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安定供給という価値

商品の価格は、需要と供給で決まるとされています。実際のところ、大体そんな感じだと思います。

しかし、必ずしもそれだけで決まるものでもありません。商品や業界によっては、だいぶ様相は違うようです。

私の仕事関係の会社で、ちょっと変わった言葉を聞いたことがあります

そこには分けてやらない

分けてやらない!?どういうことよ・・・?

これは、取り扱っている商品の生産量が、だいたい決まっている業界での話です。初めて、こんな言葉を聞いたとき、私としても、ちょっとビックリしました。

この業界では、生産工程や原料、設備などの事情により、生産計画が非常に長期的視野で立てられているため、簡単に供給量が変えられないのです。需要が増えたからと言って、突然増産することはできず、また逆に、需要が減ったからと言って、生産を抑えるようなことも難しい業界です。

こういう業界は、取引関係が独特です。

例えば、海外から大量に安いモノが入ってくるようなことがあると、通常、そういうときは買い叩かれます。しかし、こういう業界では、そういうときでも、相手が困るだろうということで、取引先がいつも通りの値段で買ってくれたりするわけです。

売る側としては、大変助かります

当然、逆のことも起こります、流通が滞ったり、世界的に需要が高まったりしてしまって、国内では、なかなか商品が手に入らないような事態に陥ることがあります。商品が不足するわけですから、売る側には、普段、取引がないようなところから、そこそこの条件で引き合いがあったりもします。

そんなときに聞かれる言葉が、「そこには分けてやらない」というやつです。

普段からお世話になっている取引先、お互い苦しい時に支え合っている方々が優先だということです。

この状況、買う側からしてみたら、モノ不足になったときにでも、あそこはきちんと商品を出してくれた、ありがたい、ということになります。そこには価格だけではなく、「あそこは安定的に商品を供給してくれる」という価値があることになります。

こうして、業界内での相互扶助的な関係が生まれるわけです。そこには、いわゆる「需要と供給」の関係だけでは、価格が決まらない世界があることになります。

こんな話を竹中平蔵先生あたりが聞いたら、「そういう非効率な企業は潰した方がいい」ということになるのかもしれません。ドンドンと新規参入しやすい状態にして、市場原理によって競争力がある企業が残り、生産性の低い企業は淘汰されるべきだというやつです。

けれども、これは「困ったときはお互い様」という知恵であり、安定供給という価値観を共有できる人たち同士の信頼関係の表れでもあるのです。

また、そのように支え合って生きていこうとする知恵によって、たくさんの雇用が守られてきたという現実もあります。その側面を無視することはできません

しかし今、私たちの「食」の世界には、そうした信頼関係がなく、それに起因した問題が深刻化しているような気がしてなりません。

海外からの食料と生産資材が高騰し、調達もままならない食料危機が始まっているときに、国内生産振興どころか、国内の農業を潰して、どうやって危機に対処するのか。国会でも「食料自給率」という言葉が、未だに政府からほとんど出てこない異常さである。
そうでなくとも、すでに現場はさらに苦しんでいる。肥料、飼料、燃料などの生産資材コストは急騰しているのに、国産の農産物価格は低いままで、農家は悲鳴を上げている。こんなに輸入小麦がたいへんな事態になっているのに、国産小麦は在庫の山だという。
政府だけでなく、加工・流通・小売業界も消費者も、国産への想いを行動に移してほしい。今こそ、みんなで支え合わなくては、有事は乗り切れない

農業協同組合新聞
「【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「食料危機」の今、どうして「農業潰し」なのか」
2022年3月17日より引用

「食」の世界における、生産者から消費者に至るモノの流れの中で、「困ったときはお互い様」という精神は、ほぼ壊滅状態です。国内の生産者が締め上げらえる一方、安い海外のモノばかりが優先されてきました。市場原理主義に基づいてきた結果です。

海外の状況変化によって、私たちの生活は、いとも簡単に脅かされる状況にあります。今、ほとんどの日本人にとって、「食」の安定供給の仕組みは、ないも等しい状態です。大変危険なことだと思います。

この問題を最も直接的に解決するための方策としては、自分自身で農業をしてしまうということかもしれません。しかし正直、ハードルが高いです。少しずつできるようにはなりたいですが、けっして簡単ではありません

だとしたら、次に考えるべきは、安定供給をお願いできそうな農家と繋がることでしょう。そういうことも、急いで考えていく必要があるように思います。

安定供給・・・本当は、国にお任せしたかったところですが、政府が役に立たないのなら、どうしようもありません。自分たちで考えるほかないです。

安いモノばかりを追っかけるのではなく、どのようにしたら「安定供給」という価値を享受させてもらえるのか、これからの社会を生き抜くため、消費者として、真剣に考えなければいけなさそうです。


ちなみに「食料危機?心配するな!」という方もいます。

今、食料危機が来ると騒いでいるのは、小規模農家だけであり、体力があって、経営資源が豊富な大規模農家はそんなこと言ってないし、そういう生産効率の高い農家が残っていくから、日本の農業はますます強くなるというお話です。だからむしろ、食料危機は起こった方がいいという話もされています。また、食料危機に関する情報の発信は、炎上商法だということまで言及されています。

どうなんでしょうね・・・。

ただ、私としては、この話を聞いても安心できません。やはり備えていかないといけないのではないかと思っています。

このあたりは、それぞれの判断ですね。


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