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右、左、右

「右、左、右」

誰もが知っている、横断歩道を渡るときの安全確認の方法だ。

私はこれに、幼少期から疑問を感じていた。

「なぜ両側を見たあとに、もう一度右を見なければならないのか?」

このように訊くと、大人は決まってこう答えた。

「左を見ているあいだに、右から車両が来ているかもしれないから」だと。

腑に落ちなかった。そんなことを言い出せば、二回目に右を見ているあいだにも、左から来ているかもしれないのだ。右を見ているあいだには左から、左を見ているあいだには右から――。いつになっても「かもしれない」が払拭されることはない。

理論上、我々は永久に横断歩道を渡れなくなってしまうのだ。信号機のない横断歩道に直面したが最後、左右に首を回しつづけ、そこで生涯を終えることになる。

日本の交通ルール上、右から来る車両が近いからもう一度見るのだという意見もあるだろう。しかし、そうだとすれば、はじめから「左、右」でいいということにならないだろうか。

もう一度同じほうを見るということが、どうしても無駄に思えてしまう。しかし「左、右」では不安が残る。ではどうしたらいいのか。

「右、左、ヘリからの映像」である。

これなら上記のような無駄も不安もなくなる。それでもやっぱり手前の車線が気になるという場合は、「左、ヘリからの映像、右」。これで解決するはずだ。

しかし、別の問題が発生してしまう。自分のヘリが安全に飛んでいるのか、まずその確認をしなければならなくなる。コストもかかるだろう。何より「ヘリに乗ればいいじゃん!」という指摘に反論ができない。ではどうしたらいいのか。

「右、左、第六感によるソナー能力の発動」である。

これなら上記のような問題は起きない。それでもやっぱり手前の車線が気になるという場合は、「左、第六感によるソナー能力の発動、右」。これで解決するはずだ。

しかし、別の問題が発生してしまう。まだ覚醒してない人もいるだろうし、私でさえ、ソナーの成功率は七割といったところだ。鳥を感知してしまい、その不必要な情報によって機を逸し、渡り損ねたこともある。何より「精神力を使い過ぎて頭痛に苛まれるじゃん!」という指摘に反論できない。

結論はいまだ出ない。わかったのは「人間には限界ある」という事実だけだ。だが私は逃げずに、今後もこの「右、左、右」問題について、解決法を模索していこうと思う。

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