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糖質制限、お好み焼き

私はお好み焼きの国出身だ。お好み焼きの国では、お好み焼きはだいたいお店で食べる。がっつりランチとか、夜はビールを飲みながらとか。大きな鉄板で焼いてもらって、アツアツを、コテでふーふーしながら食べる。上の写真みたいな感じで。この写真を見たときは、涙が出そうになった。

アメリカに引っ越して以来、今でも日本に帰って一番食べたいのはお好み焼きだ。お寿司もラーメンもたくさんお店ができたし、居酒屋やお好み焼きのお店もできたけれど、やはりお好み焼きはお好み焼きの国で家族や友だちと食べるのが一番おいしい。 

去年、我が家ではオーブンを買い替えた。アメリカではオーブンはコンロとセットになっている。コンロは4つあるが、真ん中に鉄板がついている。たぶん、これでパンケーキや目玉焼きやベーコンを焼くのだと思う。夫はこれを見て「これでお好み焼きが作れるよ!」と得意そうだった。

ていうか、あんた小麦粉食べないじゃん。

小麦粉の代わりに何を入れたらいいか、ネットで調べていた。私はソース担当。調べる前から「ケチャップとウスターソース混ぜたらお好みソースになるんじゃない?」といつもながらの適当コメント。Whole Foods という、小洒落たスーパーで砂糖不使用ケチャップを見つけたので、夫のために購入。

満を持して初挑戦。粉を水でといて、だし、卵、キャベツを入れ、まぜてまぜて、熱くなった鉄板にのせる。ジューッとは言ったけど、たらたらと流れていく。「ゆるかったかなぁ?」「ゆるかったみたいねぇ」「ま、焼けばいいさ」と暖かく見守る。「たこ焼きの中みたいだね」と言いながらも、かきあつめ、ひっくり返してさらに焼き、ソースとマヨと青のりとネギをふりかけて完成!

夫は前日にソースを仕込んでいた。砂糖不使用ケチャップにウースターシャーソース、HPソース、アップルエクストラクトとバナナエクストラクトを入れたと言う。「バナナ?なんで?」お好みソースの原材料を見て、フルーツが入っていたけど食べられないので、代わりにエッセンスを入れてみたと言う。「バナナまで?」と言ったが時すでに遅し。なめてみたらバナナの香りのすっぱいソースができていた。「そのソース、味を整えていい感じに仕上げてくれる?」と言う夫。何とも曖昧で壮大なプロジェクトに、小さなキッチンで途方に暮れる。 

想像力をふりしぼって「コクが出したいならオイスターソース、甘みがほしいなら甘味料追加だね」と提案すると、訳のわからぬこだわりのため、却下される。ここで私の想像力のともし火が消える。しょうゆとケチャップを気もちだけ入れ「お手上げです」と文字通り、さじを投げる。

夫は「ぼくはちょっとすっぱめが好きなんだよね。これでいってみよう!」といつもながら非常にポジティブ。それ、バーベキューソースの好みだよね、お好み焼きはバーベキューではないぞよ。

「私はお好みソースでいただきます」恐る恐る宣言すると、あっさり納得され、ホッとする。 

さて、試食タイム、じゃなくてディナータイム。アメリカのキャベツを使ったので食感と甘みが元々違う上に、ぶつ切りすぎて甘みが出ておらず、粉にも微妙な苦味がある。それでも、何もかもをあたたかく包み隠すお好みソースよ!普段はアメリカ版のこのソースは、甘すぎ、フルーティーすぎてあまり好きではないのだが、この日ばかりは「お好みソース〜、心の友よ〜」とジャイアンになる。

気分を盛り上げるため、青のりとネギ両方を大盛りにしたので、「なんて豪勢!」ともくもく食べる。ハッと我に返ると夫の食が進んでいない。「どう?おいしい?」と聞いてみたら「ソースの甘みが足りなかった」と悲しそう。「そっちはどう?」と聞かれ、あまりにも悲しそうなので「お好みソースがまとめてくれた」とあっさり答える。

「改善の余地ありだけど、お好み焼きも食べられるってわかってよかったじゃん!」とフォロー。次回はソースには甘味料とオイスターソースを入れよう、キャベツは台湾キャベツ(日本のと同じ)を使い、もっと細く切ろう、ということになった。

お好み焼きの国からきた私は、やるせない思いを抑えきれず、翌日、夫のいぬ間に焼きそばを作って、お口直しをした。小麦粉は家にないので、いわゆる、肉玉そば入り皮なし、ってところか。許せ夫よ。きみだって、もし一生ステーキを食べられなかったらどうする?

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