接触行為

 彼の唇が私の掌に、指先に触れるだけで鼓動が速くなる。彼の手が私の頬や髪、首筋に触れるだけで体温は上がる。彼が愛の言葉を囁く度に胸がぎゅうっと鳴る。こんなの知らない、知らなかった。優しくもあり強く触れてきた彼に私は落ちた。

 彼が私に触れれば触れるほど心が溺れ、思考が彼でいっぱいになるのが分かる。染められていく、或いは自ら染めていく事を選んでしまう。皮膚の接触がこんなにも怖くて甘やかなものだとは知らなかった。

 もっと触れてほしいと思うと同時、私も彼に触れたいと願ってしまう。皮膚という名の輪郭をなぞり彼の形を知りたい、そして内側にも触れてみたいとなるのだ。それで理解するのは私は彼をとても愛しているという事だ。

 もっと触れて、抱き締めて。そしてキスをしてほしいと願いながら心に触れて欲しいと思う。もっと触れたい、抱き締めたい、そしてキスをして心に触れたいとも願う。

 私は彼との接触行為が好きだ。互いに想い合っている内は、皮膚の接触と心の接触を続けるだろう。──願わくば死が二人を分かつまで続けられるよう、毎夜毎夜願うのだった。

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