ヒヤリハット22 兎耳長、鉄パインプでゴロンする
こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回は、あわや「転倒」のヒヤリハットです。整理整頓、大事です。
兎耳長、鉄パインプでゴロンする
犬尾沢チームの今回の仕事は、羊井たちの建築作業のサポートでした。
明日から外壁工事を行うため、羊井たちは準備を行わなければなりません。簡単な足場も自分たちで組まなければならないのですが、羊井たちだけでは、手が足りません。そこで犬尾沢、兎耳長、猫井川、そしてエスパニョール鼠川が来たのでした。
「よし、まず鋼管を運んで、それから一気に組立を行おう。
鋼管は、組みやすいように並べておくように。
バラバラに置いていたら、作業しづらいだけでなく、転がって危ないからな。」
犬尾沢が作業手順を説明すると、早速みんなトラックの荷台から向かい、鋼管を運びはびめました。
「自分たちで足場を組むなんて、珍しいですね。
いつもは足場屋さんに頼むのに。」
猫井川が、犬尾沢に聞きました。
「うん。いつも頼むんだが、今回は急だったこともあり、頼めなくてな。
そんなに大きくもないし、一応俺も資格は持ってるからな。」
「資格って、俺が前に受けたのと同じものですか?」
「いや、あれは特別教育だから、作業するのに必要なのだ。
俺が持っている資格は、足場組立の作業主任者だ。
これは、5メートル以上の足場を組んだりする時に、現場指揮をするために必要なもので、特別教育の上の資格だな。
何年か前に羊井とかと一緒に、講習を受けたよ。
今回のは高さが5メートルもないから、作業主任者は必要ないんだけどな。」
「なるほど。
俺もそのうち受けたほうがいいんでしょうか?
それにしても、この仕事は資格がいっぱいありますよね。」
「建設業は資格、資格だな。
猫井川も、少しずつ資格を増やしていって、どんどん作業を任していければな。
よし、作業床はここに並べて、置いていこう。」
そんな話をしながら、支柱や手すりとなる鋼管や作業床、補強材等の部材をトラックの荷台から運び、並べていきました。
「うーん、腰がいたいー。ちょっと休憩。」
材料を一通り運び終えると、兎耳長が腰をトントン叩いて、言いました
「わしもです。年をとると、重いものが辛い。」
鼠川も、同調します。
「俺も痛いです。」
猫井川も同意の声を上げたのですが、
すぐさま、
「お前は若いんだから、頑張って運べ。」
と、言われてしまいました。
次は組み立て作業に移ります。
犬尾沢の指揮のもと、足元から組み立てていきます。
何本もの支柱が立ち、その支柱を水平材でつなぐ。
作業床を置き、手すりを取り付ける。
スイスイと材料が運ばれ、足場の形になっていきました。
1層目が終わり、2層目の組立を行おうとした時でした。
並べて置かれていた鋼管が、何かはずみでゴロンと転がり、兎耳長の足元近くで止まりました。
腰に手をやり、伸びをしている兎耳長には、それが見えていませんでした。
猫井川が鋼管を持ち、ふと視線を上げると、兎耳長が鋼管の上に、足を下ろそうとしているのが目に入ったのでした。
「兎耳長さん、危ない!足!鋼管!」
とっさに叫びました。
しかし、その声は着地に向かう兎耳長の足を止めることはできませんでした。
兎耳長の足は、鋼管の上に乗り、その勢いで鋼管は前に転がりました。
猫井川の声で、みんなが目を向ける中、後ろに倒れそうになる兎耳長。
「兎耳長さん!」
ほぼ全員が叫んだ時でした。
兎耳長は、後方に倒れこむ勢いのまま、後ろに手をつき、くるりと一回転したのでした。
足もピンと伸び、それはそれは見事な弧を描く、バック転でした。
先ほどまで、腰が痛いと言っていた姿からは想像できない姿を目の当たりにして、
「えっ!?」
また全員が同時に、声を発しました。
そして我に返った、猫井川が聞きました。
「大丈夫ですか?何ですか今のは??」
みんなが思った疑問に対する、兎耳長の答えは、
「大丈夫。昔、体操をやっててね。」
どうやら無事のようでした。
「体操ですか。。。」
疑問への答えなのか、何なのかわからない表情が、全員の顔に浮かびました。
「まあ、大丈夫なら良かったのですが。
足元には注意して下さい。
あと、鋼管は転がらないように固定しておきましょう。」
犬尾沢が、ひとまず場をまとめました。
「兎耳長さんは、前にボクシングしてたり、柔道をしてたとは聞いていたのですが、体操もですか。
鼠川さん、兎耳長さんは何者ですか?」
猫井川が、そっと鼠川に聞きます。
「わしも分からん。」
「そうですか。」
みんなの謎をよそに、平然と作業を続ける兎耳長なのでした。
ヒヤリハットの解説
今回は、足元不注意で起こるヒヤリハットですね。
普通ならば、後頭部をぶつけてしまい、ヒヤリハットでは、済まないかもしれません。
しかし、謎の多い兎耳長は華麗に危機を脱します。
彼は身につけた技術をいかんなく、危機回避に活かしているようです。
とはいえ、そもそも危機を招かないことも大切なのでしょうが、そうなると兎耳長の活躍は語れません。
仕事場、特に建設現場や工場など、不特定の材料や工具を使用する場所では、足元が散らかるということはよくあることです。
理想的には、整理整頓されていることがよいのですが、作業中はどうしても整然とはいかないのが常です。
今回は足場の組立作業ですが、部材となる鋼管が転がってしまいました。
犬尾沢が、整然と作業を進めていったものの、常に完璧にとはいかないようです。
作業場を整理整頓することは、作業効率を上げるとともに、事故防止にもなります。
4Sや5Sなどとスローガンで掲げられるのは、見た目の美しさだけでなく、事故を防止することも目的なのです。
家庭内でも、足も踏み場もない部屋と、きちんと収納され床の上には何もない部屋とでは、転んだり、足をぶつけたりする可能性はどちらの方が高いかは、言うまでもありませんよね。
仕事場でも同じなのです。
使い終わったものは、元の場所に置く。
決まった場所に、材料や道具を置く。
あれやこれやとルールを複雑にすると、混乱のもとですが、使ったらすぐに元の場所に戻そうという程度のルールであれば、みんなも理解しやすいのではないでしょうか。
転倒は、非常に多い事故の型です。
しかも業種を問わず、発生します。
ただ足元に注意しましょうと言うだけでなく、そもそも転ぶ原因を作らないのが大切ですね。
今回のヒヤリハットのまとめ
ヒヤリハットの内容
足場用の鋼管が転がり、これを踏んで転倒しそうになった。
対策
1.転がりやすいものは、縛ったりして、固定する。
2.通路に転がらないような方向にする。
私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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