マガジンのカバー画像

磯森照美のエッセイ集

111
投稿したエッセイをまとめています。
運営しているクリエイター

#仕事

エッセイ | いつまでたっても子ども

「そうだ!」という言葉の後に手をパンとたたく音が聞こえる。音の方向を見れば母親と目が合い、奇遇だねとでも言いそうな顔でこちらを見ている。もしかしたらハメられたのかもしれない。 「そろそろ干している布団をしまおうか。よろしくね」そう言って私に仕事を託す。音がした方向なんて見なければ良かったと後悔をしても遅いし、私が母を見なくても別の理由で託してきたはずだ。 当時中学生だった私が母親にかなうはずもないのだから、返事をするよりも先にため息をはき出して布団をしまいに行く。 私の

エッセイ | 赤信号の徳

しくじった。今日はどこの会社も忘年会のようで、タクシーは西にある飲み屋街の方へ行ってしまっている。私のいるオフィス街へ走ってくるタクシーなんて1台もいないことが、アプリの画面上にありありと映し出されていた。 忘年会なんて羨ましいなと思いながら、今日も私は自分の暮らすマンションがある方角へと歩みを進める。 工事用車両や大型トラックが通り過ぎていくことはあるが、見事なほど1台もタクシーは通らない。 大きな交差点で立ち止まる。進行方向は赤表示だが目の前を通過していく車はいない

エッセイ | 光と影の話ではない

私は、世の中には「表の世界」と「裏の世界」があると思っている。「裏の世界」なんていうと犯罪が横行して危ない世界を想像してしまうが、そうではない。 「日なたの世界」と「日かげの世界」という方があっているかもしれない。 生活をしていく中で普段から目にするモノは「日なたの世界」のモノだと考えている。意識をしなければ気付かないモノは「日かげの世界」のモノだ。 「日なたの世界」のモノは人々からありがたがられ、感謝される。それがソフトであろうとサービスであろうと変わらない。ソフトを

エッセイ | 真面目な見た目で損した

「あの人は真面目な人だから。責任感のある人だから」そんなことを言われて生きてきた。正直なところ、私はあなたが思うような真面目な人ではない。だけど真面目に見られる。それはなぜか。目立つこともなく平凡以下の見た目をしているからだ。 真面目な人なんてこの世の中にはたくさんいるだろう。そもそも、人間どこかしら真面目だろう。何かに対しては真面目なはずだ。あいさつを誰にでもする人は「あいさつをする」という行為に対して真面目だ。スポーツが得意な人は練習をすることに対して真面目で、勉強がで

エッセイ | 笑顔は大切。たぶん真面目に働くよりも大切

私は基本的に笑顔を大切にして生活してきていました。就職をするまでは。 私は就職してすぐの頃は笑顔で先輩や上司とも話をしていました。 初めて経験することが楽しかったし、周りの人と話をするのも好きでした。 ただ、仕事が忙しくなるにつれて笑うことが少なくなっていきました。 入社当時から私を知る人からは『あまり笑わなくなった』と言われ、出会って日が浅い人からは『冷たい人』と思われるようになりました。 当の私は笑わなくなったことによる弊害を感じることはなく、笑うことで使用するエネル