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つみろん号外No.044 冠動脈バイパス術前の蛋白尿は術後の腎機能障害を予測する

冠動脈バイパス術前の蛋白尿は術後の腎機能障害を予測するPreoperative Proteinuria Predicts Adverse Renal Outcomes after Coronary Artery Bypass Grafting
PMID: 21115618

【研究が行われた背景】
冠動脈バイパス術(CABG)後の急性腎障害(AKI)は重大な合併症の一つであり、その発生率は1-30%と推定されています。最も重症なAKIは腎代替療法(RRT)を必要とし、死亡率は50-60%に達します。既存のリスクスコアリングシステムでは、術前の腎機能評価に血清クレアチニンや推定糸球体濾過量(eGFR)を用いていますが、蛋白尿の影響は十分に考慮されていませんでした。この研究は、術前の蛋白尿がCABG後のAKIリスクを予測する重要な因子であるかを検討するために行われました。

【研究デザイン】
この研究は、前向きに収集されたデータベースを用いた二次解析による後ろ向きコホート研究です。

【PICO】

P (Patient):
台湾の医療センターとその2つの分院でCABGを受けた18歳以上の成人患者1052名

I (Intervention): 術前の尿蛋白検査(尿試験紙法)

C (Comparison): 蛋白尿なし vs 軽度蛋白尿 vs 重度蛋白尿

O (Outcome):
主要アウトカム:術後48時間以内のAKI発生
副次アウトカム:ICU滞在中のRRT必要性、30日全死因死亡率

【研究結果】

  • 1052名の患者のうち、183名(17.4%)がAKIを発症し、50名(4.8%)がRRTを必要としました。

  • 多変量ロジスティック回帰分析の結果、軽度蛋白尿(オッズ比1.66, 95%CI 1.09-2.52)と重度蛋白尿(オッズ比2.30, 95%CI 1.35-3.90)は、慢性腎臓病(CKD)ステージや糖尿病の有無とは独立してAKI発症のリスク因子でした。

  • 重度蛋白尿は術後RRT必要性の増加とも関連していました(オッズ比7.29, 95%CI 3.00-17.73)。

  • eGFRが保たれている患者でも、軽度の蛋白尿があるとCKDステージ3の患者と同程度のAKIリスクがありました。

【重篤な有害事象】
この研究では特定の重篤な有害事象は報告されていません。

【研究のlimitation】

  1. 蛋白尿の検出に尿試験紙法を使用しており、アルブミン/クレアチニン比(ACR)のような定量的な方法ではありません。

  2. RRT開始の決定は個々の医師に依存しており、リスク因子分析にバイアスが生じた可能性があります。

  3. AKIの診断にAKINクライテリアを使用していますが、出血、血液希釈、術前の状態がAKIの診断に影響を与える可能性があります。

【要約】
この研究では、心臓手術を受ける患者の術前の尿検査で蛋白尿が見つかった場合、手術後に腎臓の機能が悪化するリスクが高くなることがわかりました。特に、尿検査で蛋白が多く検出された患者は、腎臓の機能が大きく低下して人工透析が必要になる可能性が高いことが明らかになりました。

従来、心臓手術後の腎機能低下のリスクは、主に血液検査の結果や既存の病気(糖尿病など)から予測されていましたが、この研究結果から、簡単な尿検査でも重要な情報が得られることがわかりました。つまり、たとえ血液検査の結果が正常でも、尿に蛋白が含まれている患者さんは注意が必要だということです。

この発見は、心臓手術を受ける患者さんのケアを改善する可能性があります。例えば、術前に蛋白尿が見つかった患者さんには、より慎重な管理や予防的な治療を行うことで、手術後の腎機能低下のリスクを減らせる可能性があります。

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