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少し先に繋がる今の話

先日の日記からしばらく時間が経ったが、相変わらず件(くだん)の感染症は全国へ広がり続け、随分と世間の様子も変わってしまったように思う。

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その変化とは良くも悪くも、あらゆる人々の働き方、遊び方、生き方、システム、価値観さえ、半ば強制的に社会全体がバージョンチェンジを要求されたような状況とも言える。

それでも、今までと変わらず仕事に行き、多少の不便は感じながらも今までと変わらず生活をする人たちもいる。

その生活がさほど変わらない人たちの一部に僕らネオポゴタウンのメンバーも含まれている。
とは言っても、現在休業になった自営業者にとって、経済的影響は計り知れない。
店を休んでも、家賃や生活費は払い続けないといけないし、ネオポゴタウンは自分らのズボラも相まって条件が合わず休業補償も1円も入ってこないので、まあどう考えてもピンチ以外の言葉はない。僕も個人的に請け負っていたデザイン依頼も全て飛んだし、4月分の店の仕入れをいっぺんにやってたので、支払額がとんでもなくマイナス状態である。

でもまあ、問題は金がないだけである。なんとかご飯は食べられているし、今のところは、「仕事をしないのが正義」という、かつてない価値観を謳歌しているので問題ない。
家賃や光熱費が払えなくてもクレジットカード代金が払えなくても、「そんなの仕方ない」という事が認められているのだ。すごい!なんと新鮮な事だろうか。

まあ、このタイミングでの店の休業は予定より随分前倒しになりはしたが、元から店の改装を考えていた僕らには丁度よかったとも言えるし、こんなにお金がなくなったのも久しぶりで、20代の頃には何度も乗り越えてきた壁なので、比較的この状況にも慣れているというのも根底にはあるだろう。
個人的には、こっからどうやって生きていくか考えるのはまあまあ楽しい。

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ただ、僕と同じ状況や、より悪い状況になってる人に対して「きみも前向きにいきなよ」とか、「自己責任なんだから仕方ない」みたいな視野の狭い事は絶対言いたくないし、自分自身も他人から余計なことは言われたくない。

この状況を深刻にとらえ、悩んでいる人は全くおかしくない。
それなのに、他人の不遇や不幸に対して、寄り添うでもなく考えるでもなく、ポジティブさだけで乗り切れると思ってるなら本当におめでたすぎるだろう。
自己責任論だってそうだ。他者に対して寛容になれず突き放すにしても、自己責任という言葉は使うべきではない。自己責任だと律して良いのは文字通り「自分だけ」なのだ。他人が押し付けるものではない。

なんにせよ、自分の"正しさ"の基準だけで人を測ってはいけない。
他人は自分の想像力の外に住んでると考えたいものである。
自戒も込めて。

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今の社会は目に見えない病原菌によって生まれた社会不安に比例して経済活動も低迷し、今後、家も職も失う人たちが増えてくるだろう。

現在、ウイルスの拡散を防ぐためにStay Home(家に居よう)という気運が高まっている。
政府の初動からの対応は感染拡大を抑え込むにはことごとくうまくいかず、現状では、これ以上の感染を防ぐにはもう"人と会わない"という選択肢しか残されなくなってしまったからだ。
きっと多くの人が、誰かが病気によって苦しんだり、死んだりする人が少しでも増えないようにと願いながら自粛生活をおくっているだろう。その一方で、目に見えないストレスが人々に鬱積していることが分かる。

感染拡大が広がるにつれ、あらゆることが自粛となり、職を失った夫婦が口論の末、家庭内暴力によって人が死に、家もなくなった末に金銭目的で他人を刺した人のニュースもあった。
これからはもっともっと事件や事故も増えていくだろう。

感染者を減らす事は絶対に大事である。ただ、人間は病気以外でも死ぬ。
しかも病気以外の死は、別のおぞましさがある。僕が最も恐れている事は、この社会状況の中、感染以外の原因で死ぬ人や、苦しむ人が増続ける事だ。それを一人でも減らすには何をするべきなのかずっと考えていた。

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今、多くのライブスペースが休業せざるを得なくなっている中、それぞれのスペースは休業中の維持費を捻出するために、インターネットを使った配信ライブを行なったり、Tシャツやドリンク券を通販をしたり、クラウドファディングで支援を募ったりしている。

沖縄県内でもCyber Boxというライブハウスが主体となって県内各地のライブハウスや音楽スタジオの共同支援Tシャツを作り、特設サイトを作った。
このサイトでは、支援したいスペースの名前が書かれたTシャツを買うと、原価を差し引いた売り上げの半額が支援したスペースへ、残り半額が全スペースへ等分して支払われる事になっている。
実際、Tシャツの売り上げはかなり好調らしく、行政からの支援を頼りにするしかなかったスペースはものすごく助かっているに違いない。
ただ、僕らNEO POGOTOWNも参加しないかと誘われていたのだが、メンバーで話し合った末に断ることにした。

この先、どれだけの自粛期間が続くかも分からない状況では、ネオポゴタウンも金策を考えなければいけなかったし、このサイバーボックス主導のアクションはなんのリスクもない上に、ありがたすぎる誘いでしかなかったのだが、参加するスペースが増えれば増えた分、各会場の分配金が減る事になる。
みんなが生き延びる事を考えたら、その分配金は少しでも多くそれぞれにいき渡らせた方がいい。そのため、普段から道具や技術を揃え出来る事の多い僕らは、自律して動く必要があると判断した。

実際、行政支援も無く、善意的なコミュニティに参加する事もなく、暗闇での綱渡りをするようなことは、自分自身でもあまり褒められたものとは思っていない。
ただ、NEO POGOTOWNのメンバーみんなでその選択をしたのかは、おこがましいかもしれないが、僕らは最初から自分たち以外も含めた全員の利益を考えていたからのように思う。

別にこれは聖人君子のような慈愛の心があってそうしたとかではなく、ただでさえ普段から多くの人たちに支えられて生活が成り立っているという自覚が強かったからに他ならない。
みんなの生活が厳しくなっているこんな時こそ絶対にサポートしてくれたその人の先に繋がる何かがないと自分たちが納得できなかったのだ。
そして、今できるベストは、自身らの経験や知識をウタや文字にして伝えることだと思い立った。

それから数日の間で作曲をしたり文章や漫画を書いたりして、僕はネオポゴタウンから徒歩5分の家にも帰れない徹夜続きの日々を過ごした。

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そしてついにネオポゴタウン発行で【unkn0wn】という本を出す。
読み方はアンノウン。"正体不明、未知"という意味。

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人は自分が分からないものには恐怖し、身構え、時に拒絶する。
今まさに、そのわからないという事実を世界中の人たちが突きつけられることになった。
これから、無知な僕らは未知という海の中で泳ぎ方を見つけなければいけない。

それは決して簡単な事ではない。人は自分にとって都合の良い情報ばかりを無意識的に取り入れてしまうし、それが間違いだと分かったとしても認めたくない場合もある。

僕はこの本で、自分の知っている事だけの話ではなく、"何も分かっていなかった自分"、"今まさに思考中の自分"さえもさらけ出すようにした。
僕のこれまでの最悪にだらしない職歴を公開したり、廃墟を不法占拠しときながら合法的スペースにするためにはどうしたら良いのかなど真剣に考えたり、次のシーンも考えずにその場の思いつきでマンガを描き進めたり…
おかげで、人によっては呆れられたり、ガッカリされたりもするかもしれない。(それと対比するようにヤマちゃんの文章はユーモアがあってスマートなので、とてもバランスが良いのだが。)

それでも、なんとなく小まめに生活のアップデートや再起動を繰り返しつつ、時にハッキングをしたりクラッシュしたりしながらも楽しく生きてこれた僕らの話は、これからの時代に向けた泳ぎ方ではないかもしれないが、でも、きっと誰かの息継ぎの参考にはなるかもしれない。
そこから先は、どうか自分なりの泳ぎ方を見つけてくれたら幸いである。



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それでは、みなさん。心身ともにどうかご健康であれ。
STAY FREE (自由のままに)


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