品川 力 氏宛書簡 その二十四
このあひだはありがたう。僕の季節的憂鬱
は、今やうやく去りかけてゐます。「二月の午後」にまた広告
がはいった―眼がギヨロつと光つたらうと、ひやひやしてゐます。
失礼なことをお願ひしたばかりに、あなたの大嫌ひな、「キモノ」
などといふ字をお書かせしたりして申訳ありません。あなたの
鼻のするどいのにはおどろく。ますます好きで耐りません。
僕のわるいくせをはっきり言ってくだされたので。
これからは二行いちどによんでも、或は全くよまなくてもいゝや
うな手紙は差上げないやうに心がけます。それが僕のわるいと
ころでまたいゝところぢやないかと思ふのですが―自分では。
どうもあなたに叱られるのがいちばん恐ろしい。いらっしゃい。
[消印]14.6.29 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂
品川 力 様
漠黒栄
(日本近代文学館 蔵)
↑「二月の午後にまた広告がはいった」とはこのことと思われる。
(ソフィアセンター柏崎市立図書館 所蔵)
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