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医療機器の人間工学設計バリデーションテストの特殊性②:分析編

▪️Don’t blame userの原則

前回の記事からの続きです。米国FDAのガイダンスにもとづく医療機器のHuman Factors Engineering / Usability Engineeringの妥当性確認テスト(バリデーションテスト、総括的評価)の分析・報告上の注意点をまとめます。

まず、「ユーザーのせいにしない」原則についてです。Use errorが起きると、つい「ユーザーが勘違いした」「ユーザーが見つけられなかった」と分析したくなるものですが(行為の自然な解釈ではあるのですが)、それではユーザーインターフェイス (UI) の評価・改善に役立つ情報になりません。「ユーザーが勘違いするようなUI要素だった」「ユーザーが見つけづらいUI要素だった」と分析すべきです。

正しい使いかたをユーザーに伝えて、重大なuse errorを起こさせないことがユーザーインターフェイスの役割であって、それがきちんと実現できているかをテストしているからです。なお、本体の表示以外に外箱の表示、取扱説明書、1枚ペラの注意書きなど、「正しい使いかたをユーザーに伝えるもの」すべてがUIであり、評価の対象になります。 

▪️PCA分析

Use errorの根本原因分析 root cause analysis には、PCA分析が分かりやすく便利です。PCAとは、perception(知覚)・cognition(認知)・action(動作・操作)の頭文字で、具体的な問題の例は下記の通りです。

Perception(知覚)の問題
   例:表示が見つけにくかった
     アラーム音が聞こえにくかった
Cognition(認知)の問題
   例:表示された文章の意味が分かりにくかった
     アイコンが何の操作を促しているか分かりにくかった
Action(操作)の問題
   例:ボタンの位置が遠すぎて押せなかった
     両手がふさがった状況になるのに、新たな操作が必要だった

実査の後で調査参加者に質問し直すことはできないので、根本原因分析のためには、実査の間に観察と質問で徹底的に原因を深掘りしておくことが重要です。

▪️報告書作成段階で考慮すべきこと 

これらはもともとユーザビリティテストの基本原則なのですが、バリデーションテストでは徹底した分析が求められています。そのうえで、UIの改善(デザイン変更)が必要かどうか判断するのですが、医療機器メーカーはもうこの段階でデザイン変更はしたくないはずです。バリデーションテストは上市同等品を用いて行うことになっており、上市同等品が存在するということは、普通に考えて量産のGOが出ている段階なのではないでしょうか。この辺りはメーカー側の事情や薬事戦略もあるところなので、調査会社はメーカーとよく意思疎通を図りながら、専門職としての倫理に誠実に調査を実施し報告書をまとめるしかありません。

販売承認そのものは、この人間工学のバリデーションテストだけで決まるわけではありません。臨床試験や工場査察なども結果を左右します。少なくとも米国では、米国民に利益をもたらすイノベーティブな製品であれば、あまり細かい瑕疵で承認されないことはない印象があります。日本で思い浮かべがちな、「チェック項目にいくつバツが付いたらダメ」という認可判断とは異なるようです。

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