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【大阪せいかつ24時】道端に怒っている人がいるときは、ちょっとぐらいは警戒をしよう編

いつものように、自転車に乗って家を出た朝。
進み出して、後輪の空気が全くなかった事に気がついた。

パンクか虫ゴムか…仕方ないので、職場へのルートを少し変更していつもの自転車屋に寄る。
ここはとにかく修理の速度が早い。手慣れたお兄さんによって10分もかからず自転車のタイヤが張りを取り戻した。

「おおきに」「ありがとうねー」

挨拶をして改めて職場に向かう。近所とはいえ、いつもと違う回り道。空気がパンパンになった自転車で軽快に角を曲がると、大きな声が聞こえてきた。

自転車を漕ぎながら声の方に目をやると、100mほど先の道の端でTシャツにチノパン姿の60代ぐらいの男性が、30-40代ぐらいの男性2人に対してえらい剣幕で怒鳴り散らかしている。すぐ横は小さな会社の事務所らしい。怒鳴られている2人はスーツ姿でネームタグもつけている。なにかの営業マンか。

なんやケンカか?しらんけど大変そうやな。

そうは思ったものの、ここは大阪の下町。大声で喚いているおっさんの存在など日常茶飯事である。

あんまりエスカレートしてるようなら、警察を呼んだるかな〜。

大声で喚くおっさんが日常茶飯事な街だからこそ、警察を呼ぶ事にもフランクな私。そもそもそこは往来でもある。こういう時はサクッと警察を呼んでクールダウンからの解散が正解。なんかあってからでは遅いからな。過去にも何度かやっているが、警察の人は毎回すぐ来てくれる。いつもありがとうおまわりさん。

念のため、横を通過するついでに様子を確認してから通報するかどうかを決めよう。そのまま自転車を漕いだ。ヤバそうなら通過した向こうの角でこっそり警察を呼べばいい。いつもの手順だ。

私が近づいていっても、相変わらず怒鳴るおっさんは止まる様子はない。そもそも私は無関係の他人である。通行人として通り過ぎたところでなんの関係もない。よくあることである。怒鳴られている2人は苦笑いであとずさりする様子を見せていた。どんどんヒートアップする怒鳴るおっさん。こりゃ通報やな…と思いながら通り抜けるフリして近づく私。その距離20m。営業マンを指差しながらまだまだ怒鳴り続けるオッサン。

「こいつもこいつも警察や!!!!!」

指を差される営業マン風の2人。えっ、この人たち警察の人?ほな通報せんでもええか…そう考えなながら惰性でそのまま進む私。その距離10m。オッサンがそこで急にガッと顔の向きを変え、私を指差し大声で叫んだ。

「そんでお前も銃持ってるやろーーーー!!!!!!」

あかんやつやーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

近づいてくるおっさんの前で必死のUターンを決め、自転車を漕いだ。

逃げろ。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。

走ってきた道を戻って脇道に逃げ込む。速攻でスマホを開く。マスクのせいで顔認証が効かない。焦る焦る。いま思えば、iPhoneの緊急通報機能もあるのに、そんなことは全く思い出せなかった。マスクを引きちぎり顔認証を試みるもまだ開かない。焦ってパスコードを入力し110番。

背後ではオッサンの怒鳴り声…いやもう叫び声にしか聞こえないものが響き渡っている。若干遠い。すぐそこにいるが、追いかけてはきていないのを視界の端で確認した。

「事件ですか事故ですか?」
「事件です。通行人に怒鳴ってる人がいます。早くきてください。住所は…」

目の前の住宅の壁に運良く住所案内板があった。やばいやばい。とにかく冷静に伝えなくては。落ち着いて丁寧に読み上げた。

「待って待って、早い早い。なに言っているかわからないです。ゆっくりお願いします。」

電話の向こうの警察の人に止められてしまう。自分ではわからなかったが、焦りすぎて早口になっているらしい。人はパニックになるとこうなるのか。やばいやばいやばい。少し遠くではまだオッサンが叫び続ける声が聞こえる。どうなってるかわからない。通報しているところを見つかったら危ない。さらに身を隠した。もう直接様子は見られない。

しかし、この街は大阪である。この辺りで異変に気がついた住宅や工場から人がワラワラでてくる。さすが、なんやなんやの街である。なんなん?どうしたん?なんかヤバない?という顔をする人たちに、スマホを指差して通報してることをジェスチャーでアピールした。電話の向こうでは、警察が追加で質問をしている。

「あなたは安全な場所にいますか?」
「隠れてます」
「このまま電話は続けられますか?」
「たぶん大丈夫」
「その人はどんな人ですか?」
「50代-60代ぐらいの男性です。わけわからん事言うてる感じです」
「刃物とかは持ってませんか?」
「それはないです」

そんな会話をしていたら、明らかに叫ぶおっさんの声が近づいてくる。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。なんやなんやのノリで表に出てた近所の人達、一斉に建物に引っ込む。そりゃヤバいもんな。

「あー、すごく叫んでますね」

電話の向こうでオッサンの状態を把握する警察の人。近づいてくるオッサンの声。逃げ場を求めてさらに路地奥に逃げ込み隠れる私。物陰から様子を伺うと、20mぐらいのところに叫ぶおっさんを確認。ひとりで叫び続けている。ヤバい。とてもヤバい。息を潜める。

なんとそこに、別の通行人のおっちゃんが自転車でやってきてしまった。そう、ここは大阪。改めていうが、もともと叫び散らかしているおっさんの存在など日常茶飯事である。他人が叫んでいようが、自分には関係ない話でもある。私は大阪のお節介ながら寛容かつ適当なこの距離感が大好きだ。しかし、今はそんなことはどうでもいい。

あっ…と思った瞬間、叫ぶおっさんが通りすがりのおっちゃんにいきなりつかみかかりグーパンチを繰り出した。よろめいたところで、さらに胸ぐらを掴み何発も殴り続けている。逃げられない。通りすがりのおっちゃんは途端に事件に巻き込まれた殴られたおっちゃんになってしまった。

「あーーーー!!!!殴った!!殴られてます!!殴ってる!通行人の人が殴られてる!」
まだ110番中だった私、警察相手に絶叫の実況。
「×%°€・=1」
何かをいう警察。パニックでききとれない私。

「ええから、早くきてや!!!」

いつもなら、通報からこれぐらいの時間が経てばパトカーの音が聞こえてきている。なのに、今日は一向に聞こえない。なにをモタモタしているのか

「もう早くきてってば!!!!!!!!」

この間、Twitterに『キレる人はパニックになってる人なんやで』なんて話を書いた。まさにこの瞬間の私である。完全に警察相手にブチ切れていた。こんなに必死になって助けを求めているのに!!!

「いま向かっています!向かってますので!とりあえず電話を切りますね!」

パニックになった私からは必要な情報は得られないと思われたのか、警察との電話が切れた。おっさんは相変わらず叫びながらふらふら体を揺らしている。

殴られたおっちゃんは、倒れた自転車を起こしながら散らばった自分の荷物を拾い集めていた。人間は突然わけのわからない状態に陥ると、とりあえず平常を取り戻そうとうごく。殴られたおっちゃんもまさにその状態だったのだと思う。

すぐにでも駆け寄りたかったけど、まだ動けない。まだそこに叫ぶおっさんがいる。ジリジリと様子を伺う。助けたい動けない助けたい動けない。

すると、叫ぶおっさんがクルッと踵を返し、殴られたおっちゃんのところに戻ってまた胸ぐらを掴んだ。叫んでは殴り始める。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。なんとかして止められないか!?武器はないのか!?そんなことを一瞬考えたが、こっちもただの中年のおばちゃんである。なにもできない。勝てる見込みが全くない。ひたすら祈った。おっちゃん、死んでまうかもしれん。やめてくれ。

いよいよほっとけないと思ったのであろう若い男性が近所の工場から飛び出してきて間に入った。とはいえ、羽交締めや取り押さえることなどできない。あくまで冷静に刺激しないように、殴られてるおっちゃんを自分の背中に隠しながら、ジリジリと距離をあけるように誘導している。いま思えば、これは確かにいい作戦だった。素人が暴れる相手を取り押さえるより、効果があったと思う。しかしそれは結果論でしかない。すごい勇気と行動である。あと、この若い男性が殴られなくてよかった。

自分の視界から、ターゲットにしていた殴られたおっちゃんが消えたからか、また叫ぶおっさんはふらふらと歩き始めた。私の位置からは、叫ぶおっさんの姿は見えなくなった。

殴られたおっちゃんがふたたび立ち上がった時、顔面が血まみれになっているのが見えた。もうほっとけん。必死に手を振って、こっちに逃げてこいとアピールする私。なんとか殴られたおっちゃんを退避させる事に成功。

「大丈夫ですか!?大丈夫じゃないですよね!」
「なんで俺、いきなり殴られんの…?」
顔面が血だらけになっている殴られたおっちゃんが呟く。そりゃそうだ。あなたも私もただの通行人だ。

殴られたおっちゃんの出血は鼻血だけのようだった。70代手前ぐらいだろうか。動きはのろのろとしているが、足取りはしっかりしている。ダメージは見た目よりは少なそうだ。少なくとも私がすべき応急処置などはなさそうである。

「警察、呼んでますから…」
「俺、仕事行こうとしてただけやねん…」

私もですよ、おっちゃん。

そうこうしていたら、さらに別の通行人のおっちゃんが通りがかってしまった。そして姿を現す叫ぶおっさん。私の位置から見えなかっただけですぐそこにまだいたらしい。三度目になるが、ここは大阪。もともと叫ぶおっさんなど日常茶飯事(以下略

特に気にせず近づいてしまった新通行人のおっちゃんが今度は叫ぶおっさんに蹴り倒されてしまった。うわああああああ!!!あかんあかんあかん!!もはや私も叫ぶしかない。ヤバイヤバイヤバイ。蹴られたおっちゃんは運良く逃走。

それにしても警察が来ない。パトカーの音はまだ聞こえてこない。どうなっているのか。叫ぶおっさんの姿も声も聞こえなくなっている。物陰から首を伸ばしてなんとか状況を確認しようとしていたら、さっきまで建物に隠れていた近隣住民がわらわらとでてきて、私と血まみれのおっちゃんに勢いよく手招きをした。

「警察きたで!!!!」

路地裏を飛び出して血まみれのおっちゃんと見に行ったら、叫ぶおっさんは2人の警官に取り押さえられて身動き取れないようになっていた。いつまでも来ないと思っていたパトカーは、どうやら無音で駆けつけていたらしい。もしかしたら、サイレン音で刺激しないようにという配慮だったのかもしれない。

こうなるともう、完全に大阪人のターンである。近所の住人、近所の工場、通りがかりの人々全員出てくる集まってくる。なんやなんやなんやなんやなんや!警察きてんで!なんや怖いな!知らんけど!の声が聞こえそうな勢いで大集合である。

「救急車、呼んでるからな!」

少し離れた場所でその様子を眺めている私と血まみれのおっちゃんに近所の人が声をかけてくれる

「あんた、よう逃げられたな」
「うちに隠したったらよかったな、ごめんな」

路地裏に隠れるしかなかった私に謝ってくれたりもする。いえいえ、お互い必死でしたもんね、私も頼んだらよかったんだけど。なんて言いながら笑ってみせる。

ご近所の皆さんの温かい声にほっとしつつもまだ興奮と恐怖が残る私と血まみれのおっちゃんに、別の警察官が駆け寄る。

「大丈夫ですか?」
「早よ救急車乗せてくれ」

訴える血まみれのおっちゃん。せやせや、はよ救急車乗せたって。

「俺、こんな血だらけで、俺がケンカして負けたみたいやん。隠してぇな。かっこわるいやん。」

懇願するおっちゃん。気にするポイントそこなんかーい。

「俺、一回も手ぇ出してへんよな!?みてたよな!?」

うんうん、みてましたみてました。あなたは完全な被害者ですよ。ただの通行人ですわ。と頷く私と近所の家から出てきたおばちゃん達。

「俺な、この間ここ手術してんやんか」

唐突に自分の体を指差しながら高齢者あるあるの病歴語りを始める血まみれのおっちゃん。あらー、それは大変でしたね、の定型文で受ける癖がついてしまっている私。そうこうしているうちに次々とパトカーが到着。

「おっ!あのパトカー!何号や!?」

突然テンションが上がる血まみれのおっちゃん。なんや警察マニアかいな。思わず笑う私と近所のおばちゃん達と警察の人。

そのあと、救急車に乗せられた血まみれのおっちゃんは処置を受け、私はその場で事情聴取ののち解放。特にやることがなくなったので家に引っ込む近所の人達と、だんだん飽きて解散するなんやなんやの通行人。叫ぶおっさんは容疑者となって、いつのまにかパトカーで連れて行かれておりました。

以上で、ある日の大阪のひとコマはおしまいです。幸い、私はなんの怪我もなくすんだけど、さすがに今回はやばかったなぁと思います。あとから旦那に「無事でよかった」と言われました。ほんとにね

というわけで、本日の教訓を置いておきます。

『怒っている人がいるときは、ちょっとぐらいは警戒をしよう』

大阪の人(そして私)、今日はこれだけ覚えて帰ってくださいね。ほな!

ご支援は私の生きる糧でございます。ありがとうございます🙏✨