楠木 建(2010)『ストーリーとしての競争戦略』ストーリーの戦略論の考え方ポジショニング論と組織能力論の相互補完性を重視するポジショニング論
競争戦略論
楠木 建(2010)『ストーリーとしての競争戦略』
ストーリーの戦略論の考え方
ポジショニング論と組織能力論の相互補完性を重視する
ポジショニング論
組織能力論
業界の競争構造
SP(Strategic Positioning)
OC(OrganizationalCapability)
戦略ストーリー
持続的競争優位
ストーリーの戦略論における業界の競争構造の評価
ほとんどの業界において星の数(魅力度)は時間とともに減っていくのが普通で、増えることはあまりない
理由①「競争」
多くの企業にとって魅力的な業界であれば、時間とともに立て込んできて、だんだん住みにくくなってくる
理由②「マクロレベルの競争環境の変化」
競争の圧力を強め、業界の魅力度を低下させる方向に作用する
インターネットに代表されるITのインパクト
Eコマース(電子商取引)の急速な普及
① 参入障壁の低下Eコマースは実際の店舗を持たなくても済むので参入障壁が飛躍的に低くなる
② サプライヤーの交渉力の高まり
サプライヤーはインターネットの出現で、小売業者を通さずに直接消費者に商品を売る可能性を手に入れた
③ 買い手の交渉力の高まり
買い手である顧客も(価格.comなどの利用により)商品を(特に価格に関して)これまでよりも格段に広い範囲で比較検討できるようになった
④ 業界内部の競争の激化新規参入が容易になり、差別化が難しくなった
戦略(ポジショニング)の必要性「インターネットという新しい技術の登場は、業界の競争構造をより利益の出にくい方向へと駆動することになった」
(戦略ポジショニング)の戦略「何をやり、何をやらないか」をはっきりさせれば、他社との違いを持続させることができる
SPの代表例デルの「ダイレクトモデル」
顧客からのオーダーを受け、その要望に合わせてカスタマイズした製品(PC)を流通/小売業者を介さずに直接販売するビジネスモデル
デルのSPの戦略
「最先端の技術を追いかけず、コモディティになった製品分野しか手を出さない」
「見込み生産をしない」
「外部のチャネルを使わない」
OC(組織能力)の戦略
競争に勝つためには、他社が簡単にはまねできず、市場でも容易には買えない独自の強み(OC)を持とう」という考え方
OC戦略の焦点
「時間をかけても、容易にはまねできない組織能力(資源と組織ルーティン)を構築していくこと」
競争優位の持続可能性
「厳しい競争構造に置かれた業界であっても、戦略(SP or OC)で差別化(違い)を構築できれば、持続的競争優位を実現できる」
SPとOCの戦略
戦略ストーリーの5C
実際のビジネス場面におけるストーリー
結⇒起⇒承⇒転
戦略ストーリーの評価基準
ストーリーの一貫性①
ストーリーの強さ(robustness)
ストーリーを構成する要素間の因果関係が強いこと
例)「量産すればコストが下がる」
① ストーリーの太さ(scope)
② ストーリーの長さ(expandability)
ストーリーとしての競争戦略は「終わりから考える」
(1)競争優位ストーリーの「結」
利益創出の最終的論理
優れた戦略ストーリーのエンディングはハッピーエンド(競争優位)
① コスト優位
「さまざまな無駄をなくしてコストを他社よりも低くすれば利益が出る」
② WTP優位「顧客がより多く支払いたくなる(Willingness To Pay)状態をつくる」
③ ニッチ集中
「競争上の土俵を特定のセグメント に狭く絞り、事実上競争がないような状態をつくる」(2)コンセプト:ストーリーの「起」本質的な顧客価値の定義
「小規模事業所の購買代行と翌日配送」と「空飛ぶバス」
「本当のところ誰に何を売るのか」という問いに対する答えを突き詰めることでコンセプトは生まれる
(3)構成要素:ストーリーの「承」
競合他社との違い
SP(戦略ポジショニング)
「何をやり、何をやらないか」を決めたもの
OC(組織能力)
「資源と組織ルーティン」から成る自社の独自能力
(4)クリティカル・コアストーリーの「転」
独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
クリティカル・コアの二つの条件
1)「他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている」こと
2)「一見して非合理に見える」こと
事例分析スターバックスの戦略ストーリー
スターバックスの戦略ストーリー
スターバックスの戦略ストーリー
競争優位(結)⇒WTPの増大
「他社と競争しつつも、より大きなWTPを獲得することがスターバックスの意図した競争優位」
スターバックスの戦略ストーリー
コンセプト(起)⇒「第三の場所」(third place)
「家庭でも職場でもない第三の場所(日常的な避難場所)を提供」
スターバックスの戦略ストーリー
構成要素(承)
構成要素①店舗の雰囲気
「ゆっくりとリラックスできる雰囲気の店舗」
構成要素②出店と立地
一等地への集中出店(クラスタリング)
構成要素③スタッフ
「バリスタ」人材の育成構成要素④メニュー
「アメリカン以外のコーヒーを中心に構成し、フードには力を入れず」
スターバックスの戦略ストーリークリティカル・コア(転)「直営方式による店舗運営」
フランチャイズ方式の合理性
① 低コスト、②低リスク、③深い知識、④高いモチベーション
スタバの戦略ストーリーにおける直営方式の重要性
スタバの直営方式
直営方式から残り四つの要素に向かっている矢印
① 「メニュー」に伸びる矢印
「メニュー」にかかわる要素はフランチャイズ方式でも実行可能
② 「スタッフ」とつながる矢印
フランチャイズ方式では従業員(基本的にパートタイマー)がいつ辞めてしまうかわからないことから人材教育は難しい(コストを本部が一括して負担してくれればある程度までバリスタの育成は可能)
③ 「出店と立地」につながる矢印フランチャイズ方式では、プレミアム立地は難しく、店舗のクラスタリングも考えにくい
しかしこれらは「第三の場所」実現にとって重要な意味をもつ
③ 「店舗の雰囲気」につながる矢印
フランチャイズ方式ではお客さんをできるだけ回転させようとする
⇩
「第三の場所」の実現が難しくなる
クリティカル・コアとしての直営方式
クリティカル・コア(直営方式)とコンセプト(第三の場所)が縦に並んだ4つの構成要素をがっちりと挟んでおり、これがスターバックスの戦略ストーリーを太くし、一貫性を確固たるものにしている(図参照)
スタバの強く太いストーリー
一見して非合理な直営方式
直営方式(クリティカル・コア)の合理性は戦略ストーリー全体の中に置いてみなければ理解できない
スターバックスの戦略ストーリーが持続的競争優位を持ちえた理由
「動機の不在」と「意識的な模倣の忌避」
直営方式
↓
プレミアム立地と集中出店
↓
ゆったりした店内の雰囲気
↓
くつろげる第三の場所
↓
多くの顧客がくつろぎに来店
↓
WTP競争優位
↓
さらに多くの顧客がくつろぎに来る
↓
プレミアム立地と集中出店
↓
直営方式
↓
ゆったりした店舗の雰囲気
↓
くつろげる第三の場所
↓
さらに多くの顧客がくつろぎに来る
↓
持続的競争優位
スタバの長いストーリースタバの戦略ストーリーの一貫性
「強く」「太く」「長い」ストーリー
優れた戦略ストーリーで競争優位の持続は可能なのか?
ダイナミック能力論にしたがえば、環境の変化(ハイパーコンペティション)により、自社に競争優位をもたらしたビジネスモデルと組織能力は有効に機能しなくなってしまう。だから、新たな組織能力とビジネスモデルが必要になる。戦略ストーリーについても、同じことがいえる。
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