ヒヤリハット13 犬尾沢、型枠でぱっくりと裂ける

こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。

今回も鉄筋・型枠作業での、あわや「転倒」のヒヤリハットです。

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犬尾沢、型枠でぱっくりと裂ける

型枠の作業を終えた、犬尾沢ガウたちは会社に戻ってきました。

会社に戻ると、猫井川は救急箱に向かいました。

「さっき、鉄筋で転びそうになった時に、すねを打っちゃったみたいです。
 湿布もらいます。」

湿布を1枚取ると、自分の席に行き、裾をまくり上げました。
先ほど、ぶつけた場所は、案の定青くなっていました。。

「うわー。かなりやっちゃったね。」

隣の席の保楠田が、覗き込んで言いました。

「仕事してる時は、痛くなかったんですけどね。
 帰る時に、だんだん痛くなってきまして。」

猫井川が湿布を貼っていると、後ろから声がかかりました。

「おう、猫井川。また何かやらかしたの?」

振り返ると、そこには羊井メェ(よういめぇ 36歳)がいました。

羊井は、犬尾沢チームとは別のチームのリーダーでした。
そのため別の現場で作業をしていました。

羊井たちのチームも現場作業を終え、会社に戻ってきたのでした。

「ええ、配筋の上を歩いてて、足を踏み外しちゃいまして。」

「ははは。相変わらずだなー。
 また犬尾沢に怒られたのか?」

笑いながら、羊井が尋ねました。

「怒ってねーよ。
 いつもそんなに怒らないよ。」

その会話を聞いていた、犬尾沢が口をはさみました。

「いやいや、犬尾沢は気が短いからなー」

「今回は、怒られてないですよ。
 むしろ、倒れそうなところを助けてもらいました。」

猫井川は、答えました。

「ほうほう。それは珍しい。」

笑いながら、羊井が言いました。

「あ、そうだ。
 その時に保楠田さんが言ってたんですけど、
 昔、犬尾沢さんも同じようなことがあったそうなんですが?
 羊井さんは知ってますか?
 
 その話をしようとしてら、犬尾沢さんが怒ってましたけど。」

昼間、保楠田からその話を聞こうとしたところ、犬尾沢から「仕事しろー」と怒られたのでした。

「ん、何の話?」

羊井が聞き返すと、保楠田が答えました。

「いやね、昔、犬尾沢くんが配筋してたときに、転びそうになったのあったじゃない。
 その時にことを思い出して、猫ちゃんに話そうとしてたんだよ。
 あの時は、羊井くんもいたんじゃなかったかな?」

「あー、そういえば、何かあったかも。
 でも、それって、10年位前ですよね? 
 保楠田さん、よく覚えてるね。」

「いやね、ふと思い出したんだよ。」

2人の会話を聞いていて、猫井川が口をはさみました。

「結局聞けてないんですけど、どんなことがあったんですか?」

ちらりと犬尾沢の方を横目で見ると、少しむっとした様子ですが、話を止めさせようとする素振りはないようです。

「んー、じゃあ、軽く話そうか。
 ヒヤリハットということでな。
 まあ、これを聞いて、猫井川は気を引き締めろってことだ。」

羊井はそう言うと、話し始めました。

「大体10年くらい前、俺と犬尾沢、保楠田さんが同じ現場にいた時だな。」

10年前、犬尾沢や羊井は、まだ若く、経験もありませんでした。
仕事を覚えることに、一所懸命でした。

その日は、鼠川チュウ一郎(そがわちゅういちろう 当時52歳)をリーダーとする現場での作業でした。
作業内容は建物基礎の配筋と型枠工事でした。

配筋は組み上がり、保楠田と羊井は型枠用のコンパネを組み立てていたのでした。

「おい、犬尾沢。
 型を組む前に、配筋がきちんと組めてるかチェックするぞ。」

鼠川は、犬尾沢に指示し、鉄筋を固定している番線が緩んでないか、不足はないかなどを見て回ることにしました。

配筋の上を歩きながら、鼠川は犬尾沢に説明しました。

「いいか。配筋する時に、こうやって番線でくくっているだろう。
 もし数が足りないと、コンクリ打った時に、崩れるからな。
 こういうところも見るんだぞ。」

鼠川は細い鉄筋の上を、ノシノシと歩いていきました。
しかし慣れない犬尾沢の足取りは、恐る恐るといった感じでした。

「そういえば、お前、最近太った?」

配筋の確認していると、鼠川は唐突に訪ねてきました。

「ええ。最近ちょっと。
 結婚してから、食べるようになりまして。」

「ははは、なるほどな。
 この前結婚したばかりだもんな。
 嫁さん、料理うまいのか?」

「そうなんですよ。それで、肉がついてきちゃいまして。
 ズボンなんか、少しきつくなってきました。」

「それは、いいな。仲がいいのは、よいことだ。
 まあ、太りすぎには注意だがな。」

2人で配筋の状態を確認し終えたころ、保楠田たちは型枠を組み終えていました。

「コン、もう型できる?」

「とりあえず、組んだとこなんで、これから固定ですね。」

「よし。それじゃ、犬尾沢、わしらはセパを取り付けていくぞ。」

型枠にコンクリートを打ち込むと、内圧がかかります。
内圧がかかると、型枠は押し出され、隙間ができたりします。
対策として、型枠のに細い鉄筋を通して、型枠の外からがっちりと固定してやります。この細い鉄筋をセパレーター(略してセパ)といいいます。
セパは型枠を組んだ形にキープするためにつけます。

コンクリート打ちっ放しの壁などには、所々に丸く凹んだ箇所があります。あれはセパを取り付けていた場所です。
コンクリートが固まった後に、鉄筋を折り、その跡をモルタルで埋めるのです。

鼠川はこの作業を犬尾沢と一緒にやろうとしているのです。

「おい、犬尾沢、材料持ってこい」

「はい」

鼠川に言われ、犬尾沢は材料を取りに行きました。

「犬尾沢は、セパ付けは初めてか?」

「はい、やったことないです。」

鼠川に聞かれ、犬尾沢は答えます。

「よし、とりあえずやり方を見てろ。」

鼠川は、まずは自分で手本を見せました。

「いいか、ここをしっかり固定しないと、コンクリが流れるからな。
 よく、締めるんだぞ。
 よし、次はお前がやってみろ。」

自分で1つやってみせると、次に犬尾沢にやらせてみます。

見よう見まねですが、型枠に穴を開け、鉄筋を取り付け、固定します。

「よしよし、そんな感じだ。
 もう1個やってみろ。」

そうやって、犬尾沢にいくつかやらせながら、指導しました。

「これで、大体わかったな。
 わしは、あっちからやるから、犬尾沢は別のところを進めていけ。
 わかってると思うけど、しっかり締めて、固定するんだぞ。」

「はい。わかりました。」

大体、作業内容が分かった犬尾沢は張り切って返事しました。
そして、今作業していていた場所から、別の場所に移動しました。

さあ、やるかと、型枠に足をかけようとした、その時です。

「あ、犬尾沢!まだそこの型は立ててるだけで、釘打ってない。」

羊井が、型枠に足を掛けた犬尾沢に、焦って言いました。

しかし間一髪遅く、犬尾沢が足を掛けた型枠は、外側に倒れていきました。

「えっ?」

犬尾沢は足は、倒れる型枠とともに、どんどん開脚していきました。

「おおおお!?」

何とか倒れないようにバランスを取ろうとしますが、どうにもできません。
足は引っ張られていきます。

バリ!!!!

型枠が倒れると同時に、何かが裂ける音がしました。
型枠のコンパネが倒れた音とも違うようでした。

犬尾沢はというと、大きく足を開いていますが、何とか倒れずに踏ん張っていました。
しかし、何か様子が変です。

「犬尾沢、大丈夫か?」

3人が声を掛けました。

「だ、大丈夫です。
 でも、股が。。。」

よくよく見てみると、犬尾沢のズボンの股の部分が、バッサリと破れているのでした。

「なんだ、それは!!!
 あはははははは」

鼠川、羊井、保楠田は大笑い。

顔を真赤にしている、犬尾沢。
作業服のズボンの間から、ハート柄のパンツがチラチラと覗いていました。

「さっき太ってきたとか言ってたもんな。
 ズボンもパツンパツンだったんだな。ははは。」

鼠川は大爆笑しながら、言いました。

「とりあえず、パンツ出しながら仕事もできんから、カッパの下でも履いとけよ。」

そう言われて、そそくさと犬尾沢は、カッパを履きに行ったのでした。

・・・
「と、まあ、こんな感じだったんだよ。」

羊井は、そう言って、話し終えました。

「いや、ちょっと待て。
 ハート型のパンツは履いたことないぞ!」

犬尾沢が否定します。

「あれ、そうじゃなかったっけ?」

羊井がとぼけると、犬尾沢はさらに続けます。

「そんなわけないだろう!」

「まあ、パンツの柄はともかく、昔は犬尾沢もあれこれやらかしてたんだよな。」

羊井は、猫井川に言いました。

「まあ、確かに、この仕事をしてると、色々あるけど、羊井もやらかしてるだろう。」
犬尾沢が言いました。

「あれ、そうなんですか。
 どんなことがあったんですか?」

猫井川が、犬尾沢に聞きました。

「まあ、例えばだ・・・」

犬尾沢は、復讐と言わんばかりに、羊井の話をしようとしたのでした。

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ヒヤリハットの解説

今回は、犬尾沢の過去のヒヤリハットを紹介しました。

新しい登場人物として、羊井メェと過去の上司、鼠側チュウ一郎が登場しました。

今はリーダーとして現場を仕切る、しっかり者の犬尾沢も、たくさん失敗し、経験を積んで来ているのです。
犬尾沢は10年前に、結婚していたんですね。

次は、犬尾沢とほぼ同期の羊井のエピソードになります。

さて、今回のヒヤリハットも、鉄筋の組立、つまり配筋と、型枠の時の出来事です。

セパ、セパレーターといいますが、型枠がコンクリートの内圧に押され、変形したり、隙間が出来ないように固める器具を取り付ける作業中に起きたことです。

型枠は最終的にコンクリートが出来上がる形に組んでいきます。
型枠が接している面通しを釘で固定し、その後にセパや、支え棒などで強固にしていきます。

型枠の組立とセパ取付を同時にやろうとしてたところ、まだ立ててるだけの型枠の上に乗ってしまって、転びそうになったのでした。

犬尾沢も作業の進行状況を把握できていなかったので、まだ未着手の部分に手を出したのでした。

自分だけでなく、周りの作業の進行状況を把握するは大切なことです。
仕事には順序や段取りがあるのです。

ちょっと作業を先に先にと進めすぎましたね。

不安定な足場では、作業も十分にできないのです。
この場合であれば、それほど配筋や型枠の高さも無いのですから、地面に立って作業するのがいいですね。

失敗を重ね、反省を重ね、身につけていくものもあります。
犬尾沢もたくさんの失敗を重ねて、成長してきたんですね。

新たな登場人物も出てきました。
犬尾沢チーム以外のチームも登場してきました。

これによって、また色々なヒヤリハットが登場してきそうですね。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
固定していない型枠の上に足を乗せたら、倒れた。

対策
1.周りの作業進行状況を確認する。
2.不用意に型枠に足をおかない。

私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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