大都市東京の波の中で

東京メトロ銀座線、渋谷行き。

目的の駅まで20分。
スマホの充電が切れた。
暇だ。

そんなときでも大丈夫。東京の地下鉄にはたくさんの人がいる。仕事も趣味もバラバラな老若男女。皆さんと会話をすればいいのだ。

目の前にいるのは綺麗な茶色の髪を一つに束ねたお兄さん。髪色の美しさとうるつやな感じに思わず見とれてしまう。

まだバージンヘアの子が大多数だった高校時代。透明感のあるシャイニーな髪をなびかせている友達がいた。茶色でも黒色でもなく、アッシュでもオリーブでもなく、単色では表せない絶妙な色。

春夏秋冬、早朝から日が暮れるまでいつ見ても綺麗で、同級生なのに憧れのお姉さんを見ているみたいな気分になっていた。
ほう、17歳の私なかなか可愛らしいじゃないか。


で、今日のお兄さんの髪もまさしくそんな感じの色だった。
染めているんだろうか。地毛なんだろうか。地毛だからこそ、その強みを生かすべく伸ばしているんだろうか。
自分の髪が、乗り合わせた乗客に高校時代の淡い思い出を想起させている自覚はあるんだろうか。

聞いてみたい。話してみたい。ついでにそんなお兄さんがイヤホンで聴いている音楽も知りたい。しかしついに、声はかけられなかった。

でも大丈夫。まだまだ色んな人がいる。隣のお姉さんはどうだろう。

うわあ、まつげがとんでもなく綺麗。多くて長くて、毛先のカールが思う存分カールしている。どこのまつげサロンに通ってるんだろうか。それともこれもすべて天然物で、かつビューラーのテクニックとマスカラの性能が物凄いんだろうか。

うわあ、まばたきの瞬間見ちゃった!美しきまばたき、美しきまつげに有り。
そのまつげ越しに映るスマホでは一体何を調べているんだろうか。
「パスワード 秘密の質問 全部忘れた」とかだったら、なんかちょっとお近づきになれそうで嬉しい。

でも今のところ手が届かない。だめだ話しかけられない。

よし。気を取り直して、斜め前に座っている女性の方はどうだろう。

お、トートバッグに何か書いてあるぞ?

「JST 科学技術なんちゃらかんちゃら」

ほう~~ちょっと気になるね。
このわくわく感、科学未来館とかJAXAとかの仲間だ。探求心をくすぐられる。

そういえば小学校の夏休み、科学館とか博物館とかミュージアムとかよく行ったなあ。

前髪とおでこをペタペタさせながら、そして絶対にサイズが合ってないキャップで視界をふさがれながら、ドデカい吹き抜けの天井を見上げる私。
わ~~涼しい~~~~広い~~~~~とか、アホみたいな感想しか出てこなかった気がする。

ああ、まったく形容詞1つ2つ並べてワーキャーしてたあの頃が懐かしいぜ、、、、
いつからこんなに長ったらしく、こねくり回った文章を書くようになったんだろうかねえ、、。

さて。本題に戻る。

この科学なんちゃらトートバッグの一番のハテナは、女性はこれをどうやって手に入れたか、ということである。

社内(?)グッズだろうか。
開館何周年!あつめてもらおう!わくわくキャンペーン(?)に当たったか。
それともこの施設で夏休みに開かれるイベント(?)に数年前息子を連れて行き、その際にもらったバッグが思いのほか丈夫だったため、普段使いの部に配属された、ということだろうか。

そうそう、何かのついでに貰ったり買ったりしたものを気づいたらかなり愛用してるぜ!!!!というのは、よくあることである。
うんうん。これが正解かなーー、あ、でも、なんか、

とか色々考えていたら、女性は銀座か京橋かでサッと降りて行ってしまった。
ああ。さようなら。息子さんによろしくお願いします。

そうやって日本橋に着くまでの間、あれこれ会話のチャンスをうかがっていたが、今日も誰にも話しかけられなかった。

それでも時間つぶしには十分だった。どうせ家に帰ってからも見るインスタを眺めるよりも楽しかったかもしれない。

大都市に生きる私たちは、日々膨大な数の人とすれ違っては別れていく。人が多すぎて人酔いすることもよくある。
私にとって、その場限りの出会いを自分なりに楽しむことは、東京で伸び伸びと過ごすためのライフハックなのだ。

大きな社会に潰されず、人々の波に溺れず、
あ、そうだった。ちゃんとみんな一人の人間なんだ、と思い出せるように。

そんなこんなで、いつもほんとにありがとうございます!東京で一瞬だけすれ違う人たち!!
みんなそれぞれ、個性的な日常です!!

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