堕転使バードマンズ
黒く無機質なロストシティの路上、滑走する1台の武装トラックを、その上空から一人の男が見下ろしていた。白い翼を生やしている。
「こちら咬羅天。目標を補足」
「OK。突っ込んで、鳥人間」
「……了解」
咬羅天は通信を切り、降下を開始した。翼を折りたたみ、ほぼ垂直に堕ちていく。対象の移動を計算した落下であり、狙い通りトラック屋上への着地を果たす。
すると一部の板が上下反転し、内側に潜んでいた者が姿を現した。頭にサイの大角をバイオインプラントした者……角人間である。
「鳥人間がウチのトラックに何のようだ?コイツは止まり木じゃねェぞ」
「……」
咬羅天は侮蔑の目で角人間を睨んだ。
「だんまり決め込んでンじゃねぇよ!」
角人間が突進!疾走する車上にも関わらず正確な走り。だが、咬羅天は1ステップで突撃を回避した。更に勢いのまま、角人間の背に裏拳を叩き込む。
「ガッ!」
角人間はトラックから落下、路上を転がり対向車に轢殺された。咬羅天はすぐに周囲警戒したが、他に襲ってくるものはいない。
咬羅天は警戒を解き……ため息をついた。
(下界の戦士はこの程度か……)
咬羅天は天界に務める天使であった。本来は地上人の崇拝と畏怖の対象――だが、下界の技術が発展するにつれ人々の信心は失われ、天使は次々と追放された。咬羅天はその一人だった。
今では鳥人間と偽り、下賤なバウンサーに落ちぶれた。今回の任務は、トラックに積まれた兵器の奪取。元天使にふさわしくない仕事だが、明日を食い繋ぐことができる。
咬羅天が屋上に孔を開けようとした、その時であった。
「!?」
反射的に咬羅天が後避した直後、そこに何かが墜落した。見ると、堕ちたのは銀髪の男で、翼を生やしていた……咬羅天と異なる、黒い翼を。
「龍死天……?」
それは、天界にいた頃の好敵手……悪魔の男であった。
【続く】