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王 友 釣 魚 便 り (「王友」第十八號)

      王子産報本社支部釣魚部

   △昭和十五年度△
 目出度皇紀二千六百年を迎へたが吾釣魚
部には一向芽が出ず依然たる減水の爲め寒
タナゴ釣も面白からず寒鮒釣も計畫倒れと
なり加ふるに寒さの爲め海川共に出足も鈍
り勝であつたが「暑さ寒さも彼岸迄」四
月ともなれば乗込鮒ならぬ乗込人間が野に
川に氾濫するので當部でも昨年催した戶田
井方面か龍ヶ崎邊で春季大會を開催せんも
のと試釣したが相變らずの渇水で全然好釣
の見込無く依つて鮒を思ひ切り小田急線
酒匂川にてヤマベ、ハヤ釣大會を催すこと
にした。
   △ヤマベ、ハヤ釣大會△
 四月廿一日催す豫定の處某家に不幸あり
之が爲め急に參加者が減少したので廿五日
靖國神社臨時大祭の休日に決行した。午前
六時三十分新宿發小田急にて出發沿線の菜
種の花も春らしくハイキング連中も今日と
ばかりに押出したので車中の混雜は一方な
らず押しつ押されつする程に新松田着。既
に試釣場所を知つた定連は小田急鐵橋より
上流へ一目散。新顔は地圖を賴りに十文字
橋を渡り下流へ下流へと思は同じ酒匂川、
打振る瀨釣の竿も輕く日和に惠まれ一日を
愉快に過した成績は次の通りで一般に上流
が良く下流は餘り振はなかつた。

順位 氏 名  總數 ハンデイ  差引  總數ノ順位
一 小林會長 二〇四  五〇 一五四    一
二  原    九七  二〇  七七    三
三  石 川  九三  二〇  七三    四
四  坂 田 一〇七  四〇  六七    二
五  田 代  七四  一〇  六四    六
六  永 井  八九  四〇  四九    五
七  松 原  四六  一〇  三六    七
八  神 原  二六   〇  二六   十一
九  高 橋  三〇  一〇  二〇    九
十  石 井  四六  三〇  一六    八
十一 横 田   六   〇   六   十四
十二 依 田  一四  一〇   四   十三
十三 前 田   二   〇   二   十五
十四 相 澤  二二  二〇   二   十二
十五 楳 田  二九  三五逆  六    十
十六 山 田   〇   〇   〇   十六

 今回は初の試として瀨釣の經驗の度合を
考慮し前記の如くハンディキャップを付け
たので相當面白い結果となつた。小林會長
は自信あるか百のハンデイの申出があつた
がまあ/\と五十に止めたが結果から見て
流石御自慢丈けあると腕前の程感じ入つ
た。翌日の鼻息も亦一等。

  △清水港白ギス釣遠征△
 想ふだに胸踊恒例清水白ギス釣の季節
となつた年中行事の一として五月廿五日午
後十一時四十分東京驛發の列車にて一行三
十八名清水遠征の途につく。途中富士驛よ
り工場の方々も乗車し五月廿六日午前一時
三十九分清水驛着。出發當時よりの小雨は
清水へ着くも止まずおまけに風さへあるの
で直ちに出船出來ず暫く京稲にて休憩して
居つたが、例年向ふ興津沖は無理だが折戶
灣内なれば決行出來るとの報が入つたので
八時過ぎ宿を出て巴川尻より數隻の船に分
乗折戶灣へ乗出す。灣内でも相當時化て居
るので船醉者が續出し、加ふるに狙物の白
ギスが釣れず、外道ばかりで一同がつかり
して居つたが次第に雨も上り午後からは風
が靜まつたので待望の興津清見寺沖へ遠征
する。流石は本場所、漸く白ギスの顔を拜
むことが出來たが歸途の時間の都合も有る
ので乍殘念四時に打切り宿へ引揚げ夕食の
御馳走になり、且つ左記上位者には夫々賞
品迄頂戴し、午後六時七分清水驛發にて歸
京。

順位  氏 名  キス  雜魚  計
一 小林會長  二四  一六  四〇
二 坂 田   一八  一九  三七
三 片 岡   一七  一七  三四
四 依 田   一六  一三  二九
五 石 井   一五  一五  三〇
六 大 平   一五  一四  二九
七 新 田   一四  二〇  三四
八 三 谷   一四  一八  三二
九 馬 場   一三  四六  五九
十 妹 尾   一二  二六  三八
 以下略

 工場山林各位の毎回の御厚遇を本誌上を
借用御禮申上げます。尚今回小林會長より
小林盃の御寄贈が有つたので之が獲得に皆
腕に撚りを掛けたが、會長の手に逆戻りと
なり吾々には殘念であるが會長としてはそ
の貫錄上先づは目出度し/\である。

  △秋季ハゼ釣大會△

 吾釣友會の年中行事の一たる江戶前ハゼ
釣大會を十一月十一日決行す。永年吾々が
親んだ王友倶樂部も発展的解消を遂げ王子
産業報國會に包含されることとなり、王友
倶樂部釣友會としては最後の催しなので會
するものも亦實に、四十五名の多きに上つ
た。月島釣岩より六隻に分乗出船モーター
の音も快調に三枚洲に向ふ、午前中は多少
風波もあり釣難かつたが、晝頃より風も止
み漸く好調を思はせたが之も束の間一時頃
より又東風が吹き出し釣果上らず、午後五
時船宿へ歸り成績發表賞品贈呈の上散會
す。

順 位  氏  名   船  ハ ゼ  雜魚  計  魚數二ヨ
                           ル 順位
  一  永  井   A 六  八一  八  八九    一
  二  妹  尾   F 一  五八  三  六一    二
  三  加  納   E 八  五七  三  六〇    三
  四  原      B 八  五六  七  六三    四
  五  新  田   C 一  四四  〇  四四    七
  六  石  川   D 三  三五  四  三九   十五
  七  楳  田   F 三  五四  六  六〇    五
  八  鈴木(嘉)  B 四  四二  三  四五    八
  九  前  田   E 一  三九  〇  三九   十三
  十  三  谷   A 一  三〇  三  三三   十八
 十一  石井(亮)  C 三  二六  〇  二六   廿一
 十二  鹽  崎   D 八  二四  二  二六   廿六
    以下略
ブビ― 岡  田    D 一   七  〇   七  四十四
     合 計      一、三六八 一〇八 一、四七四
    一人當り         三〇   二    三二

船 別 成 績 

一  F船  八人  三二九  三二  三六一
二  B船  八人  二八三  二二  三〇五
三  A船  六人  一九〇  二三  二一二
四  E船  八人  二四〇   六  二四六
五  C船  七人  一六九   三  一七二
六  D船  八人  一五七  二〇  一七七

 今回の順位決定は横並式を採用卽ち前記
の如く六隻に付各船の一等を一位より六位
各船の二等を七位より十二位とせし爲め實
際は下位でも入賞し又上位の人でもお氣
の毒に賞外となつた次第である。尚小林盃
は一位の永井君が獲得する處となつた。毎
回入賞の小林會長の名前が見へぬのは生憎
風邪にて出席せられなかつたゝめで其後本
大會の模樣を報告した處、「僕が行つたらな
あ」との事此一言何を意味するや會長の名
譽の爲め缺席の次第を特に附記して此項を
終る。(十五年度終わり)

  △新舊部員懇親鮒釣會△

 瀨付ヤマベの如き潑剌たる新人六名の入
會を機會に新舊部員懇親會の爲め王子産
業報國會本社支部釣魚部としての第一回鮒
釣會を催す。四月十三日午前六時十五分上
野驛發一名「釣士列車」にて一行十六名戶
田井へ向ふ。地元案内役を御引受下さつた
富士ビル木村君の出迎を受け、且つ同君の
御親戚にて純綿の握飯迄用意して頂き、小
貝川、神ノ浦附近の池等思ひ/\の場所に
散開今日の功を爭ふ。曇天加ふるに風あり
成績上らず、更に午後三時頃より降雨とな
り、時間は早いが遂に竿納めの已むなきに
至つた。此降雨で花見客、釣士、ハイカー
等一勢に歸り支度をした爲め取手行バスの
乗場は超滿員何時になつたら乗れるのか見
當が付かず、已なく方向を轉じ小船を依賴
して小貝川を下り利根川に出て、成田線布
佐驛に出たが、此處も成田、三里塚等より
の歸り客にて列車は滿員で乗れず、一列車
を見送りよるになり濡鼠で歸京。

順 位  氏  名   鮒數
  一  高  木   一四
  二  楳  田    九
  三  永  井    六  大物賞(九寸鮒)
  三  石  井    六
  四  高  橋    五
  五  坂  田    四
     以下略


  △清水白ギス釣遠征△

 五月廿四日恒例清水白ギス釣遠征。昨日
の雨も止み今日は曇つては居るが、欲目か
段々良くなりさうに思はれる、午後五時發
表の氣象通報は「東の風海上平穏曇時々小
雨」との事、小雨位なれば決行しやうと衆
議一決、夜の集合を樂しみに家路を急ぐ。
例によつて東京驛午後十一時四十分發の烈
車にて一行三十九名出發。然し情無や最早
雨は降り出した。五月廿五日午前三時三十
九分清水着。當地も降雨中だ。加ふるに風
迄ある。雨中京稲に至り暫く待機し風雨の
稍靜まるのを待つて昨年出船した巴川尻よ
り折戶灣へ乗出したが、釣るや釣らずや又
もや風雨、合羽を被り或は傘を差し防戰に
努めたが、風雨は一層激しくなるのみで勝
利の見込無く、乍殘念敗戰中止の已なき
に至つた。本社一行は好きの事とて致方無
かつたが御蔭で工場の方々迄濡鼠の御相伴
をさせ誠に申譯が無い。宿に歸り行儀の良
い格好で衣類を乾し晝食の御馳走になり、
且つ此處迄來て土産の無いのは氣の毒と、
工場關係各位の御厚意で立派な鯵其他澤山
の御土産を頂戴して午後の汽車にて歸途に
つく。車中見上げる大空に時折雲の切間か
ら富士山が頭を見せるので「明日だつたら
なあ」と皆怨事。然も隣席の人から「何處
へ行つたのですか」「清水へ」「良い鯵ですぬ
ゑ」とやられたのは聊か穴入ものであつ
た。毎回の遠征で御迷惑を相掛け且つ又種
々の御歡待に本誌を通じ工場山林關係各位
に厚く御禮を申上げます。

  △木更津ハゼ釣大會△

 恒例ハゼ釣大會を江戶前にて催すべく立
案したが、ガソリン統制の爲めモーター船
の使用が出來ず左りとて手漕船では風でも
出た場合、多勢の大會で萬一の間違があつ
てはと遂に江戶前を斷念し、少し遠いが手
漕船で風があつても絕對安全な千葉縣木更
津を選んだ。木更津は目下或る事情で餌の
ゴカイが掘れぬ爲め東京から仕込んで行か
なければならぬので、船の手配旁々幹事三
名ゴカイ一斗を携帶十月四日先發した。此
餌の重く厄介なのと生憎にも夜に入つて降
雨となつたのには先發隊も参つたが、翌く
れば十月五日夜來の雨も如何にか止んだの
で一安心、重荷を卸す。午前六時五分兩國
驛發の一行が八時頃到着し同勢廿六名勢揃
したので早速六隻に分乗、大會を開く。雨
は完全に止み、曇から段々に晴れとなり多
少の風はあつたが近來無き絕好の釣日和と
なつたので船醉者も出ず一日を愉快に過す
事が出來た。

順 位   氏   名  船  ハ ゼ  雜魚  計  總數ニヨル
                              順位
  一    新  田   四 三 一一九  八 一二七   一
  二    永  井   一 一  九七  一  九八   三
  三    加  納   五 一  九一  七  九八   五
  四    小  林   二 一  八九  四  九三   六
  五    鈴  木   三 三  七三  五  七八   九
  六    鳥  羽   六 一  五八  一  五九  十五
  七    石  川   四 一 一〇五  〇 一〇五   二
  八    大  島   五 二  八六  一  八七   七
  九    菊  池   二 二  六四  一  六五  十一
  十    高  橋   三 一  六二  一  六三  十二
 十一    横  田   一 三  五五  〇  五五  十六
 十二    高  木   六 四  四五  二  四七  二十
      以下略
ブビ―   關尾(正)   六 二  二〇  一  二一 二十四

 今回も順位決定を横並式としたので前記
の如き結果となり、小林盃は一位の新田君
が獲得した。化物の如き大ハゼ外道と雖も
大カレイ等、重き獲物に皆喜びつゝ午後五
時廿七分木更津發列車にて歸京此處に十六
年度行事も目出度終了した。


(「王友」十八號 
  昭和十七年十月二十日發行 より)

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          紙の博物館 図書室 所蔵




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