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「態度」が気になる

はじめに

シェアバイクサービスをよく利用している。好きなときに自転車を借りて、どこでも返せる気楽さが好きだ。

先日、歩くと20分、バスだと10分、自転車なら7分くらいで行けるルートがあり、シェアバイクを利用することにした。このとき頭のなかで「シェアバイクは1回30分までで165円。7分乗るだけだと損にならないか」という考えが浮かんだ。

たしかに30分まるまる乗ればもっと遠くに行くこともできる。しかしこの場面では私はできるだけ速く目的地に着きたかったので、この考えは誤っていた。たとえ7分だけでもシェアバイクを利用すべきだ。

「7分乗るだけだと損にならないか」という考えの背景には、元を取りたいという経済的な態度がある。元を取るということは、すなわちかけた費用に見合った価値を得るということだ。

今回の場合は速く目的地に着くことができているので、十分にかけた費用に見合っているわけだが、なぜだがより遠くへ行くことができたのに十分な価値(=距離)を得られなかったと損をした気になってしまった。不合理だ。

こういったことは他にもよくある。せっかく買った本なのでおもしろくなくても最後まで読もうとすることとか。行動経済学のサンクコストの議論と似ている。


1 「態度」とは

元を取ろうという態度それ自体は日常生活でも企業の経営判断でも一般的なものだ。ところで、「態度」という言葉が気になる。私は日常的に使っている言葉の意味ほど気になるのだ。辞書の説明を見てみる。

1 物事に対したときに感じたり考えたりしたことが、言葉・表情・動作などに現れたもの。「落ち着いた態度を見せる」「態度がこわばる」

2 事に臨むときの構え方。その立場などに基づく心構えや身構え。「慎重な態度を示す」「反対の態度を貫く」「人生に対する態度」

3 心理学で、ある特定の対象または状況に対する行動の準備状態。また、ある対象に対する感情的傾向。
weblio辞書 デジタル大辞泉より) 

元を取ろうという態度は、2の「心構え」という意味にあたるだろう。1と2の違いは実際の行動などに現れて、外部から判別可能かどうか。心構えは心のなかにだけあるので、外部からはわからない。

英語なら1はbehavior、2はattitudeとなるだろう。さきほどの行動経済学は英語でbehavioral economicsといい、behaviorには「行動」という訳語があてられている。


2 「態度」「姿勢」の実際の使われ方

「姿勢」という言葉も、心構えという意味をもち、ほとんど「態度」と同様の使われ方をされる。

これらが実際に使われている文章を引用したい。以下は「態度 哲学」でグーグル検索して出てきた早稲田大学文学部哲学コースのコース紹介文章。現代人のすぐにググる姿勢。

現代に生きる人々の多くが、政治や社会のことだけでなく、自分の拠り所とするものを見出せずに迷っています。そればかりか、自分が拠り所を求めていることにさえ気づかずに、既成の概念や価値観を思慮もなく受け入れている場合が多いのです。自ら考えようとしない姿勢は危険です。

このような時代にあって、時流に流されることなく自主的に、また批判的に世界(自然、社会)を、そして人生を考える態度が求められています。哲学を学ぶことは、そのような時代の要請への積極的な対応のひとつであるといえます。哲学は、特定の対象を研究する個別の学問とは異なり、世界を全体として考察することにより、私たちにとって世界が持つ意味や、世界に生きる自己のあり方を探求する学問です。その二千数百年もの歴史を有する知的な営みは、真摯に問う者に必ずや何らかの答え、あるいは示唆を与えてくれるはずなのです。

ただし、哲学はまた正解のない学問でもあります。大学の授業や演習を通じて提示されるものは、自分なりの答えを見出すためのヒントや可能性です。その上に立ち、何をどう考えるのかは個人の自由です。自分の外側にあるものを無条件に受け入れるのではなく、内発的に何かを見出そうとする姿勢こそが大切なのです。他者との対話を通じて「気づき」を得ることは哲学の基本であり、それを可能にする多種多様な人間たちが早稲田大学には集まっています。
早稲田大学 文学部 哲学コース コース紹介

要約すると「学生たちよ、世界や人生について真摯に考える心構えを持ってほしい。哲学はそのようなことを探求する学問だ。早稲田大学で哲学を学ぼう」といったところだろうか。


人にむかってあるべき態度を説くときは、このように人生のあり方を語る場面が多い気がする。attitudeについて調べていると、英語の名言を引用しているサイトがあった。以下は興味深いと思った言い回しとその訳。

Your attitude, not your aptitude, determines your altitude.
生まれの能力ではなく、心構えが地位を決定づける。
(Zig Ziglar)
If you don’t like something, change it. If you can’t change it, change your attitude.
もしなにか気に入らないことがあれば、変えてみなさい。もし変えられないのならば、あなた自身の態度を変えなさい。
(Maya Angelou)

シェアバイクのときの元を取りたいという態度は心のなかで自動的に抱いたものだったけれど、物事に対する態度は意識して変えることもできる。態度を変えれば、人生を変えることもできるのだ。


3 心理学における「態度」

心の働きとしての態度は、どうやら心理学で研究されているらしい。手元の心理学の本を見てみる。

態度とは,一般に周囲のさまざまな事物・事象,あるいは個人や集団に対して,一定の行動を生じさせる働きをする心的傾向をいう.その構成成分は,①対象についての善ー悪の判断のような認知的成分,②対象についての快ー不快の感情的成分,および③対象に対する接近ー回避の傾向を生じさせる行動的成分の3つからなる.これらの成分は,たとえば,特定の対象を非好意的に見ていると,その対象に対して否定的意見をもち,不快感を抱き,その対象から遠ざかろうとするように,互いに関連し一貫性をもつ傾向がある.
(鹿取廣人ほか編集『心理学[第5版]、東京大学出版会、2015年』)

この定義だと、元を取りたいという態度は①の認知的態度だろうか。具体例がほしくなる。本だとまだいまいち納得できないので、英語版wikiを読んでみる。

態度変容という言葉はマーケティングのAIDMAモデルとかで聞いたことがあったけど、心理学でも、どうすれば相手を説得して態度を変えることができるかなど研究されていた。

検索すると英語の論文にはおもしろそうなものがたくさんあるのだが、私にはまだ手が出せない。英語力とオンラインジャーナルの壁が立ちふさがる。いつかリベンジしたい。


4 哲学における「態度」

英語版wikiのattitudeの項には、心理学におけるattitudeと哲学におけるattitudeの記事があった。早速日本語で調べてみると、哲学では大きく以下のような「態度」概念がある。

・心の哲学における命題的態度
・倫理学における道徳的態度(道徳的心構え)
・現象学における自然的態度と現象学的態度(エポケー)

カントは少し読んだことがあるので道徳的態度はなんとなく分かるが、心の哲学の命題的態度は説明を読んでもさっぱりだ。幸い日本語でも参照可能で読めそうな文献があったので読むことにしたい。


おわりに

シェアバイクの話からだいぶ遠くまできてしまった。

「態度」という言葉にこだわって、なぜか心の哲学の本を読むことになったが、「元を取りたい」という点だけ考えればこれは経済学の範疇だろうと今更気づく。

まあよいのだ。他者との対話を通じて「気づき」を得ることは哲学の基本、と早大の文章が書いていた。「他者」とは誰かの書いた文章でもよい。ゆっくりやっていきたい。

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