vol.11 手術室の「けがれ」
現役の医療者と話していると、医療現場は驚きの宝庫ではないかと感じるときが多くある。しかもその驚きとは、最先端の科学技術に対してではなく、人間が古来からもっているだろう人間らしさが垣間見えることに対してである。
今回取り上げるのは医療現場の「けがれ」について。つまり、医療現場の清潔と不潔についてのお話である。
医師の美馬達哉は著書『リスク化される身体ーー現代医学と統治のテクノロジー』(2012年・青土社)の中で次のように記している。
近代医学の最先端である手術室だから、細菌などによる感染というリスクを減らすために科学的なリスクマネジメントが行われていると思われているが、じつはそうでもない。たとえば、手術場には、大型のピンセットのようなもの(鉗子)をいれる花瓶のような背の高い入れ物がある。その入れ物はもちろん丸ごと消毒してあるが、内側は下から三分の二までは清潔で、上の三分の一と外側は不潔だと考えられている。もし、助手や看護師が鉗子を不潔な部分にちょっとでも触れさせると、それは不潔なものとなり手術には使えなくなる。しかし、なぜ三分の二なのかは、定められたルールなだけで、細菌数などの科学的理由によるものではない。(p63)
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