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吸い込まれるほどに深淵な沖縄ブルー 大嶺工房のやちむん (沖縄 読谷村)

それは見事なまでの一目惚れでした。

10年くらい前の何度目かの沖縄に行く際に、事前にやちむんに関して下調べ物をしていたときにネットで見つけて一目惚れしたのがこのブルーの器です。

私は陶磁器に関しての知見もうんちくもありません。あるのは好きか嫌いかだけです。もちろん圧倒的多数の器はどちらでもないに分類されます。

大嶺さんのやちむんが創り出すブルーは、深みが他のブルーとはまったく異なります。ペルシアブルーというのには正直憚られる部分もあります。言うならこれは沖縄ブルーです。

太陽の光を浴びるとこのブルーの表面は、小さな小さな粒がキラキラと輝くのです。やちむんは沖縄のものですから沖縄の海に太陽がキラキラと反射している光景のようにも感じます。

小ぶりの平皿は17センチほど
じっと見ていると吸い込まれます
日を浴びると別の色、緑っぽい色が見えてきます。キラキラと輝く白い点も。沖縄の海と同じです



茶碗
平皿と違って茶碗には高低差があるので、同じ顔料や釉薬を使っていても見え方(景色といいますよね)がまた違ったものになります




「やちむん」とは沖縄の言葉で「焼き(やち)物(むん)」のことだそうです。

大嶺工房は沖縄本島読谷村のやちむんの里の北の外れにあります。このやちむんの里のシンボルともいうべきは、1990年に作られた「読谷山焼北窯」です。斜面をうまく利用して13の燃成室(房と呼ぶのだそうです)を並べた大きな登り窯です。下の房で薪を燃やすと、上に向かって順に全体へと炎と熱が登って行きます。焼き上がるまでには3日を要するとのことです。

器は使って初めて価値があると思っていますが、この鮮烈なブルーに似合うものというのは食べ物側にもなかなかのパワーが求められます。日が当たる場所で真っ赤なトマトとか、緑のキュウリ、黄色いカボチャが乗っていたらどんなに美しいだろうと思います。

繰り返しますが、器は「使ってなんぼ」であるの思うのですが、実はこの器たちは食事での普段使いはできていません。この深い青にすっかり魅せられてしまっていて、仕事の作業デスクに置いて煮詰まった時にニヤニヤしながら眺めていたりします。

するとネット上には私と同じことを感じている方がいました。

“ペルシャブルー”とも呼ばれる気品のある青色は、よく見ると、緑色や黄色も含んでいて、とても奥深い。器全体に広がる色のグラデーションやにじみの感じは、晴れた日のきれいな海そのもので、眺めていると大好きな沖縄の風景を思い出して、心が落ち着く。整いすぎていない丸い形や、裏側にある焦げた焼きムラなんかも、おおらかな味わいで、とても気に入っている。

MY FAVARIT PATINAより


どうやら私は本当にやちむんが好きなようです。家にはお気に入りのやちむんが何点かあります。というより食器の半分以上がやちむんです。その中には宮古島のビストロでやはり一目惚れをしてしまい、作家さんを教えてもらって大宜味村にある工房までわざわざ出かけて、半年以上待って特注で焼いてもらった皿もあります。ご飯茶碗、焼き魚用の長皿、泡盛用のカラカラとぐい呑み、花瓶もやちむんです。



陶磁器は形作った粘土が窯の炎に焼かれることで生まれます。焼き物は炎に焼かれたものです。そして焼成の結果、釉薬・胎土が炎によって変化したさまを「景色」と呼びます。開運!なんでも鑑定団で中島誠之介先生がよく仰っている「いい景色ですねえ」と言っているあれです。景色という言い方は茶道の裏千家さんの仕事をさせていただいたときにはじめて知った表現です。

おそらくどれだけ経験を積んだとしても、この不確定な要素を自在に操ることはかなり困難なことなのでしょう。かと言ってここにITやAIのようなデジタルテクノロジーを持ち込むというのは、獺祭ならともかく工芸品の場合には何か違う感じがしてしまうのです。


私がこの器を求めて大嶺工房に伺ったのは一目惚れから随分と時間が経過した2021年の春だったと思います。実は訪問はこれが2度目で、最初の時は購入には至りませんでした。まだコロナが予断を許さない状況でしたが、その頃には沖縄に行くことに制約はありませんでした。ですが工房には自由に入ることができないようだったので、すぐ近くから電話をしてみました。すると拍子抜けするほど快く受け入れて入れてくださいました。さらにその日は運が良いことに、大嶺實清さんも工房に併設されているギャラリーにいらっしゃいました。

たくさんの器やシーサーを時間をかけて拝見して、特に気に入った上の写真の2点に絞り込みました。ブルー以外のものもたくさんあって、どれも素敵なのですが、この日は完全に沖縄ブルーが目的でした。

30分以上もあれこれ見たり、実際に手に取ったり、挙げ句の果てにはお許しを頂いて日の当たる場所に持っていって、光の変化による色の変化をじっくりと確認しました。大嶺實清さんはその様子をずっとご覧になっていて、「そうそう、日に当たるとまたぜんぜん変わるでしょう」と仰っていました。

そして嬉しいことに「お茶でも飲んで行きなさい」と、コーヒーを用意してくださいました。そんな私とずいぶんと長い時間お話をしてくださいました。とにかくびっくりするほど気さくな方で、自然体で創作を続けておられることが伝わってくるとてもよい時間でした。

帰り際に大嶺さんから「これは縁起物だよ」と、元気玉と呼んでおられる、窯の状況を確認するためのゴルフボール大の試し焼き用の玉を2ついただきました。決して実用性があるものではありませんが、釉薬の状況や軽く玉が破裂することで温度などの確認するためのものだそうです。元気玉はその名の通り、炎のパワーが凝縮している感じがします。



この北窯で創作を続けている陶芸家の松田米司さんのやちむんに向き合う姿を、「あめつちの日々」という映画で見ることができます。私の友人の川瀬美香さんの監督作品です。すでに劇場公開は終了していますが、不定期で各地で上映会があります。予告編の埋め込みが出来ないのでこちらにリンクを貼っておきます。


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