ヒヤリハット7 襲いかかる数百キロの振動ローラー

こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。

今回は土木工事で使う振動ローラーで、あわや「激突され」のヒヤリハットです。

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猫井川ニャンは、犬尾沢ガウの指示で、小型の振動ローラーの片付けを行うことになりました。
 
小型振動ローラーとは、土の地盤や砕石を締め固めるものです。地盤に接しているローラー部分が細かく振動しながら移動するのが特徴です。
ローラーは手で持ち動かします。重さは100キロ以上あります。ローラー自体の重さと振動で土を締め固め(圧縮)るのです。
締め固めていない地盤は、時間が経つと沈下するので、土木工事には欠かせない機械です。

この機械は現場では使い終わったので、持ち出し、倉庫に保管することが、猫井川の今日の仕事なのです。

今回は1人作業です。いつものパートナーの保楠田はいません。
保楠田は、現場で猫井川を見送っただけでした。

1人作業で、少し寂しい猫井川。なぜか独り言も多くなります。

「今日は~、1人でおっしっごと♪
 
 1人で作業を任せるようになったのは、犬尾沢さんも、少しは認めてくくれてきたのかな。

 まあ、俺もしっかりしてきたから、認めざるをえないかもしれけどね。
 
 それにしても、この前の兎耳長さんにはびっくりしたなー。
 まさか、ボクシング経験があったなんて。
 普段からは考えられないくらい、ものすごく早い動きだったし。
 謎が多い人だ。」

倉庫でトラックを降りて、シャドーボクシングの真似事をする猫井川。
その後姿に、日差しが当たり、神々しさを感じさせます。

振動ローラーは、倉庫の中でも少し奥にある、機械置き場に保管します。
倉庫の入口にトラックを止め、ここで振動ローラーを天井クレーンで運びます。

猫井川は天井から吊り下がったリモコンを操作して、クレーンをトラックの荷台まで移動させました。

そして、操作の前にはぷらんぷらんと揺れているリモコンを、ボクシングジムにあるパンチングボールに見立てて、パンチを繰り出したり、パンチを避けたりする動きも怠っていません。

トラックまでクレーンが来ると、次はローラーを吊り上げです。
吊り上げは、ナイロンスリングを使って、玉掛けすることにしました。

重心はどこかを見定めながら、取手部(ハンドガイド部)と本体にナイロンスリングを掛けました。

そしてナイロンスリングをクレーンのフックに掛けると、猫井川はいったんトラックの荷台から降りました。
吊上げは、荷台から降りて、安全なところで行うつもりなのです。

「バランスはちゃんと、とれてるかな?
 ちょっと吊って見てみようかな。」

クレーンのリモコンを操作して、少しだけクレーンを巻上げました。

ゴゴゴッと音を立てて、少しずつクレーンのチェーンは巻上げられていきます。それに伴い、振動ローラーも持ち上げられます。

この振動ローラー少し浮き方に偏りがあるようです。
猫井川も少し気になりましたが、地切(少しだけ浮かせてバランスを見る)で、どの程度重心がずれているのかをチェックしようと思いました。

振動ローラーが完全に地を離れた瞬間。

突然、振動ローラーが横に振れて、猫井川に迫ってきました。

あまりの勢いに、さっきまでやっていたボクシングの真似事さながらの避けを行う暇もありませんでした。

ぶつかる

猫井川がそう覚悟した瞬間、ガゴーンと音を立てて、振動ローラはトラックのアオリにぶつかったのでした。

猫井川、危機一髪。

もし、トラックの上にいたら激突していました。
もし、トラックのアオリがなかったら、顔面にあたっていました。

世界が止まるとはこのことでしょう。
猫井川の四方10メートルは、沈黙の世界となっています。

自分の世界に戻ってきた猫井川は、汗を拭いつつ、また振動ローラーを下ろしました。

「やばい、さっきのは死ぬかと思った。
 いきなり迫ってきたら、避けられないよ。
 兎耳長さんはよく避けられたな。」

どうやら、重心が偏りは、猫井川が思っていた以上に大きなものだったようです。

再度、ナイロンスリングを掛けます。
今度は、慎重に重心を見極めて、掛けました。

玉掛けが終わると、またトラックの荷台から降り、さっきよりも離れた場所、リモコンのケーブル限界まで離れて、操作を行いました。
またジワジワとクレーンを巻上げます。

少しずつ地を離れていく振動ローラー。今度は水平を保っています。

5センチ程浮かせても、横に振れることもありません。
今度の地切チェックは、無事パスしました。

ホッと息をなでおろし、いつもより慎重にクレーンを操作し、振動ローラーは所定の位置まで運び終えました。

無事に振動ローラーを下ろし、ナイロンスリングを外している時に、猫井川の携帯が鳴りました。
犬尾沢からのようです。

「おう、猫井川。もうローラーは降ろした?
 トラックに乗って、また現場に戻ってきて。」

犬尾沢の現場への帰還命令を受け、一仕事と終えた猫井川は現場に戻ります。

現場に着いて、トラックから下りると、犬尾沢が近づいてきました。

「猫井川、次の作業だけど・・・・
 なあ、トラックの荷台ぶつけた?」

低いトーンの犬尾沢の問いかけ。
猫井川が焦ってトラックの荷台を見ると、そこにはさっき振動ローラーをぶつけた跡が、しっかりと残っていまいした。

「注意して、動かせや!!」

犬尾沢の雷が落ちてきました。

この雷も、華麗にかわすわけにはいかなかったようです。

どうやら猫井川は、兎耳長と同じようにはならなかったようですね。

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ヒヤリハットの解説

今回は、重量物を玉掛けし、吊り上げた時に起こりがちなヒヤリハットです。

形が棒状や四角などわかりやすい形をしていると、重心の位置を見極めるのは、比較的簡単です。
しかし、吊り上げるものが複雑な形の場合は、重心の見極めは困難になります。今回の振動ローラーも、難しいものだったようです。

玉掛けとは、クレーンで吊り上げるために、荷物をワイヤロープやナイロンスリング(繊維ロープ)などでくくる作業のことです。
ワイヤーなどの掛け方が悪いと、荷物が大きく振れたり、落下したりするのです。

荷物の吊上げでは、本格的に吊り上げる前に、地切を行います。
地切とは、5センチ程度浮かせてみて、バランスや安定度をチェックすることです。
もしバランスが大きい場合は、もう一度やり直さなければいけません。

振動ローラーが大きく振れ、猫井川に迫ってきたのは、地切を行っている最中でした。地切で襲いかかってきたのですから、相当に重心は傾いていたのでしょう。

この場合は、先にナイロンスリングの張り方もチェックするべきだったかもしれません。
地切して動くのですから、ナイロンスリングの緊張の仕方も、一方だけ非常に張っていたと想像されます。
ナイロンスリングの張り、緊張している状態で、一旦停止し、偏りがないかをチェックする。

地切の前のチェックとして、これも大切なことですね。

そして、地切りをする前に、トラックから降りて避難していたことで、接触は起こりませんでした。この点はとても良かったですね。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
振動ローラーをトラックから降ろそうとしたら、大きく横振れして、接触しそうになった。

対策
1.地切時に、完全に浮かせる前に、一旦停止し、ナイロンスリングなどの
 緊張状態を確認する。
2.地切りをする前に、安全な距離(2メートルくらい)まで離れる。

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