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戸栗美術館名品展II ―中国陶磁―

■きれいなコレクション

戸栗美術館の開館35周年を記念した特別展です。創設者・戸栗とぐりとおる氏が残した、「中国の陶磁は世界の宝物。なかでも官窯のきれいなものがいい」という言葉通り、実に端正な優品揃い。メジャーな美術館と違って来訪者もまばらな展示室内で、名品たちとの静かな交歓を楽しむことができました。

■定番の官窯品

なにしろ展示品2つ目と3つ目で、心をぐっと掴まれてしまいました。磁州窯系、金~元代(12~13世紀)の「油滴天目 碗」と「黒釉 白堆文 壺」です。前者は油滴状の斑紋が均質に浮かんだ上品な表情、後者は漆黒の釉薬に細い白線が通うすっきりした意匠が印象的でした。

耀州青磁は、北宋~金代(11~12世紀)の「青磁 花唐草文 碗」「青磁 蓮牡丹文 獅子鈕水注」だけでしたが、彫り文様が美しい選りすぐりの2点でした。

おもしろかったのは、清代(17~18世紀)に景徳鎮窯で焼かれた、ヨーロッパ向け輸出用の五彩のカップ&ソーサーでした。カップには取っ手がなく、ちょっと茶杯のようですが、型押しで成型された薄作りで繊細な多弁の輪花形と、そこに施された華やかな絵付けが、エキゾチックな雰囲気です。

■景徳鎮の青花

中国陶磁の代表格、明代景徳鎮窯の青花。名品の代名詞とされる「大明宣徳年製」の銘が入った作品を前にすると、背筋が伸びる思いです。宣徳年間の青花は、きりっと濃い青色の絵柄に古格を漂わせ、その洗練を誇るかのようです。

一方、少し時代が下った嘉靖年製の青花は、やや柔らかな青色で、親しみやすく楽しげな雰囲気、家庭でよく見る青い絵柄の器のルーツのように見えました。

■最高の逸品

美術館の創設者・戸栗氏が「いざという時はポケットに入れて逃げる」と語ったという逸品が、清・雍正年間(18世紀前半)に景徳鎮窯で焼かれた「豆彩 葡萄栗鼠文 瓢形瓶」です。胴が強くくびれた瓢箪形の深いカーブも何のその、二次元と三次元の間を這う伸びやかな葡萄の蔓と、その足元にひっそりうずくまるかわいらしい栗鼠が、絶妙な構図と豆彩らしい温かな色味で描かれています。

戸栗美術館は撮影禁止のため、名品を画像で紹介することができないのが残念です。小規模な美術館の柔軟性を発揮して、撮影OKにすればきっとバズって来館者も増えると思うのですが、どうでしょうか。

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