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新版『ドン・キホーテ』島村・片上訳【前編】

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セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』。 ネット上に(青空文庫にも!)、「無料」で「自由」に読めるテキストがまったくないので、島村抱月・片上伸(のぶる)訳を書き起こし、文章を読み…
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2023年3月の記事一覧

第九章では勇ましきビスケイ人と雄壮なマンチャ人との猛烈な真剣仕合が終りを告げおしまいになる。

この物語の第一巻では、雄壮なビスケイ人と有名なドン・キホーテとが互いに抜身の剣を振り被って、もし二人がしっかりと見事に打ち下しさえすれば、敵手を眉間から爪先までずばりと真二つに斬り裂いて、柘榴のごとくあんぐりと横たわらせるであろう、とそう思われるほどの猛烈な鋭い打撃を今にも与えようと身構えしたというところで、そのままにしておいた。そしてそれほどに大事なところで、この面白い物語は中絶して尻切れになって、その脱落した部分はどこを捜せばあるのだか、作者から何の断りもなかったのである