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ビジョンを実現する、事業戦略の書き方

今日は、ビジョンを実現する事業戦略・計画の書き方について解説したい。

多くの幹部にとって、事業戦略策定は神経を使うプロセスだ。役員と対峙する場であり、事業部の予算を交渉する場であり、事業部メンバーが何に力を注ぐのかを決める場である。大事な場でベストを尽くせるように、何とか時間を捻出して現状を振り返り、市場調査をし、次年度の取り組みを提案し、数字に落とし込んでいく。この舵取りの繰り返しで、3~5年後に担当事業が成功するかを左右するのだから、責任は重大である。

だが、本当に良い事業戦略を書くのは容易ではない。多くの「戦略」の残念なパターンを振り返ると、①既存の延長線に過ぎない、②取り組みが多すぎて結局できない、③日々の活動と紐づいていない、という3つに帰結する。いずれも、投入した時間と比べて果実が乏しく、虚しくなったり、戦略や計画なんてそんなもんだと結論づけてしまった人もいるのではないか。

良い事業戦略・計画とは、超長期を見据えた上で今年・今週・今日注力すべきことを明確にしてくれるものだ。5-10年後を見据えた大きなビジョンを持ち、それを実現するための今年のテーマ・取り組みを明確にし、それらを人員・予算と照らし合わせて容赦なく絞り込む。絞り込んだ取り組みは、売上や利益とは別の、行動レベルの目標と結果に落とし込み、高頻度(1~2週間毎)で進捗状況を追いかけていく。良い事業戦略を作ると、いざ実行段階で色んな部署の協力を仰ぐ時に、資料を共有するだけで、その背景と意義を説明できる。また、事業戦略を作る際に各取り組みの目標と優先順位を関係部署と合意しておくことで、週単位で進捗を確認し、目の前の課題を解決することができる。1年を通じて、その年一番大事なことから目を離さず取り組める基盤ができるのだ。

ここで、アマゾンで私が3年間担当して書いた事業戦略の構成を共有したい。

  1. KPI表

  2. ミッションとビジョン

  3. 財務サマリー

  4. 振り返り(ハイライト・ローライト)

  5. 主要テーマと各取り組み

  6. 次年度の最重要目標

  7. FAQ

  8. 添付資料

    1. 中期財務計画

    2. 取り組み別の人員数表

    3. 新たに予算がもらえたらやりたいことリスト(優先度順)

    4. モックアップ・ワイヤーフレーム

KPI表 売上のような最終数値に留まらず、売上に至るまでの全工程から最も意味のある指標を選んで、過去の経過を示す。例えば、私の担当していた広告事業であれば、広告主数、広告主あたり支出、広告表示回数、表示回数あたり売上、といった指標だ。

ミッションとビジョン これを定義せずに、いきなり売上向上施策などに入ってしまう戦略も多いのではないか。ミッションとビジョンは、「何故あなたの事業は存在するのか?」に答えるもので、全ての意思決定をするために必要な土台である。また、野心的なビジョンがあるから、既存事業の延長線に留まらない事業領域を視野に入れることができる。例えば、CCCは、「世界一の企画会社として、ライフスタイルに革命を起こす仕組みを提案する(全文はこちら)」という大きなビジョンがあるから、書店や図書館作りなど、新しい領域に踏み込めている。

  • ミッション:日々、何を、誰のために、どうやってやるのかを示すもの。「どうやって」は事業が進化するにつれ、改定してOK(例:リンクトイン「世界の人々をつなげることで、個人と組織の生産性を高め、さらなる成功に導く」)。

  • ビジョン:3-10年後までに顧客のために成し遂げたいこと。野心的で、人をやる気にさせるもの。基本的に長期間変わらない。(例:リンクトイン:「世界で働くすべての人のために、経済的機会を作り出す」)。これを述べた上で、事業戦略の総括として、1年後にどんなことを顧客のために成し遂げていたいかを加筆するのも可。

財務サマリー 昨年の財務結果を数段落でまとめたもの。

振り返り(ハイライト・ローライト) 昨年上手くいったことと、上手くいかなかったことを2~3ずつ書く。それぞれの学びと今後の対策についても触れる。ハイライトとローライトの両方を書くことで、現状を見つめ、上記ビジョンとのギャップを炙り出す準備が整う。

主要テーマと各取り組み ここで、現状からビジョンに近づくために最も必要な「テーマ」と、各テーマ毎の取り組みを書く。テーマは3~4程で、テーマ毎の取り組みがさらに3~4あるイメージだ。例えば、「動画広告を全ての広告主の手に」がテーマだったら、「①安価な動画作成のサポート」、「②他プラットフォームの動画の再利用促進」、「③「良い動画」の定義と理解促進」といった取り組みがあるかもしれない。

ここで私が上司から耳にタコができる程言われ、確かにそうだなと思うのは、「どうやって」ではなく「なぜ」これをやるのかにひたすら集中することだ。欲しい成果は、幹部や関連メンバーに「確かにこれはやらないといけない」と感じてもらうこと。「どうやって」は最後に数行、イメージが沸く程度あれば、後はメンバーで詳細を議論していけば良い。読み手が納得する「なぜ」を書くためには、顧客の口コミや苦情、社内データ、市場環境の変化や、急速に進化しているテクノロジー等、定性・定量の情報を織り交ぜてストーリーにしていく。こうした洞察を考え抜いて提示することで、読み手が頷く・ワクワクする提案がてきていく。

次年度の最重要目標 ここでは、最大5つ、売上や利益以外の次年度の最重要目標を示す。例えば、「動画インプレッション数をXからYに、年率Z%増やす」といった、前述のテーマを成し遂げたら実現するはずのゴールだ。最大5つに限ることで、数多くあるやりたいことのうち、どれが絶対に譲れないゴールなのかが明確になる。スティーブ・ジョブスが言うように、イノベーションとは他に百も千もあるアイデアに「ノー」ということなのだ。

尚、アマゾンでは、年度初めにこれらの年度目標を登録し、ランク付けを行う。「社長レベルで進捗確認するゴール(S-Team Goal)」、「副社長レベルで進捗確認するゴール(SVP Goal)」という形でランクを決め、S-Team及びSVP Goalに申請できるのは事業本部あたり最大5つまで。ランクを上げる程、他部署の協力も得やすくなるが、その分予定通りに進まないとトップから毎週詰められる、という諸刃の剣だ笑。年初にこのゴールの数値や内容に関してSVPとのせめぎ合いがあり、VPやDirector等の幹部は年度末にそれをどれだけ達成できたかで評価や報酬も左右される。

FAQ ここで読み手からの想定質問や、意思決定において悩ましいポイント等の見解を述べる。下記のような質問を盛り込むことで、難しい問いを予め考え抜き、その考えを深いレベルで読み手と短時間で共有し、議論することができる。

  • 「この提案のどの部分で最も賛否が分かれていますか?」

  • 「まだ表面化していないが、懸念していることは?」

  • 「この事業部の破壊的なビジネスアイデアは?」

  • 「過去1年で最も驚いた良いことは?どうそれに今後注力する予定?」

  • 「過去1年の最大の失敗と学びは?今一番ガッカリしていることは?」

  • 「今顧客から一番頻繁に寄せられる苦情は?それをどう解決する予定?」

  • 「人員計画に収めるために諦めた取り組みで、一番辛かったのは?」

  • 「固定費と変動費を削るための計画は?どう進捗を追う予定?」

  • 「この事業部の戦略理念は?」

    • 戦略理念(Tenet)とは、事業部が日々意思決定する上で重んじる価値のこと。(例:「自社より、広告主より、消費者の体験を優先しよう」)難しい判断に迫られた時に、末端の社員でもこれを基に適切な判断がしやすくなる。

添付資料 ここで添付する「取り組み別の人員表」は、本文で提案した取り組み毎に、人を何人投入しないとできないのかを大まかにまとめたものだ。ソフトウェア企業なら、シニアエンジニアの勘で、それぞれの取り組みに何人月必要かざっくり推定してもらう。通常、これで最初の叩き台を作ると、既存人員数の何倍もの人が必要となる見込みになり、じゃぁ、どれは来年やらないか決めないといけないね、という流れになる。この痛みを伴うプロセスを予めやることで、「絶対やらないといけないこと」と「やりたいけど諦めること」の選別ができる。「諦めること」のうち、でもこれはどうしてもやりたい!と思うものは別途リスト化し、新たな予算を投入するか否か、幹部で別途議論を行う。

このように、ビジョンから人員計画・次年度目標までをまとめた提案書を作ることで、長期と短期で整合性のある計画を作ることができる。ご感想があれば是非頂戴し、今後さらにこれを改良していきたい。

※個人的な見解であり、所属する会社、組織とは全く関係ありません。

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