現在あるオタク・9 えたーにてぃー

 ハートウォーミングな「Vシネ仮面ライダーハート」が終了し、そのまま引き継ぐ形で「仮面ライダーマッハ」が始まり、開始3秒。
 私たち詩島剛ファンの期待と恐れはものの見事に的中した。
 ファーストシーンから、白いシャツにカーキのコットンパンツにオリーブ色のジャケットという地味ないでたちで、眉根を潜めた真面目な顔つきで『普通に』歩いてくる詩島剛からスタートだ。
 どうした剛。お前はそんなキャラではなかったぞ。白いパーカーに真っ赤なTシャツで、なんならバクテンか(中の人が)得意な逆立ちをしながら歩いてくるキャラではなかったか。
 衣装か、衣装が君を変えさせたんだな。
 3秒でこれだけぶわーっと脳の中を走る印象。それだけファンにとってはショッキングなファーストシーンだったのである。
 地味な格好で歩いているのは、自分を陥れたロイミュードの協力者、西堀令子の初公判に臨むため。
 そして「小説仮面ライダーマッハ」でしか描かれなかった、ドライブ本編終了後の3年間、詩島剛が世界放浪の隙を見つけては、刑務所に服役している西堀令子の面会に行っているという、本編を見ていた剛ファンにはなかなかにきつい描写が続く。
 しかも出所する令子のためにチアガールと鼓笛隊をチャーターし、ど派手な照明と花で『出所おめでとう』と賑やかに騒ぎ立てるという、やっぱり石田監督や、期待を裏切らねーなという演出をやってのける。
 というわけで、小説を読んでいない白紙状態でVシネを見に来た女性達には
「え、何、何なの、今何が起こっているの?」
 という蚊帳の外感バリバリのジェットコースター展開である。
 しかも令子が容疑者としてはめられていく謎の連続殺人事件まで起こり、必ず殺された『父親』の娘が発狂状態で高笑いをするという、ホラー演出まである。
 実はホラー・ミステリー映画の大ファンである脚本の長谷川氏、どこまでもおのれの「書きたい物」に忠実である。
 ファンサービスもちゃんとあって、良い所で出てくる進兄さん、なぜか授乳の霧子ねーちゃん、ありがとうございますご褒美ですねとしか言えない、スーツ姿のチェイスのコピー元、狩野刑事など。
 そして怒涛のアクションと感動的な変身バトルに突入していくのだが、私の体は異変の警鐘を鳴らし続けていた。

 うおおおお、腹が痛い、痛い、痛い。なんだこれめっちゃ痛いぞ。陣痛かよこのキリキリ差し込む痛み。冗談じゃないぞ。しかもVシネ、めっちゃいいシーンじゃんか。ほら詩島剛が首を吊られてブラーンとぶら下がってるぞ←なんのこっちゃと思うでしょうが、とてもいいシーンなのです。
 そして涙が隠し切れない力を合わせての変身…

 むりむり無理。もう限界。一番いいシーンだけど、クライマックスだけど席を外すわっ

 私は前から二番目のセンターという願っても無理な席を中腰で立ち、なるべく人迷惑ならないように上映ホールを出た。
 前を通って遮ってしまった方々ごめんなさい。

 化粧室に駆け込み、事なきを得て、胃腸薬と鎮痛剤をキメた私は、飛び出して来た出入り口に戻ってぎょっとした。
 もう大勢のマスコミの方々が大勢列になって、ドア前の通路に待機している。
 私は恐縮しながらドア係のスタッフに囁いた。

「あのう…体調悪くして中座して出てきちゃったんですけど」
「ああ…もう上映中は入れませんので、上映終了後、私がドアを開けたら入ってください」

 そしてマスコミの皆様の前に立って待機することになった。
 何やこいつ、というマスコミの方々の目が背中に痛い。それはそうだ。順番は決まっているだろうから。

 やがて中から主題歌「eternity」の盛り上がり、すすり泣きと拍手が聞こえてきた。
 司会の

「ご観覧ありがとうございました」

 の声と同時にドアが開けられ
「どうぞ」の声と共に私は猛ダッシュ。身を低くして「すみません、前を失礼いたします。申しわけございません」と配線を確認するスタッフのような顔をして自席についた。
 旦那と友人はラストシーンになっても帰って来ない私をたいそう心配していた。

「どうしたの急に」
「気持ち悪くなって(主に下腹部関係が)」

 のやり取りの後、しばしの休憩をはさみ、キャストの舞台挨拶に突入する。
 気が付くと、先程前に立たせて頂いたマスコミの方々が最前列にずらりと陣取り、私と友人、旦那は事実上観客席の最前列である。
 何といい席か。ファンクラブ優先枠で引き当ててくれた九州の友人に大感謝である。

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