品川 力 氏宛書簡 その三十九
つとむ様―この月にはいってから、朝は霜を踏み、夜は
密行の巡査にからだを嗅がれる頃まで、つまらない仕事に
沒頭してゐますので好きな書物を一頁もひらいたことはあ
りません。昨夜深更机の上の卓燈をともすと、あなたから
の小包と野瀨君の手紙と妻からの拙い封書と、この三つの
僕の心持を愉快にするものが載ってゐたのです。あなたのご好
意をありがたく頂きます。僕の書棚の百册ばかりの愛讀書
の中に、あなたのご好意を紀念すつものが三册もあるのは愉快
です。いづれひとかたづきついたら、ゆっくりとお話ししたいと思ひ
ます。いゝ友達と、いゝ書物と―僕にとって、これほどのありがた
いものはないのです。とりあへずお礼まで―失礼。
[消印](不明)(大正13~14年頃か)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂にて
品川 力 様
[差出人欄]
6th oOoe
牛込区河田町一〇
菊池 与志夫
(日本近代文学館 蔵)