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デジタル・ボディランゲージ

6月第一週にATD(Association for Talent Development)のVirtual Conferenceが開催されていました。
もともと年一回年次大会のようなConferenceを大きなConference Centerを借り切って行うものでしたが、今年はCOVID-19感染拡大防止のためにオンラインのみで開かれました。

時節柄、オンラインでのトレーニングやワークショップの進め方についてのセッションがかなり多かったのですが、さすがに皆慣れているだけあってオンラインでもリアル以上に充実した内容ができるように工夫をしていましたし、その工夫やコツを惜しむことなく共有していました。

Day 2にデジタル・ボディランゲージというテーマのキーノートがありました。
いわゆるネチケットから一歩踏み込んで、オンラインで相手が受け取れるようなコミュニケーションをどのように行うかについてかなり細かく触れていたので、このnoteで共有したいと思います。

デジタル・ボディランゲージとは

キーノートを行ったのは、Erica Dhawan日本では知られていない人だと思いますが、アメリカでは21世紀型のコラボレーションやチームづくりについての書籍や講演で結構有名らしく、ハーバード、MITスローン、ウォートンなどの名だたる学校のDegree(学位)を取得している才女です。

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デジタル・ボディランゲージのことをEricaは、”Cues and Signals we send in digital communication that clarifies subtext of our messages”と定義しています。これを私の言葉で言い換えると、eMailやChat、zoomなどのオンライン・コミュニケーションを行う際にやりとりの裏にある「プロセス(意図や思い、感情などの表面化しない心の動き)」であり、語られていない「非言語のコミュニケーション」のことを指しています。

具体的に言うと、eMailで伝えるかChatで伝えるか、to/cc/bccやre/reply to all/fwdの使い分け、返信までのスピード、emojiを使うかを含めた言葉の選び方など伝えている内容の伝え方のところが、デジタル・ボディランゲージなのです。

フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの3/4は非言語と言われています。その一方でアメリカではCovid-19以前でもチームのコラボレーションの70%はバーチャルで行われていました。それが昨今の状況下では100%になったと言うわけです。これは大いなるチャレンジだと彼女は言います。
オンラインのコミュニケーションでは語調が伝わりにくく、自由に意見が言える反面で無礼に聞こえたりすることがあり、より議論的攻撃的になりやすく、ミーティングが終わるとすぐに次に向かってしまって人と人とのコネクションが生まれにくいからです。
実際のところ、Ericaの持っているデータによるとデジタル・コミュニケーションにおいては…
- Innovative Behaviorは90%減り、
- 相互信頼は80%低下し、
- それぞれの役割やゴールの明確さは75%落ち、
- 組織へのコミットメントや満足度は半分になってしまう…
と言う結果だったとのことです。

デジタル・ボディランゲージの5つの原則(Key Principles)

オンラインのみでコミュニケーションを取りながら、より良い信頼関係を構築したり協働を行うにはどのような点に気をつけるべきか、Ericaはそれを5つの原則(Key Principles)としてまとめています。

Brevity creates confusion(大雑把にすると混乱する)
BrevityはBrief(概略)の名詞形です。それが混乱を生むと言うのです。
具体例で話すと、例えば表題のないmeeting invitationを送る場合とかがそれです。日本でも「打ち合わせ」とか「会議」とかしか書かれていないMeeting invitationが自分のところにきたら、あれこれ考えてしまってストレスではないでしょうか(何かまずいことやらかしたかしら、とか)。
何のためのMeetingなのか、は明確にしておく必要がありますよね。
“Communicate your mind” mindset(心を伝える心構え)
同じ言葉でも人によって、受け取り方は異なります。リアルでは伝わる語調がテキストメッセージでは如何様にも誤解できることになります。
例えば、”OKAY!!”と伝えると、怒鳴っているように取る人も言えば、賛同して興奮しているように取る人もいるでしょう。単純に”ok.”だとしても、賛成と受け取る人と怒らせたかもと取る人(簡単すぎる返事だから)が出てきます。
気持ちや思いを伝えるコミュニケーションは大切ですが、その際に、emojiを含めた言葉の使い方について、チームのルールのようなものを作っておくと受け取り方の行き違いが減ります。
Hold your horses(落ちつこう)
こちらからメールやメッセージを送ると返事が来ないかと気になるもの。だけれど、来ないからと急かしたりはしない事です。相手は自分のペースで返信をしてくるのですから。よくある「既読スルー」とかはまさにこれかと。
返事が欲しいからと、メールを打って、テキストメッセージで追い討ち、さらにチャットで語りかけるとかすると、しつこいと相手もびっくりしますし次からも構えてしまいます。
Assume the best intent(ベストな意図を探る)
相手からのコミュニケーションに不必要に否定的な解釈をしていないか。何か責められているように感じられたりしても、実は相手側に時間がないので単刀直入に聞いてきているだけかもしれません。
何か相手との間にミスコミュニケーションが起きているな、こちらの意図が通じていないと感じたら、コミュニケーションのチャンネル(eMailからチャット、あるいは電話するとか)を変えてみた方が良いかも。
Find your voice(自分の「声」を見つけよう)
自分にとって心地よい通信手段は何であるのかを知っておきましょう。それはeMailかもしれないし、電話かもしれません。
それが何であるのかはともかくそれがわかったらそれをチームの皆と共有するとともに、他のチームメンバーそれぞれがどのような手段が心地よいのかも知って共有しておくことです。
一度それが分かれば、言葉に出せない人にはチャットでアイディアを書いてもらったり、先にみんなにチャットで意見を書いてもらい、書かれていることについて対話をしてゆくとか…
そしてその場で直感で感じたことも大事です。この人は言えていなさそうだなと思ったら、オフラインでのフォローアップも大切です。

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オンラインでの信頼構築と協働のための四要素

コミュニケーションのコツがKey Principlesだとすると、そこからさらに一歩踏み込んで、信頼関係や協働(コラボレーション)をどのようにしてオンラインでもできるようにしてゆくかについて、4つの要素が提示されていました。

Value Visibly「見える化」に価値を置く
個人の意見や思いのようなものが語られないままではなく、表に出してゆくと言うこと自体を組織の文化にしてゆくことが大切だとEricaは説きます。
それは、なかなかハードルが高いことかもしれませんが、オンラインでは思いや考え方が伝わりにくいのだと言うことを前提に、はっきりと伝えることは相手の時間を尊重していることでもあるのだと考えるようにしなくては、と。
そして、それぞれの考え方や受け取り方が違うことが見えてきたら、それを認めて尊重することも大切です。キーノートでEricaは日本人にとっては「Yes」は必ずしも合意ではなく「聞いている」と言うリアクションだけであると言う例について説明していました。(確かに、日本人と外国人とのコミュニケーションではありがちかもしれないですね)
あと、相手を認知すること(うなづいたり、相槌打ったり)もややオーバーリアクション気味にやるくらいでちょうど良いとのことです。
Communicate Clearly(明確に伝えよう)
eMailを打つときでも、急いで返信をしようとするのではなく、タイプする前に考えようとEricaは呼びかけます。自分の意図が正しく伝わるためにはどのようにすべきかを考えてからメールを打ちましょう、と。
その上で、マニアックなまでに内容は正確にすべきだと説きます。いつまでに返事が欲しいのか、などを。いい加減な日付をつけるとあなたの設定する期限自体がいい加減に捉えられることになります。
伝える内容の長さ、複雑性、相手との関係性によって正しいチャネル(手段)でコミュニケーションを取る事です。例えば、短いものであればeMailではなくText message、複雑であればメールよりも電話。添付ファイルで説明するか本文に書くか、あるいはビデオにするか。会った事がある人であれば簡潔な伝え方で良くけれど会った事がなければまずは顔合わせからやった方が良いです。
できれば、組織内でどのチャネルはどんな時に使うのかのルールのようなものがあった方が良いでしょう。それにより、人によって受け取り方が違うと言う事態を避ける事ができます。
Ericaは以下のようなサンプルを提示していました。

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Collaborate Confidently(自信をもって協働しよう)
相手の中に余計な心配を生まないよう正しい相手に正しいタイミングで正しいメッセージを伝えると言う事が大切だとEricaは言います。
ccされていると言うことにはどう言う意味があるのか、どんな時に返信を期待されているのか。Reply to allは本当に必要なのか、必要だとしたらそこにどんな意図があるからそうしているのか。
変化が激しくなっている昨今では、週一回の1時間のミーティングよりも、毎日10分のチェックインをした方が優先順位の組み替えがスムーズに行きます。
頻繁に期限を変えてしまうと期限自体の信頼性が低下するので、意味がある期限にしてそれを伝えることで皆が判断できるようにすることも大事です。
一つ一つは細かいことだけれど、こう言うところ一つ一つがしっかりしているかで皆が信頼しあって一緒に仕事ができるかは変わってきます。
Trust Totally(全幅の信頼をおこう)
ここまでの3つを統合しながら、もっとメンバーを全方位的に信頼しようと言う考え方です。
受動的攻撃行動に出たり防衛的になってしまう人が出ないよう、自分自身の脆さを見せることで、相手に安心感を与えることにもつながります。
あるいは、ちょっと息抜きできるような時間や雰囲気(Ericaは”Virtual water cooler moment”という言い方をしていました)を作ると、それぞれがAuthenticになれる心理的な安全性を作る事ができます。

最後にEricaは、デジタル・ボディランゲージについてどこから手をつけるべきかのGuiding Questionのリストを提示していました。こちらもサンプルではありますが、うまく行っているのかそうではないのかはどこで分かるのかを知るのに良い内容になっています。

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感想と考察

オンラインでのコミュニケーションが当たり前となり、やりにくさやストレスを感じている人は日本でも多いと思います。
その原因は、リアルな対面のコミュニケーションでは見えたし伝わってきた「ボディ・ランゲージ」が見えなくなり、行き違いや深読みによる心労が起きてしまっているからではないでしょうか。

それでも今は、「オンラインだと伝わらないんだよね」ではなく伝えるための努力や規範(Norm)を作っていかざるを得ない状況なのだと思います。

オンライン・コミュニケーションやオンライン・コラボレーションが当たり前(70%と言うデータが出てましたが)のアメリカでも「語られない」プロセスコンテキストによる行き違いやストレスが発生しており、それがさらに広がることでの非効率を危ういと感じているのだと言うのは私にとっては発見でした。普段からアメリカ人は言いたいことを言ってるように感じてはいたので。
日本で言う「空気を読む」とか「行間を読む」とか「察する」は、程度の差はあれど実はどの国でもあるものなのかもしれません。

オンラインがメインのコミュニケーションになっている状態は、不慣れな状態から習慣化しつつあり、それはいずれ文化として定着してしまうでしょう。
お互いの隠された意図を探り合うようなギスギスした文化ではなく、もっとオープンに自分の気持ちまでを語れるような心理的安全性を担保してくれるような組織文化を、今意識的に作らないといけないのではないかと、Ericaのキーノートを聴きながら、思ったのでした。

長文に最後までお付き合いくださった貴方は、どう思ったでしょうか?

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