マガジンのカバー画像

新版『ドン・キホーテ』島村・片上訳【前編】

10
セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』。 ネット上に(青空文庫にも!)、「無料」で「自由」に読めるテキストがまったくないので、島村抱月・片上伸(のぶる)訳を書き起こし、文章を読み…
運営しているクリエイター

#サンチョ・パンサ

第七章 わが天晴の騎士ラ・マンチャのドン・キホーテが二度目の門出のこと

 このとたんにドン・キホーテは怒鳴りだした。『いざいざ、剛勇の騎士どもよ! ここでこそ御身たちが強き武力を揮うべきじゃ。宮廷の人々は試合に勝を占めようとしておるではないか!』この物音と叫びとに気を奪われて、人々は残りの書物の検査をそれ以上に進めなかったのである。それゆえ「カロレア」、「スペインの獅子」およびドン・リュイス・デ・アヴィラの書いた「皇帝御事蹟」は、見られもせず聞かれもせずに火中にせられたと思われている、なぜといえば、疑いもなくそれらは残部の中にあったので、恐らく牧

第八章 恐ろしい夢想せられたこともない風車の冒険に際して、勇敢なるドン・キホーテの得たる吉き幸運のこと。附けたり、まさに記録するに足るその他の出来事ども

 折しも彼等はその野原にある三四十の風車の見えるところにきた。ドン・キホーテはそれらを見るやいなや、自分の家来にむかって言った。 『わしらが自分でおのれの願いを果せるよりも幸運の神が更によくわしらのために物事を整えてくれてるわい。あれ見よ、サンチョ・パンサよ、あすこには三十体以上も異形の巨人が姿を現わしおる。拙者はあの残らずと渡りあうて屠るつもりじゃ。またその分捕の品々でわれらは身代を起し初めよう。なにゆえとならこれは正義の戦いじゃ、またかような悪い族を地球の面から掃い除ける