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新版『ドン・キホーテ』島村・片上訳【前編】

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セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』。 ネット上に(青空文庫にも!)、「無料」で「自由」に読めるテキストがまったくないので、島村抱月・片上伸(のぶる)訳を書き起こし、文章を読み…
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#焚書

第六章 わが工夫に富める紳士の書庫で牧師補と理髪師との為した、おもしろくも重大な検査のこと。

 彼はまだ眠っておった。そこで牧師補は姪にかのすべての禍を作りださした書物のある室の鍵を求めた。姪はすこぶる快くそれを渡した。人々はみな、家婢も一緒に入っていった。見れば極めてよく装幀した百冊以上の大冊と、別にいくらかの小冊子とがあった。家婢はそれを見るや否引き返してその室を駆け出し、まもなく一皿の神水と水撒きとを持ってかえってきて、『さァあなたさま、学士さま、この室をお浄めなさんせ。魔法使いを一人でも残してお置きなさんすなよ。そいつらをこの世から追い出そうというわしらの目論