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ミハイル・ヴルーベリの大回顧展がトレチャコフ美術館にて65年ぶりに開催

 「異端の天才」と謳われたロシアの画家ミハイル・ヴルーベリの特別展が今秋、モスクワのトレチャコフ美術館(新館)にて開催される。1956年から65年ぶりとなるヴルーベリの大回顧展であり、ペテルブルクのロシア美術館をはじめ、ロシア国内外14の美術館から300点を越える作品が集結する。

 ミハイル・ヴルーベリ(1856〜1910)は「デーモンの画家」とも呼ばる。レールモントフの詩集『デーモン(悪魔)』をモチーフに、生涯を通してそのデーモンの姿を描き続けたことから、その呼び名が付いた。

 ヴルーベリの絵画は、当時ロシアで主流だった移動展派の写実主義や、ロシアにも大きな影響を及ぼした印象派とも大きく異なる。ビザンティン美術のモザイク画などの影響や19世紀末に広まった象徴主義との近似性こそ見られるものの、その独特すぎる画風はヴルーベリ固有のものだろう。また自身の絵画の金銭的価値にもそれほど興味がなく、いわゆる「売れる絵」を描くこともなかった。それゆえに経済的困窮に喘ぐことが多々あったが、創造的野心に溢れ、いかなる時も筆を握り続けていた。

 代表作である『デーモン』連作はレールモントフの詩より着想を得たもので、作中に登場する人間の女性タマーラに禁じられた恋心を抱く悪魔の姿をイメージしている。

 ヴルーベリの『鎮座するデーモン』を実際に目にしてみると、キリスト教で忌むべき存在とされる悪魔のような様相ではなく、ナイーヴで優しげな青年の姿に見える。色調こそ暗いが、目を凝らしてじっくりと細部を眺めてみると、デーモンの下半身や周囲の花々を彩る色のブロックがステンドグラスや宝石のような輝きを帯びているのがわかるだろう。そしてヴルーベリは『飛翔するデーモン』と『斃れるデーモン』を描き、落ちゆくデーモンの姿に画家自身の運命を重ね合わせていた。

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鎮座するデーモン 1890年 国立トレチャコフ美術館

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斃れるデーモン 1902年 国立トレチャコフ美術館

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白鳥の王女 1900年 トレチャコフ美術館

 今回の特別展は新館クリムィスキー・ヴァルの建物の3フロアを使い、謎に包まれた画家の軌跡をじっくりと辿りながら、その作品と思想に迫っていく。詩集『デーモン』の挿絵や『預言者』の断片など、各美術館に散らばる作品をひとつにまとめ、画家ヴルーベリの全容を明らかにしていく。

大きな見所は、『デーモン』シリーズの三作品(『鎮座するデーモン』『斃れるデーモン』『飛翔するデーモン』)が遂にひとつの展示室に集うところだろう。これは65年間の間で実現できなかった試みだ。

65年ぶりの開催となるヴルーベリの大回顧展。今回を見逃したら次はいつになるやら…。モスクワ在住の方、またはロシアへ渡航予定のある方には是非ともチェックしていただきたい。

【展覧会概要】
「ミハイル・ヴルーベリ」展
会期:2021年11月3日〜2022年3月8日
会場:国立トレチャコフ美術館(新館)URL:https://www.tretyakovgallery.ru/exhibitions/o/mikhail-vrubel/


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