ヒヤリハット12 猫井川、鉄筋に足を突っ込む
こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回は鉄筋組立での、あわや「転倒」のヒヤリハットです。
猫井川、鉄筋に足を突っ込む
今日、猫井川ニャンは、犬尾沢ガウと保楠田コンと一緒に、建物の基礎工事の現場に来ていました。
今回施工する建物は、倉庫です。小さな平屋で、RC(鉄筋コンクリート)造の作りです。
すでに基礎は、鉄筋の組立が終わり、型枠の組み立てている最中でした。
多くの場合は、土木や建築の工事は、多くの専門業者があり、鉄筋や型枠などは専門業者に任せます。
ところが猫井川のいる会社は、小さな工事であれば、ある程度は自社でやってしまう特徴があります。中には、専門業者に劣らない腕を持った職人もいます。
保楠田は、そんな職人の1人です。
特に昔、大工をやっていた経験があるので、型枠組立は社内でもNO.1のの腕を持っているのでした。
寸法をビタっと合わせて、コンパネを切り揃えるのはもちろん、ちょっとやそっとでは壊れないくらい頑丈に組み立てるのでした。
今回の仕事は、型枠組立ですから、保楠田が中心となって作業を進めていきました。
電動の丸のこぎりのビュイーンという音や、コンコンと釘を打ち込む音が、作業場には響いていました。
「保楠田さん。
こっちの支えは、こんな感じでいいですか?」
猫井川が、型枠を支える杭を指差して聞きました。
「いや、そこよりも、もっと角の部分を固めて。
杭はもう少し土に埋めたほうがいいね。
足で蹴っても、動かないくらいにしておいてね。」
保楠田のアドバイスを受けて、猫井川はつっかえ棒の位置を調整しました。
そして、ガンガン蹴り、強度を確認していったのでした。
「猫井川、何か恨みでもあるのか?
そこまで強く蹴らなくてもいいよ。」
犬尾沢が呆れながら、言いました。
「型枠も出来たから、保楠田さん一度、確認して下さい。
猫井川は、俺と配筋の確認をやっていこう。
明日、配筋検査をやってから、コンクリート打ちだからな。
猫井川は、マーク用の磁石と尺を持ってきて。」
「はい。それじゃ、保楠田さん、後お願いします。」
猫井川も、保楠田に声を掛けてから、指示されたものを取りに行きました。
「あいよー」
猫井川の背中に、保楠田の声がかかります。
猫井川は、磁石や尺などを持って、鉄筋で組まれたコンクリートの骨組みの上を入りました。
しっかり組まれ、固定された鉄筋は頑丈なので、人が上に乗っても、問題ありません。
しかしながら、足を乗せるのは、細い鉄筋に過ぎません。
猫井川は、足を踏み外さないように慎重に、犬尾沢の元へ歩いていきました。
「猫井川、歩く時ビクビクしすぎ。
それじゃ、縦のラインに赤の磁石を付けて、横のラインに青の磁石を付けていくから。
こうすると、検査の時とかに、本数を数えやすいし、ピッチの長さも測りやすくなるからな。」
こうして、2人で鉄筋に付けていきました。
磁石を付け終えると、尺でピッチ間隔を計測し、配筋の縦横の長さも測ります。
「うん。設計通りで大丈夫だな。
明日の検査もこんな感じでやるからな。
磁石は検査まで、このままにしておこう。」
犬尾沢は満足そうに、言いました。
そして足元に目をやると、しゃがみ込み、鉄筋の中に手を突っ込みました。
「ゴミが残っているな。
これだとコンクリートを打つ時に良くないから、拾っていこうか。
俺はこっちの半分をやるから、猫井川は残りの半分を見ていってくれ。」
「はい。わかりました。」
犬尾沢の指示を受けて、猫井川が鉄筋の上を移動しました。
最初はこわごわ歩いていましたが、少し慣れてきて、歩くスピードも早くなってきました。
「あんまり調子のってると、転ぶぞ!」
そんな猫井川を見て、犬尾沢は言います。
猫井川が、少し振り返りながら、「大丈夫ですって」と言いかけた時でした。
案の定、足を鉄筋から踏み外し、下の段まで踏み込んでしまったのでした。
猫井川は、鉄筋でスネをしたたかにぶつけてしまいました。
「ぎゃッ」
と、声にならない奇声を発しました。
しかしこれでは終わりませんでした。
今度は鉄筋にぶつけたスネを支点にして、体が前のめりになってしまいます。足元も下の段の鉄筋に固定されいるので、このまま勢いよく倒れると、足がポッキリと折れてしまいます。
「あ、やばいかも」
猫井川が、そう覚悟した時でした。
後ろからガシッと猫井川の腕が掴まれたのでした。
間一髪、倒れ込むことは免れました。
後ろを振り返ると、そこには犬尾沢いました。
いつの間にか、近づいていたようでした。
「全く、お前は。
だから気をつけろといったのに。」
いつものように、激怒するわけでもなく、呆れたような口調でした。
「す、すみません。
助かりました。」
怒鳴られなかったことに、やや戸惑いを覚えながら、猫井川は足を引き抜き、鉄筋の上に立ちました。
「じゃ、しっかり続きをやれよ。」
そう言うと、犬尾沢は振り返り、去っていきます。
そんな様子を見ていた保楠田が、懐かしそうに言いました。
「そういえば、犬尾沢くんも昔同じようなことやっていたね。
猫ちゃんに負けないくらい、いろんなことをやらかしてたし。」
「いや、それはいいじゃないですか!
昔のことですし。」
保楠田の言葉に、少し声を大きくして、犬尾沢が言いました。
「へー、犬尾沢さんも、そんなことがあったんですね。
何があったのか聞かせてくださいよ。」
興味津々に猫井川が尋ねます。
「それがね・・・」
「ストップ!
とりあえず、先に仕事しろ!」
保楠田が話しかけたところで、犬尾沢が大声で話を止めます。
顔が真っ赤です。
そこまで、言われては、この場ではこれ以上話せません。
犬尾沢はどんな失敗をしていたのか。
絶対聞いてやろうと思いながら、痛くなったすねをかばい、ゴミ拾いをする猫井川なのでした。
ヒヤリハットの解説
今回は、鉄筋の上で、転びそうになったヒヤリハットです。
今回は主役は猫井川ですが、どうやら犬尾沢も過去に同じような経験がありそうです。
いつもしっかりしたリーダーをやっている犬尾沢が、何をやらかしていたのかは、今後明らかになるかもしれません。
さて、今回のヒヤリハットです。
コンクリートで構造物には、大きく無筋と有筋の区別があります。
有筋とは、鉄筋が入っているという意味です。
コンクリートは圧縮する方向には強いのですが、引っ張る力には弱い性質があります。鉄筋を入れることで、引っ張る力を補強してやることができます。
建物の基礎(床)、壁、天井は、有筋コンクリートで造られています。
鉄筋とは、鉄の棒です。太さは色々規格があるのですが、元々は4メートルくらいの棒です。これを切ったり、曲げたり、加工し、所定の位置に配置して組み上げていきます。これを配筋と言います。
コンクリートを打設してしまうと、後から配筋状態を確認することはできません。
そのため、配筋が完了し、コンクリートを打つ前までに、配筋が設計通りの大きさか、鉄筋と鉄筋の間隔(ピッチ)は設計通りかなどを検査することが多いのです。
やや説明が長くなりましたが、今回の話の背景は、こんな状況です。
猫井川と犬尾沢は、翌日の検査とコンクリート打設に備え、自主検査などをやっていたのでした。
鉄筋の上は歩けるのですが、しょせんはただの鉄の棒です。
当然のことながら、地面の上とは違いますね。
通常は移動のために目の細かい網(メッシュロード)を敷いて、その上を歩きます。
今回はメッシュロードはなかったようです。
メッシュロードのない状態で、早歩きなどすると、猫井川のように隙間に足を突っ込んでしまったり、足をひっかけて転んでしまうこともあります。
特に雨で濡れていたりすると、より滑りやすくなります。
現場では、ガシガシ鉄筋の上を歩いている姿を見かけるのですが、これもなかなかの職人技なのかもしれません。
今回のヒヤリハットのまとめ
ヒヤリハットの内容
鉄筋の上を歩いていたら、足を滑らせ、転びそうになった。
対策
1.配筋の上に、メッシュロードを置く。
2.急がず、ゆっくり、足の裏の真ん中で踏むように、慎重に歩く。
私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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