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プレイステーションは「2001年のセガ」に近づきつつある

はじめに

もう20年以上前のことになりますが、2001年はセガ(当時はセガ・エンタープライゼス)にとって大きな転機となった年でした。家庭用ゲームハード事業(ドリームキャスト)から撤退し、他社ハード(PS2等)へゲームソフトを供給することを発表したのです。

その当時のセガほど急激な変化ではありませんが、昨年(2021年)以降、プレイステーションのビジネスも変化してきています。

その変化とは、自身のファーストパーティタイトルを、プレイステーション(PS)だけでなくPC向けにも供給しはじめたことに他なりません。

PlayStation StudiosのSteam上での販売ページ。

すでに『God of War』『Horizon Zero Dawn』『アンチャーテッド』といった有力タイトルが発売されているほか、『The Last Of Us Part I』は、PS5版とPC版が同時に発表されました。

しかし、他プラットフォームにもゲームソフトを供給することは、短期的に見ると販路が広がるメリットがありますが、PSの長期展望にとってはマイナスだと考えています。

本記事では、まずビデオゲーム史を紐解き、2001年以降のセガに起こったことを整理します。その後、他プラットフォームに注力することのデメリットを示します。

「2001年のセガ」とその後

1998年11月に発売された「ドリームキャスト」は、初動のつまづきやPS2の発表によって販売が失速し、巨額の赤字をセガにもたらしました。そして、2001年には家庭用ゲームハード市場からの撤退と他社ハードへの参入が決定され、815億円もの特別損失が計上されたのです。

これは筆者自身の記憶に基づくもので文献資料等はないのですが、当時、「セガのゲームの売り上げが伸びないのは、セガサターンやドリームキャストといったマイナーな機種でしか発売されていなかったためで、ひとたびPS2に参入すれば、世界最強のゲームソフト会社になるはずだ」という意見が多かったように思います。

しかし、現実は、セガにとって過酷なものでした。

2001年以降、現在に至るまでセガは有力ゲームメーカーの地位を保ち続けていますが、あくまで数多くあるメーカーの一つであり、突出した立場を築くには至りませんでした。また、ここまで大胆な経営方針を行ってもセガの経営悪化を食い止めるには至らず、結局、2003年にはパチンコメーカーであるサミーに買収される結果となりました。

他プラットフォームに注力することのデメリット

実際のところ、2001年当時のセガに他に選択肢はありませんでした。ドリームキャスト事業で致命的な損失を負ったセガは、そのままでは倒産寸前だったのですから。

一方で、現状のPSは着実に利益を上げており、当時のセガほど深刻な状況というわけではありません。しかし、今後仮に今の方針を推し進め、2001年以降のセガのように自社プラットフォームではなく他プラットフォーム(PC)に注力するようになった場合、PSのビジネスを大きく毀損するデメリットが生じると考えます。本記事では2点指摘します。

第1は、ビジネス規模を一定以上拡大することが難しくなる点です。

大金をかけてAAAタイトルを開発し大ヒットに導いたとしても、それによって得られる収益は限られたものですし、リスクも大きいです。一方、自分のプラットフォームにたくさんのタイトルが集まってくれれば、自分では1本もゲームを開発しなくても、多額のロイヤリティ収入がもたらされます。

Apple・Google・Steamの例を見れば明らかなように、(言い方は悪いですが、)「ものづくりをするよりも、仕組みを作って上前をハネる」方が圧倒的に儲かるのです。

ソニーグループの屋台骨を支える役割を担うまでになったPS事業にとって、「ゲームを作って1本いくらで売る」だけの商売は、おそらく規模として不十分でしょう。

第2は、生殺与奪の権をプラットフォーマー(PCの場合はSteamやEpic)に握られる点です。

2001年以降のセガを見ると明らかなように、どんなに有力なゲームソフトを開発してきても、プラットフォーマーの立場から降りてしまうと、数多あるゲームメーカーの一つに過ぎなくなります。

自社のゲームソフトを販売してもらえるかどうかはプラットフォーマーに委ねられますし、定期的に開催される大規模セールによって、その価格には強い下方圧力がかかります。さらに、プラットフォーマーであればもらう立場だった販売手数料を、今度は払わなければならなくなります。

XboxもPSと同じように自社のファーストタイトルをSteam向けに販売していますが、あちらはPC Game Pass(旧Xbox Game Pass for PC)という強力な自社プラットフォームがあり、Steamでの販売は補完的な役割に過ぎません。PC向けには自社プラットフォームを持たないPSとは大きく違う点です。

マイクロソフトが提供するPC Game Passアプリ

繰り返しになりますが、現状のPSは着実に利益を上げており、例えば「ハードウェア事業からの撤退」といった急激な変化が起きる兆候は見られません。

しかし、今後仮に、実際にはそのような意図がなかったとしても「今後はPSコンソールよりもPCに注力する」と受け取られかねないようなメッセージが発されるだけでも、危ないと思います。PSプラットフォームから離脱するゲームメーカーが増え、本記事で指摘したリスクが顕在化する恐れがあると考えます。

まとめ

本記事では、最近PSがPC向けに自社ゲームを供給し始めたことを受けて、仮にこの方針が推し進められた場合に生じうるリスクを考えました。類似したケースとして、2001年に自社プラットフォームから撤退し純粋なソフトメーカーに転身したセガの事例を挙げ、対比させて示しました。

自社ゲームをPC向けに供給するのであれば、Xboxと同様に、PC向けにも自社プラットフォームを持つべきなのだと思います。そしてそれは、SteamやEpicよりも魅力で、使い勝手が優れている必要があります(かなり高いハードルですね…)。

自分が日本人だから、という身内びいきはあると思いますが、僕は日本生まれのプラットフォームであるPSにもっと頑張ってほしいと感じています。(言うまでもない事ですが、任天堂のこともXboxのことも大好きです。)

Xboxの後追いをするだけでなく、魅力的なサービスを生み出して、PSというプラットフォームをさらに盛り上げていってほしいと思います。

(了)

2022.8.7 Itaru Otomaru

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