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【ロシア絵画偉人伝#1】この人を知らなければロシア絵画はまず語れない。巨匠イリヤ・レーピン。

 ロシア絵画を知らない人のために、ロシアの画家を紹介する「ロシア絵画偉人伝」第一回はイリヤ・レーピンです。

イリヤ・レーピンとは?

 日本ではあまり馴染みがありませんが、イリヤ・レーピン(1844〜1930)といえばロシアで知らない人がいないほど有名な画家です。

クラシック音楽におけるチャイコフスキーぐらい、ロシアの絵画史では重要な立ち位置にいます。

 レーピンは1844年にハリコフ(ウクライナ語ではハルキウ)の小さな村に生まれます。13歳で絵を学び始め、ペテルブルク美術アカデミーに入学。

アカデミーでは他の追随を許さぬほどの才能を発揮し、卒業コンクールでは一等賞の大金メダルを獲得するなど、画家のキャリアとしては最高のスタートを切っています。

 1873年に大作《ヴォルガの舟曳き》を完成させます。ヴォルガ河畔で大きな船を身体を酷使しながら曳く人々の姿を、ありのままに描いたとても大きな絵です。

本作が発表された当初は、そのテーマ性ゆえに賛否両論が巻き起こり、特に社会的な主題を嫌うアカデミーからは強い批難を集めます。

しかしその圧倒的な表現力と画力は疑いようがなく、レーピンは当時のロシアをリードする新進気鋭の画家として認められるようになります。

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『ヴォルガの舟曳き』(1870〜1873年)

レーピンは1873年にパリへと旅立ち、そこで新しい芸術と出会います。

当時フランスで異彩を放っていたマネや印象派の絵画に触れて、大きな関心を寄せるようになります。

陽光や空気をキャンバス上で表現する印象派の技法に影響され、レーピンの絵のスタイルは変化していきます。

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『芝生のベンチで』(1876年)

 ロシア、ペテルブルクに戻ったレーピンは「移動派」(アカデミーから離れ自由な作品制作を目指したグループ。移動式の展覧会を各地で行った)に参加。

精力的に画業に勤しみ、《クールクス県の復活大祭の十字行》、《1581年11月16日のイヴァン雷帝とその息子イヴァン》や《トルコのスルタンに手紙を書くザポロージャのコサック》といった数々の名画をこの世に送り出し、1880年代にはレーピンはロシア絵画の画壇を代表するほどになります。

 レーピンの肖像画は人物の感情だけでなく、今まで歩んできた人生も想像させますし、歴史画は当時の事件をまるで目撃者になったかのようなリアリティで描き出しています。

 余談ながら私は2012年に渋谷Bunkamuraで開催されたレーピン展を3回くらいリピートしたのですが、レーピンの作品を前にするたびに何度も動けなくなっていました。とにかく、絵から放たれるエネルギーの量が凄まじい。人物は体温を感じるくらい活き活きとしているし、今にも動き出しそうな勢いなんですよね。

 

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『1581年11月16日のイヴァン雷帝とその息子イヴァン』(1885)

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『休息』(1882年)


 1890年代からは美術アカデミーで教鞭を執るようになり、教育者としても大きな才能を遺憾無く発揮します。

生徒の自由な創作を支援し、才能を最大限に伸ばそうと熱心に指導を続けました。その名声と優れた教育指導に惹かれて、多くの画学生がレーピンに師事するために殺到したとか。

レーピン自身は謙虚で老獪さなどはまるでなく、才能がある芸術家の作品を見ればベタ褒めしてしまうほど。

レーピンは巨匠と呼ばれるようになっても権威を振りかざすことなく、新しい芸術の発展に力を尽くしました。

 1907年まで美術アカデミーに勤め、ワレンチン・セローフ、フィリップ・マリャービン、ニコライ・フェーシンなど、20世紀初頭に活躍したロシアの芸術家の多くがレーピンの弟子だったのです。

 晩年はペテルブルクを離れて、ペナーチ壮という所にアトリエを構えます。老いを感じながらも筆をとりを続け、創作に明け暮れる日々を送ります。そして1930年に没するまで、その身を芸術に捧げました。


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1909年に撮影されたレーピン
穏やかな表情とお髭がキュート(出典:ウィキペディア・コモンズ)


まとめ

◆イリヤ・レーピンはロシア絵画史でもっとも重要な人物
◆類稀な人物表現と観察眼で人の本来の姿を描いた
◆教育者としてロシア美術の発展に大きく貢献した


読書案内

レーピンについてもっと知りたい人は以下の書籍がおすすめです。レーピンをはじめ、19世紀のロシア絵画の主要な画家が簡潔に紹介されていますので、とても勉強になります。


以上、ロシア絵画偉人伝でした。
本シリーズはロシア絵画をより日本に広めるべく、隔週を目標に更新を頑張ってまいりますので、ぜひとも応援をよろしくお願いします。


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