼠川と猫井川が飲みながら話をしていました。

猫井川は昔ものすごく太っていたようです。
体を使って働く内に、脂肪は燃え、スリムになってきたようでした。
きっと今でもお腹の皮膚には妊娠線があるのでしょう。
きちんと健康的な体型になったということは、猫井川にとっては、今の仕事が、とても合っていたのかもしれませんね。

さて、今回のヒヤリハットは、、ヘルメット(保護帽とも言います)に関してです。

建設業の現場に限らず、工場内や倉庫作業、運送業の荷役作業などでは、保護帽、つまりヘルメットは必須でしょう。
特に建設業の公共工事ではヘルメットを未着用だと、即退場です。
民間の住宅建築などでは、未着用の方も多々見られるのですが。

ヘルメットの役割は、何と言っても頭を守ることです。
何から守るのか?
それは、落下物や墜落時の激突、その他の障害物です。

直接作業をしていなくとも、工事現場を歩くと、ヘルメットがあちこちに当たるのがわかります。足場などでは特に当たります。
もしヘルメットをかぶっていなければ、頭は傷だらけです。

ヘルメットは、ただ単にかぶるだけでは、不十分です。
正しいかぶり方があります。

まずきちんと頭全体をしっかり覆わなければなりません。
阿弥陀かぶり等と言われますが、ナナメに後ろにずれたようなのはダメです。

また、きちんと頭を覆っていても、ブカブカでは効果が薄くなります。
頭の周囲の合わせて、内部のバンドを狭くしたり、広げたりして調整する。
そしてあご紐の長さを調整して、グラグラしないようにします。

頭に合わない、またすぐに脱げてしまうようなかぶり方をすると、頭に衝撃を受けたときには、ずれたり、脱げたりします。

猫井川の場合、頭の周囲の調整も、あご紐も緩いままの状態で仕事をしていました。そのため少し触れただけで、頭から外れてしまったんですね。

と今回のケースもあご紐が首を絞め、階段から落ちそうになったということなので、結構危険でした。

ヘルメットの調整は、必ずやっておきましょう。
そして、ヘルメットは、あご紐を確実に着けましょう。

被っただけでは、全く意味がありません。
もしそんな作業者がいたら、注意してください。

猫井川は、ひっきりなしに汗が流れていたのも、一因でした。
夏場、汗を吸収するために、ヘルメットの下にはインナーキャップやタオルを巻いたりします。

ただしその場合一つ注意点があります。
ヘルメットの下にタオルを巻くと、ずれる原因になります。
タオルよりは、薄手のインナーキャップ等が販売されていますので、このようなものを使うことをお勧めします。

保護具は命を守る最後の砦です。
猫井川の最初の教訓は、保護具の大切さだったというわけですね。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
汗を拭ったら、ヘルメットがずれて、あご紐で首が絞められ、倒れそうになった。

対策
1.ヘルメットのあご紐など、きちんと調整する。
2.汗が流れないように、ヘルメットの下にインナーキャップ等をかぶる。


私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
ぜひ、こちらも訪問してください。

最後にCMです。
清文社さんより、安全に関しての小冊子を出しております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?