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第18回 いたばし協働・市民フォーラム:外伝【side story】

【第18回 いたばし協働・市民フォーラム】
 『 人口減少時代の行政サービスと「ふるさと納税」
        ~ 納税者が選ぶ自治体の政策とは ~ 』

■ 経緯と背景と ① ~テーマ設定:その1~
 今年度(2019年度)、東京・板橋で、なぜ「ふるさと納税」と「人口減少時代の行政サービス」をテーマとしたフォーラムを行うのか。
 その一点について、これまでの積み重ねと経緯があっての事であり、背景や意図を複数回にわたって掲載したいと思います。
 板橋区の平成29年度決算(前年度決算は毎年11月公表で平成30年度はこれからのため)数値では、特別区税収入461億円のうち区民税(住民税)は419億円。これに対して「ふるさと納税」による減収額は6.9億円。さらに平成27年度以降、確定申告不要で気軽にできることになったため同納税は年々増加しており、平成30年度の減収予想額は約10億円と公表されています。つまり 約2%強の住民税が他の自治体に流れてしまっている計算となりますが、10億という金額は板橋区の「ひとり親家庭援護経費」(2.2億円)の約4.5倍、「議会費」(9.4億円)と同程度、「子ども医療費助成経費」(22億円)の半分弱という数字であり、決して少ない金額ではありません。
 まずその現実を押さえつつ、この後(不定期で)11/23の同フォーラムにつながる試論を掲載していきたいと思います。
https://www.itabashi-forum.com/市民フォーラム/第18回-フォーラム/

■ 経緯と背景と ② ~テーマ設定:その2~
『 税イズ政治、政治イズ税 』
(法人を含む)万民のために、万民から税を集め、集めた税を万民のために使う。しかし、万民のどこ・誰からからどう取るか、また集めたものをどこ・誰にどう使うか、その強弱は政治が調整および決定するものであり、冒頭の言葉はそれを極端かつ端的に表現したものです。
 しかし、納める方が(納める一部であっても)、どこにどう使うかを(選択肢の中からだとしても)自由に決めることができるのであれば、これは大きなエポックだと思います。
 生れ育ちは地方出身という者には何となく胸がしめつけられるような郷愁を覚える「ふるさと」というワードと「納税」がくっついた同制度は、イメージとして「ふるさと」=地方支援、加えてカタログショッピングばりの返礼品競争がマスコミでも報じられがちですが、実はささやかであっても納税という義務に応じた選択権が与えられた巧緻な制度であり、気づいた人には役に立つ。そんな認識があります。

■ 経緯と背景と ③ ~テーマ設定:その3(千葉光行市川市長 回想)~
 遡ること11年前、第7回の「いたばし協働・市民フォーラム」は『自治体の予算づくりと議会・住民の役割 ~予算に関するすべての問いに 今 応える~』というテーマで行いましたが、その際、先進自治体の首長シンポジストとしてご出演いただいたのが、市川市の千葉光行市長でした。
 千葉市長をお招きしたのは、市川市が2005年に市長のリーダーシップのもと、全国初の「1%支援制度(条例)」を導入していたからでした。同制度は「市民税を納めた市民が市民活動団体を選択し、市が同団体に納税額の1%を補助金として交付する」というもので、金額的には市民税納税額の1%、選択肢も指定された市民活動団体と限られていたものの、それでも極めて画期的な制度でした。何となく、国の「ふるさと納税」の原型であり嚆矢でもあったように感じます。また当時、市川市は市民モニターの意見を予算編成に反映・公開していたかと思います。
 千葉市長も悠揚迫らずとった感じの大人(たいじん)の風格ある方で、お話も印象的でした。税金は、入湯税やゴルフ場利用税、ホテル税、ワンルームマンション税など自治体が独自に課すことはあっても、使い道を納税者が選択できる同制度の構想・実施は驚きで、「そんなこともできるのか」と地方自治(体)の奥深さと可能性を感じた回でした。

■ 経緯と背景と ④ ~テーマ設定その4(消費増税と自治体への影響)~
 10/1の消費増税より半月が過ぎました。(ふるさと納)税つながりで、消費増税について記してみたいと思います。
 日常生活において今回の増税感はひとそれぞれかと思います。
 消費者・納税者目線では税率が関心事のため、一般的にはあまり知られていませんが、消費税は厳密には国税と地方税で税率が構成されており、これまでの8%時は国税としての消費税が6.3%、地方税(都道府県税)としての消費税が1.7%相当でした。10/1からは、同内訳は7.8%+2.2%=10%となっております。
 板橋区の平成29年度決算では、東京都からの地方消費税交付金は116億700万円で、増税により(あくまで)単純に計算すれば34億程度の区税収入増となります。うち5%の時代から今回の10%への増税に伴う増収分は、平成24年の「社会保障・税一体改革大綱」において「その使途を明確化し、社会保障施策に要する経費に充てるもの」とされ、年金,医療及び介護の社会保障給付,少子化に対処するための施策に要する経費に充てることとなっております。
 入りも出も、お金に色はついていないため容易ではないとは思いつつ、来年度、区として消費増税に伴う純増分については社会保障費のうちどこにどう予算をまわしたのか、具体的使途を明確にし、積極的に説明・PRしたほうが良い。
 いい意味でそう感じております。

■ 経緯と背景と ⑤ ~テーマ設定その5(ふるさと納税制度について)~
 「ふるさと納税」制度は、本質的には「寄付」を利用した制度です。
 寄付も「ボランタリー」な活動と心意気のひとつの表現であると考えれば、日本で「ボランティア」というワードとその定着はまだ日が浅く、比較的新しい概念であると思います。阪神淡路大震災で、1995年が日本における「ボランティア元年」と云われ、その後1998年に「特定非営利活動促進法」が制定されボランティア・NPOへの認知が徐々に広がり、その仕上げとなったのが21世紀のスタートの年である2001年の「ボランティア国際年」だったように思います。
 2001年当時、世界で唯一、高度市民社会が成立しており、「good citizen=良き市民」という概念が根付いているのは英国であると云われていたように思います。そして同国のそういった市民(社会)文化の根底にあるのは「社会の利益=公益」であり、その土台は「チャリティ法」という法律だと聞きました。
 今回のフォーラムにあたり、「ふるさと納税(の本義)」「寄付」「ボランティア」「公益」、これらは間違いなく一つの線でつながっている、そんな気がしています。

■ 経緯と背景と ⑥ ~テーマ設定その6(「ふるさと納税」制度という競争)~
 板橋区でも、今年度から「ふるさと納税制度」を活用した寄付の募集をスタートさせました。
 内容は、①「児童養護施設卒園者住まい応援プロジェクト」 ②「植村直己生誕80周年記念事業」 ③「旧粕谷家住宅の保存・管理」というメニューで、クラウドファンディング(ネット)で寄付できます。
 今日時点で確認できる範囲では、①は目標額540万を達成し615万の寄付、②は目標額100万円に対し39万円、③は100万円に対し76万円という集まり具合のようです。
 ①については当初目標を大幅に上回る寄付が集まり、目標額を上方修正したという経緯があります。政策には結果がついてきます。その意味で「児童養護施設卒園者支援」という視点と、ふるさと納税を活用してこの寄付を募ったのは、なかなか機転の利いた政策であるように感じます。
 少数派で絶対数も少ないがゆえに声の挙がらない・届かない、でも困ったり悩んだりしている。そういったところに手を差し伸べると同時に、共感も得られる政策を考えて発信することにより、多くの方が知ることとなり寄付も集まる。ピンチはチャンス。「ふるさと納税制度」は創意工夫のし甲斐のある、そんな制度かもしれません。返礼品競争に加わることなく何ができるか、何をすべきか。そのあたりを11/23のシンポジウムで議論してみたい、そう思っております。

■ 経緯と背景と ⑦ ~第1部講師:村尾信尚さんについて~
 今回(2019.11.23)第1部では、昨年まで日本テレビ「NEWS ZERO」のキャスターを務めていた村尾信尚さんにご講演をいただきます。
 村尾さんを板橋にお招きするのは実は2回目となります。遡ること15年前、2005年1月28日、当時実施していた「ボランティア・市民活動コーディネートセミナー」という事業に講師としておこしいただきました。キャスター就任1年半前のことです。きっかけは、2004年8月、村尾さんは『「行政」を変える!』という著書を講談社現代新書から出しました。自身の体験を交えながら行政の本質と改革のポイントを的確にとらえた内容で、とても分かりやすく かつ読み物としても臨場感があり、一気に読めるものでした。
 同書で初めて村尾さんを知ったのですが、大蔵官僚から総務部長として三重県に出向。北川正恭知事のもと県庁の改革に挑み、いったん大蔵省へ戻った後、北川知事が勇退する2003年4月に大蔵省を辞して純粋無党派として知事選に出馬。既成政党からの推薦や支援を一切受けずボランティアを中心とした選挙を展開したものの落選。関西学院大学(東京事務所)教授に就任し同書を上梓という時期でした。
 著書への感銘から、さっそく講演を依頼し 実現に至りました。当日、会場の「ハイライフプラザいたばし」で初めてご本人とお会いしましたが、端正な容姿で人あたりもソフト。講演はシャープな視点と平易な語り口。そして何より官界から「市民セクター」へ軸足をシフトしたその姿勢と心意気に共感を覚えました。
 その時から、今後 村尾さんは、再度知事選に出るのか、国政に進出するのか、あるいは(北川知事同様)教鞭をとりながら市民セクター側から政治行政改革の運動を展開するのか、どんな道を進まれるのかなぁ、と思っていました。
 そんな中、翌2006年、日本テレビ「NEWS ZERO」のメインキャスターに就任という報を聞き、驚いたと同時に村尾さんのキャリアそして印象と雰囲気から合点もいきました。「テレビメディアが放っておかなかったか」とも感じました。
 同キャスターを12年務め、今年6月、小学館から『B級キャスター』を上梓。このタイミングで再びお声掛けしたところ講演を快諾いただきました。
 今回は『行政を変えるには ~納税者(目線)からの自治体改革~』という古くて新しい=普遍的なテーマで講演いただきます。大蔵省(財務省)という税を司る省庁の出身、三重県という自治体での経験、行政改革への志と実践、キャスターとしての幅広い知見。今年の「いたばし協働・市民フォーラム」のテーマにぴったりの講師であり、この機会にぜひ多くの方に聴いてもらいたい、そう思っています。/

■ 経緯と背景と ⑧ ~文京区長と先進的試み事例~
 これまで述べてきたとおり、ある意味「ふるさと納税制度」は政策コンテストの側面を持っています。善し悪しは別として、制度上認められているのであれば返礼品で集めるのもひとつの選択肢・方策かもしれません。
 そこで、今回の市民フォーラムでは、ご来場いただきました皆さまに、任意のアンケート形式で「寄付」が集まる・集められる方策や事業のアイディアを募集させていただこうと思います。
 ちなみに、直近2回(第16、17回)の市民フォーラムの学びの流れで感じていることは、返礼品以外で寄付が集まる事業のキーワードは、(災害支援等の特別な事柄を除けば)「子どもの貧困」「子どもたちの未来」的なもの、であるということです。
 今回、文京区の成澤区長にシンポジストでおこしいただきますが、今夏、同区の「子ども宅食プロジェクト」担当課長を講師として勉強会にお招きしました。お話を伺い、同プロジェクトは理念的にも仕組み的にもよくできている、そう思いました。行政とNPO、企業とがコンソーシアムを組み、それぞれが長じた分野を担いながらコラボレーションすることで相乗効果をもたらし、パブリシティ面も含め上手くまわっている感じを受けました。いずれにしろ同事業は区だけでは逆立ちしてもできないプロジェクトであり、「協働」のひとつのゴールを垣間見た気がしました。
 他自治体の事例に学び、そのうえで板橋区は、区民は、どうずればいいのか、何を選ぶのか。その辺の方向性についても議論してみたいと思います。

 8回にわたって記してきました本稿も、今回で一旦区切りたいと思います

■ 事業を終えて ~ 第18回 いたばし協働・市民フォーラム【御礼】~
 11/23は雨の中、ご来場、誠にありがとうございました。
村尾さんの講演は「行政を変える方法」「人口減少・移民受け入れ」「国と地方の借金残高」「歳出カット・増税」等々の問題について、大蔵省時代の知見と三重県での行革体験をふまえつつも、知事選落選からキャスター就任までの道のりやきっかけなども交えながら、とても分かりやすいお話し(解説)でした。
 シンポジウムではふるさと納税に関し、文京区の「子ども宅食プロジェクト」等の活用事例と、その「ねらい」「理念」。また板橋区で昨年度12.8億円の税金が他自治体へ流出(純減)していること。その中で返礼品も検討していること等々、いかに流出を防ぎ、同時に全国から寄付が集まる事業をどう創り出すかについてシンポジストのお考えを聞きしながら議論しました。
 本来、(金額の多寡や新規・継続にかかわらず)税金を使う価値と必要性のある事業であれば、区の単独費としてきちんと予算付けをして執行すればよく、不確実な「ふるさと納税」の寄付を見込んで行う事業について行政内部での位置づけの整理や明確化が必要である、そんな感じを受けました。
 とはいえ、ネットのクラウドファンディングで全国に発信できる「ふるさと納税」は、言い換えれば「いたばし発→全国」の(シティ)プロモーションそのものであり、広く意見を集め、知恵の絞り甲斐があると思います。今後も活動を通じて発信していければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 最後に、ご来場いただきました皆さま、関係の皆さまにあらためて御礼申し上げます! ありがとうございました。

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