宇田一生

思いついたシーンを書いています。なので順番はバラバラです。自由にお使いください。

宇田一生

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最近の記事

最後の一杯

 彼のために一杯を淹れる。それが私の日常だった。  彼はコーヒーよりもココアを好んだ。好きな人のために好きなものを作る。同棲して以来、私の日課になった。安いやつは嫌だと言った。だからカカオの純度が高いココアを買った。安月給だけど、それでも彼のためにと無くなるたびに買ってあげた。純度が高いから当然苦い。甘党の彼のためにいつも砂糖を入れる。だったら安いやつでもいいのに、という言葉を我慢した。欲しいものを我慢して、彼のためにあれやこれやと買ってあげた。  尽くしたつもりだった。でも

    • 蟻の穴ーー或る場面①ーー

      〇駿府館、ある一室 今川義元……駿河の大名 太原雪斎……義元の養育係、現在は彼の軍師 龍王丸……義元の嫡男、のちの今川氏真 竹千代……松平広忠の嫡男、のちの徳川家康 義元。「ある者が言った。『君は船、臣は水』とな。されど、わしは逆じゃと 思う。其はなんぞや。」 龍王丸・竹千代「……(沈黙)」 義元。「では問いを変えよう。漁師がいるであろう。荒くれ者じゃ。されど彼奴らでも必ず従うものがある。何じゃと思う?そちはどうじゃ。」 義元は龍王丸にたずねる。 龍王丸。「船長でござりま

    最後の一杯