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最高に心地よい風が動く天空の村(ポルトガル マルヴァオン)

常に風を感じる場所が好きです。それもできれば西風がいいです。
普通に生活をしていて地球の自転を感じることはなく、地球が回っているという知識があるから感じるだけなのはわかっています。それでも実は空気は止まっていて自分の方が動いているんじゃないか、そういう空気の流れを感じられる場所やタイミングというものが確かにあります。

ここポルトガルのマルヴァオンという村はまさにそんな場所です。ふつう西風、つまり偏西風を感じられるのは海岸沿いが多いです。しかしここは大西洋から150キロも離れています。にもかかわらず、これまで感じた中でも最高に心地いい西風がいつも吹いているのです。標高865メートルの村を風が通り抜けます。その風は潮の香りもしないし、森林の匂いもありません。排ガスとは無縁だし人工的な匂いは感じられません。あえていうなら土の匂い、それも乾いた土の匂いです。

ポルトガルとスペインの国境をスペイン側から

マルヴァオンを訪ねたのは2019年の9月です。村から車で20分も走ればスペインとの国境です。国境と言ってもボーダーコントロールの建物があるだけで誰もいません。EU圏内なので往来はもちろん自由です。日本人にとっては陸路の国境というものはなんとも言えない憧れだったり不思議な存在です。国境には何もない所も多いですが、ここはかつての税関の跡地ということもあってなかなか味わい深いです。そして国を超えて自由に往来できることのありがたさを改めて感じます。

マルヴァオンに行くきっかけは全くの偶然でした。元々の目的はリスボンとキリスト教の3大聖地の一つファティマへの再訪です。いつものように折角の機会なのでどこかを周遊しようと、グーグルマップで場所の当たりをつけながらブッキングコムの宿のリストから良さげなものを探していきます。そこで初めてマルヴァオンを知ったのです。この探し方は本当におすすめです。グーグルマップの評価は他に比べるとかなり信頼できるからです。


マルヴァオン城
城のいちばん高いところから北側を望む
村をぐるっと取り囲む城壁から、車で20分のスペインを方向を望む

マルヴァンオンは古代の城塞都市です。その歴史はとても古く、城が作られたのは1150年も前の9世紀とのことで、日本も歴史がありますが欧州ももちろんのことです。ヨーロッパの古城の中でも村全体としての保存状態がとてもいいらしい。この村の歴史的なことについてはウイキペディア(英語のみ)でどうぞ。城は内部まで有料で見学することができます。日本的に言う天守閣跡?からの眺めは絶景です。

村全体が大きな岩山になっていて、海抜は前述のように865メートルとそこそこの高さです。岩山の高さが150メートルくらいあるため、眺望やヌケ感が素晴らしい。いわゆる天然の要塞であり天空の村とも呼ばれる所以です。村=城下町であり、村全体は石を積み上げた城壁に囲まれていて、車1台がやっと通れるほどの進入路が一本しかありません。逆に言えば車でも侵入できるからアクセスは楽です。下記のブログによると路線バスやタクシーでのアクセスも十分可能なようです。

マルヴァオンは、ポルトガル南東部のアレンテージョ地方にあります。リスボンから行くには、まずはアレンテージョ地方最大の街エヴォラへ。エヴォラへはリスボンからバスで2時間弱で行けます(本数が少ないけど鉄道もあります)。その後、エヴォラからバスで1時間半でポルタレグレへ。

ポルタレグレからマルヴァオンへはバスで30~40分ほど。1日2~3本、土日は1日1本しかありません。私は日程的にどうしても土日になってしまい、時間が合わなかったので、ポルタレグレからタクシーでマルヴァオンまで行きました。タクシーで25分くらい、行きは€25.7、帰りは€32でした(金額にだいぶ差がありました笑 行きはタクシー乗り場で拾い、帰りは泊まった宿のタクシー)。

世界の美しい村案内人。
https://konny0-0.com/portugal-marvao/


村の北端にあるマルヴァオン城の入り口から
南仏やスペインのようにブーゲンビリアや向日葵が咲くような明るさと比べるとやや地味な感じがしますが、そこがむしろ日本人的には馴染みやすく落ち着くかも
ちょっとひと休みできるような、規則ではなく自然に作られた公開空地
上の写真のベンチから見える珍しい多角形の教会 Capela do Calvário
村の中心の通りは車は通れないほど狭い

人口はおよそ3000人ほど。特に産業があるわけではなく、かと言って観光化されてもいません。日本も含めて世界中にある、住民がどうやって生活しているのか(収入源とか経済的なこと)がわからないような地域です。実はここがポルトガルに15年ぶりくらいで再訪したきっかけになっている話で、これはまた機会があれば書いてみたいと思います。

村にはB&Bが10軒ほどあり、レストランやカフェは全部で7軒しかありません。3日間滞在したのでおそらくすべての飲食店を制覇したはずですが、食に関してはどこも凡庸であり多くを期待をしてはいけません。ここは決して美食の村ではないのです。そしてだからこそきっと穏やかな時間が昔からずっと流れているのでしょう。

決して自然が豊かということではなありません。そもそもここは完全に人工的な村でああり、同時に長崎の軍艦島のような廃墟でもなく、いまでも普通の人々の暮らしがある村です。

その中で2019年9月に宿泊したのがDOM DINISというB&Bです。

DOM DINIS

上の写真がエントランス。ご覧の通り決してチャーミングではありません。それどころかトリップアドバイザーやブッキングコムの高評価を壁に貼り付けている品の無さに、これは選択を誤ったかもと思いました。


ところがそれは完全なる杞憂に終わります。それどころかこれまで宿泊した宿の中でも確実にベスト10入りです。夕陽と風の心地よさはノースショアのここを抑えてダントツの1位に君臨することとなったのです。

全宿泊者に開放されている西側のテラス。左に少し見えているのはジャグジー



テラスに泡を持ち込んで至福の時間を


写真では全く伝わらないことがあります。
それは風です。マルヴァオンは地球が動いていることがわかるのです。一定の方向から、一定の強さとリズムで空気が動いているのがわかります。海辺の風ではどうしてもこういう一定感はありません。写真の腕がよければこれを伝えられるのかもしれませんが、自分にはそれができません。

夕陽が綺麗と称されるところはたくさんあり、もちろんここも素晴らしいです。しかし夕陽の美しさを遥かに凌ぐ数が吹く場所なのです。

そしてカップルは当然こういうことに




マルヴァオンへ日帰りで行くことはおすすめしません。ここは観光客がいなくなった夕刻以降のマジックアワーこそが最高の場所となるからです。夏の日没時刻は20時過ぎ、冬は17時過ぎです。天気のこともあるのでできれば2泊以上がいいです。

村にはマルヴァオン城の他に古い教会がありますが、ここでは何もしないを楽しむのが一番おすすめです。車があれば昼間はスペイン側に入ったり、周辺には地図にはない古城の跡など、惹きつけられる場所がたくさんあります。

宿はやはりDOM DINISを強くおすすめします。この村は夕陽が全てと言ってもいいので宿は必ず村の西側の宿を選ぶことが重要です。ここだけは絶対に妥協してはいけません。中心部は景色がよくないですし、東側は朝日は見られますが風が背中から吹くのでこの村の魅力が半減してしまうと思うからです。

対象となる宿はAirbnbも含めて全部で4軒ほどありますが、部屋から西側の景色が見られるところはここともう1軒、すぐ隣のCasa da Árvore Marvãoだけです。宿は全てB&Bでいわゆるホテルはありません。この村はラグジュアリーさを求めるものではないので誤解なきように。

ストリートビューでこれらの宿の西側の、人しか通れない細い小路をちゃんとトレースでききます。下記をクリックすると雰囲気は十分わかると思います。DOM DINISの中でもできれば西向きのテラスが付いている部屋がいいです。執筆時の料金は朝食込みで85EURというのは格安と言ってもいいと思います。

マルヴァオン村には遠くない将来、必ず再訪することになると思います。

Dom Dinis Marvão Hotelのwebよりテラス付きの部屋

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