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頂2023〜ラスト4日間の記録

6月1日 木曜日

曇り〜小雨が続いていた現地仕込み週間で久々に晴れ間が見えた。
湿っていた景色が陽に照らされキラキラ見えてくる。風が気持ちよかった。

駐車場、キャンプサイトの線引きは既に済んでいた。ステージ、出店テント、メインエリアの設営もほぼ立ち上がっていた。
テストで飾り出したデコレーション、ステージバックの中央には今年新調したバックドロップが映えている。

キャンドルステージにも別倉庫で仕込まれたオブジェたちが搬入されていく。
そんな会場の真ん中から周りを見渡して舞台監督さんと、「なんだか良い感じになってきたねー!今までで一番良いんじゃない?」そんな会話をしていた。
今年は仕込み段階から各所素晴らしいスタッフたちが集まってくれていて、何がどう良いのかは細かく色々あるのだけど、とにかく良い感じに進んでいた。

だが、それを手放しに喜んではいられない。会話もどこかぎこちない……
最高の予感とは裏腹に灰色の大きな不安をずっと抱えていた。
大きさは様々だったがそこにいる誰しもが皆それぞれで少なからず感じていた。
先週発生した台風2号の進路、その影響、日に日に変わっていく予報と文字通り睨めっこしながら、もどかしい日々が続いていたが、それも来るところまで来ていた。

土日の天気は良さそうだ。
だが金曜は大荒れだ。
今日スピーカー吊らないと間に合わない。
凌げるのか?
安全とは決して言えない。
オープンを遅らせるか?
タイムテーブルはどうなる?
大雨の後のこの芝生広場、お客さんが入ったらもう田んぼ状態だな…
どの道もう通常の開催は出来ない……

判断の時は迫り切っていた。
伝えるのが遅くなればお客さんにも余計に迷惑がかかってしまう。
事故があっちゃいけない、安全第一、頭ではよく理解している、しかしここまで準備してきた気持ち、主催だけじゃなく色んな人たちの想い、既にここに集まっているスタッフや業者の方々、まだ見ぬ当日を楽しみに待ってくれているお客さんたち……

ギリギリまで開催できる方法を考えた。

最終的には最大風速20mという予報の確度の高さについて専門家と確認し、設営をバラす判断となった。

それは、つまり開催を断念するという決断だった。


6月2日 金曜日

朝から既に激しめに雨と風が吹いていた。
これからもっと強まる予報だ。

昨日の苦渋の決断後、嵐が来る前にと、風の影響を受けるテント幕は全部外されていた。今日も出来る限りで安全を確保しながら暴風雨に備えて各所、養生作業を進めている。

昨晩の中止発表に際するミーティングは長引いた。
出演者や関係各所への連絡と並行しながら公表文章の作成、片付けの段取り、これから何をすべきか……何ができるか……

発表後のSNSの反応と台風2号の猛威を伝えるニュースをチェックしながら、土砂降りの吉田公園を眺めては、複雑な心境でズブ濡れの遣る瀬無さを噛み締めてた。
倉庫では、当日現地まで来てしまうかもしれないお客さんに向けての看板作りもやっていた。

そんな中でも、何か出来ればと現地に駆けつけてくれる仲間もいた。俺たちは大丈夫だから、みんなそれぞれの身の回りの安全を優先してくれ、というのがこっちのスタンスだったが、素直に嬉しかった。

雨風は激しさを増していく一方で、嬉しい話が続く。明日6月3日(土)にキャンドルタイム出演予定だった青葉市子さんから、同時間に自宅からキャンドルタイムライブを配信したいと相談があった。現地にいるスタッフたちとも中継できれば、と。何て嬉しい事を言ってくれるんだ……

明日の夕方は天気良さそうだ!
会場の一角にデコレーションスペースを作って盛り上げよう!
キャンドルステージチームにも再び火がついた。

6月3日 土曜日

朝方はまだパラパラとしていた雨も止み、会場に皆が集まる頃には曇り空も色を薄めていく。

現地仕込み期間中の集合場所は駐車場エリアの入場ゲート付近だ。そこが運営チームの本部になっている。本来なら今頃はオープン前でお客さんが列を作って入場を待っている場所だ。
そこでボスを中心に円陣を組む。安全第一でしっかり片付け、夜にはキャンドルタイムだ!皆それぞれのリアルと向き合いながら、何かしらの折り合いを付けて今日を迎えている。複雑だが気持ちは前向きだ。

運営チームは主に片付け、駐車場やキャンプサイトの区画ロープを外したり、会場に運び込んだ手作りの看板や様々な備品を倉庫に運び戻しながら、ゴミ拾いも徹底した。

オートステイエリアチームは皆の休憩場としてスターテントを2張り立ててくれた。
幕の外れた運動会テントの骨組みを利用して、ステージに飾る予定だったバックドロップ幕を2枚とも飾った。
廃油回収ブースになる予定だった赤いフレアテントは、昨日の嵐を耐え抜き勇ましく建ったまま。ここをキャンドルタイム用にデコレーションすることになった。

スタッフ〜出演者用に用意していた賄いはケータリングチームがお弁当にして持ってきてくれた。そう、オフィシャル含め飲食出店者の仕込んだ食材もどうするか考えなくてはならない点だった。

陽が傾き夕暮れ時が近づく。
各所、片付けも一頻り済んでスタッフたちがまた本部周りに集まってくる。

赤いフレアテントの下にはキャンドルチームが集結してデコレーションを仕上げている。少し風が強くなってきてテントの背面は幕をつけた。
スタッフも皆その手にキャンドルを持って、即興だが皆の想いが注がれた素敵なミニキャンドルステージの前に集まりだした。
配信撮影用にカメラマンチームにも協力を仰いでスタンバイ。
急展開の中、青葉さんサイドとも打合せ連絡を取りながら、準備は進んでいく。

19:00、スタッフと子供たちみんなでキャンドルを灯しインスタライブで中継開始。青葉市子さんは自宅で、本番で着る予定だった赤色の素敵なドレスで、小さな可愛いキャンドルを灯して準備してくれていた。
こうして、中止発表から一変、頂-ITADAKI-2023 特別編、中継配信キャンドルタイムが始まった。

最初はまだ薄明るかった空も夜色になり、キャンドルの灯りも際立ってくる。雲からはまん丸いお月様も顔を出す。水たまりに映る月も美しく、歌詞とシンクロしていく。青葉市子さんの歌声はいつも以上に優しく、疲弊した心を癒してくれた。そして満ちていくエネルギー。

途中、入場ゲートのデコレーションにも灯りが。
今年は出番無しかと思われていたが、せっかく作り込んで準備してたんだ、しっかり設置されていた。

キャンドルの灯りに浮かぶ皆の笑顔と潤んだ瞳……
そりゃそうなんだけど、こんな風にスタッフみんなでキャンドルタイムを味わったのは初めてで、感動した。
予定の45分よりちょっぴり長めに歌ってくれた市子さん、嬉しい気持ちいっぱいの余韻を残し、配信ライブは終了。

だが、
頂-ITADAKI-2023特別編はまだ終わらない。
明日はスタッフ打上げを計画中だ。

6月4日 日曜日

すっかり晴れ渡る空、
嘘のような嵐の後に皮肉にも当たり前に顔出す太陽、
8日目の日焼けに朝から追い打ちがかかる。
本来ならSunday Morning SetでYOUR SONG IS GOODが心地良い演奏を聴かせてくれている頃だろうか……

実は6月2日(金)嵐の夜に、渋さ知らズがスタッフの労いも込めてゲリラライブをしに吉田公園まで駆けつけると、言い出してくれていた。
それを聞いた時は本部スタッフ一同嬉しくて涙した。
更にはそれを聞きつけた音響さんも、一度撤退したがスピーカーを載せ替えて駆けつけると。

嬉しい反面、悩んでもいた。

中止にしといて、打上げとかあり?
頂だけじゃなくて台風被害は各地で起きてる中で…
当然来れない人もいる訳で…オープンにすべきか否か…
でも皆やり切れない気持ちがいっぱい残ってて…

青葉市子さん然り、渋さ知らズがやってくれると言うならバッチリ盛り上げたい!どうするべきか……
骨身を削る思いで中止を決断した後も、もどかしい悩みは続いていたが、時は刻一刻と進んでいく中で精一杯一つ一つ向き合っていた。少しづつだが、悶々とした気持ちが行先を見つけ、カタチを変えて前に進み出す。始まれずに終わりかけたパーティがまた動き出した。

結果的に渋さ知らズオーケストラのゲリラライブ決行は青葉市子さんの配信キャンドルタイム後にTwitterで公表された。
そしてスタッフ打上げはオープンにして、お客さんにも来てもらおうってことになった。

迎えた日曜日、ここ数日で一番気持ち良い天気だった。
場所は昨日に引き続き駐車場エリア。
芝生の広場じゃないけど、今日はここが頂!

一度畳んだフレアテントも再び広げて、あり物とやりきれなかった気持ちを注ぎ込んで、見る見る内にパーティの景色が立ち上がっていく。
賄いケータリングチームもフード出店、オフィシャルの頂cafeチームもバーをスタンバイ。オフィシャルグッズも売ることに。急な展開だったが出店予定だったお店も駆けつけてくれた。お客さんを迎え入れる駐車場オペレーションは頼れるプロチームに任せた。残ってくれていた舞台監督さんに制作さん、駆けつけてくれた楽器サポートさんが昨日の内にセッティングしてくれた即席ステージに渋さ知らズのメンバーも続々到着、地べたに平台、椅子が並び、柄幕が吊るされる、もう止まらない。

準備の最中、このヤバいパーティーの予感を感じながら、来れる人はみんな来てくれ!って感じで、各所電話しまくった。リアルタイムで、今まで見た事ない頂が生まれてくのを目の当たりにしながら、何とも”頂らしさ”を感じてた。

渋さ知らズオーケストラ、サウンドチェック、その瞬間、音楽のチカラ、晴れた空に雷鳴の如く鳴り響き……まさにそんな感じだった。
堪え切れず涙するスタッフもちらほら。

人はどんどん集まって、再会の握手、労いの言葉の掛け合い、心配する声には大丈夫と笑顔で返して、和が広がってく。ライブ本編も始まり、スタッフもお客さんも子供たちも犬もみんな一緒に笑顔で踊ってた。
それは、何というか……とても美しかった……

ライブ後は渋さ知らズオーケストラメンバーとスタッフみんなで入場ゲート前で集合写真撮影。昨日も思ったが、16年目の頂だけどこんな事は今までしたことがなかった。ライブには間に合わなかったが、最後にはGOMAさんファミリーまで駆けつけてくれるという嬉しいサプライズもあり……

土曜からしばらく涙腺上を綱渡り状態が続いていて、気を抜くといつでも号泣してしまいそうで、日焼けた肌と目頭は熱いまま……
頂-ITADAKI-2023特別編は幕を閉じた。

日が暮れて壮大な夕焼けの下、みんなを見送って、夜にはご褒美な満月がぽっかり。別れ際の皆の晴れやかな顔が印象的だった。

6月5日 月曜日

晴れのち曇り。公園の芝生広場ではテントの撤収が未だ続いていた。
残ったスタッフたちで改めてゴミ拾い。来た時よりも美しくはもはや基本。これからまだまだいっぱい後処理が残っている。が、一先ずこの場所を綺麗にして後にする。

終わってみれば一瞬のよう、いつもはそう思っていたが、今回は本当に長かった……

本編開催が出来なかったのは本当に残念だったが、今年のこの経験は間違いなく大きな財産になるだろう。
頂-ITADAKI-にとっても、個人的にも。

音楽のチカラ、人の繋がり、パーティが内包する人生の意味合い、それらの意味深さと大切さを改めて心に刻んだ頂-ITADAKI-2023でした。

営業ツアーで出会った各地の皆様、
相変わらず頼もしいプロの設営皆様、
集まってくれたスタッフたち、
ボランティアのみんな、
楽しみにしてくれていたお客さんもみんな、
実現出来なかったけど出演予定だったアーティストと関係者の皆様、
ハードな設営に付き合ってくれた吉田公園も、
本当に皆皆々様、大大大ありがとうございました‼️

この全ての責任背負って立ち続けたボスにBIG RESPECT、
最後の最後まで一緒にやり切った本部の一人一人にも拍手喝采👏
お疲れ様でした!

MUSIC NEVER DIES!
THE PARTY GOES ON!!

頂CREW ケイイチ


頂2023“特別編” PHOTOLOG公開!

土砂降りの金曜を潜り抜けて、土曜のキャンドルタイム、日曜のゲリラ頂まで、様々な人たちの想いが交差するライブ感満載のドラマチックな3日間を、カメラマン達が記録に残してくれていました。
中々お見せする機会がない仕込み中の現場スタッフの様子、大変ながらも笑顔で仕事に取り組む姿に何度も救われました。
前半はそんなITADAKI CREWたちの姿を中心に、いつものフォトギャラリーとは一味違う、頂-ITADAKI-の裏側とも言える記録です。
後半は、美しい即興創作キャンドルステージや、エネルギッシュな渋さ知らズオーケストラのゲリラパフォーマンス…新鮮でありながら、やっぱり頂らしさ溢れる内容になっています。
皆の想いが集まった”THE PARTY”のフィーリングを、少しでも未だ見ぬ皆様ともシェアできればと思い、この記録を公開いたします。
頂-ITADAKI-2023 特別編 PHOTOLOG、お楽しみ頂けますと嬉しい限りです。

→PHOTOLOGはこちらから。


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